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千年前の幻の甘味料「あまづら」


あまづらイメージキャラクター「あずら」

みなさま、こんにちは。
創作系寺嫁のゆかでございます。

さて、「創作系」を銘を打っておりますものの、何を創作しているのかと思われますよね。
小説が基本ですが、切り絵や洋服、刺繍にシュガークラフトなども作りますわたくし、なんと千年前に雅な方々が召し上がっておいでだった幻の甘味料「あまづら」も作っております。

まず、そもそも「あまづら」ってなんぞや?と思われる方が多いでしょう。

『枕草子』の「あてなるもの」の章に書かれております、
「削り氷にあまづらいれて、あたらしきかなまりにいれたる」
という文章が最もポピュラーでしょう。

「削った氷にあまづらを入れたものを、新しいぴかぴかの金属椀でいただくのが上品だ」というわけですから、
要は、かき氷のシロップとして使われていたということです。

枕草子は、平安時代の一条天皇の皇后だった定子に仕えた清少納言が書いた書物ですから、ざっくりと千年前に食べられていたということが分かります。

戦国時代、織田信長が生きていた頃にも、まだかろうじて「あまづら」の記述が残っているそうですが、

その後、中国との貿易が盛んになり、多量の砂糖の輸入が安定したことで、存在すら忘れられた「幻の甘味料」となりました。

食べたこともなければ、作り方すら分からない幻の甘味料「あまづら」。

ぜひとも再現を!と意気込むのは、江戸時代後期の学者たちも同じでした。

おそらく再現に到ったのではないか、とみられる記述もありますが、その製法は残っていません。
多くの史料と同じくなくなってしまったのか、製法を秘匿するために書き記さなかったのか、それとも単にやってみたくてやってみただけだから書き残すという概念すらなかったのか……。

定かではありませんが、ともかく、あまづらの作り方はおろか、原材料ですら「幻」となっていました。

が!!!

1987年、九州の小倉薬草研究会会長である石橋顕氏が、あまづらの際現に成功したのです!!!

そして分かった製法がこちら。

原材料は「ツタ」です。あまづらは「甘葛」と書きますので、「葛」=「ツタ」なのは納得です。
秋に紅葉し、冬には落葉するツタは、樹液を甘くすることで冬の寒さに耐えます。
(水のままであれば零度で凍ってしまいますが、砂糖水なら零度では凍らない、というわけです。)

そのツタから、樹液を取って、煮詰めれば完成です。



文字にするとなんとも簡単なようですが、ちょっと考えてみてくださいね?

直径二センチ以上の太いツタから、少なくとも1リットル以上の樹液を取らなければならないのです。

木の樹液、取り出してみたことがありますか?
どうぞ、お時間ある方は、こちらの動画をごらんください。

20㎝にカットされた細い枝から取れる樹液は、ほんの1滴か2滴です。
それを1リットル集めるのです。

さらに十分の一程度に煮詰めたものが「あまづら」ですので、1リットルで10ml、2リットルで20ml、10リットルでようやく1リットルのあまづらが手に入る、という寸法になります。

さあ、どれほどの重労働かお分かりいただけましたでしょうか。

ここでさらにひとつ、落とし穴があります。
これは、冬、しかも厳冬期にしか十分に採取が出来ないのです。
冬に樹液が甘くなる性質を利用するものですので、当然ともいえます。

寒い中、こんな作業をしなければならないのは大変ですが、昔の人は、春から秋にかけては農作業で忙しいので、冬の空いた時期に甘味料を取って、それを税にできるというのはありがいことでもあったかもな、と私は思います。

さて、こうして「幻」は「幻」ではなくなりました。
少なくとも、製法は、ですが。

しかしながら、1998年、会員の高齢化に伴って、研究会は解散。
その後も、石橋氏の協力を得て、多くの研究機関が再現を試みましたが、「原材料がない」
「作成する場所がない」
「人員不足である」
などの理由により、再現は失敗の連続となりました。

そして、2011年
奈良女子大学にて、ようやく再現の成功を成し遂げました。

更に不幸なことに、2014年6月、石橋氏は亡くなってしまいます。

このままでは、本当にあまづらの存在がまた「幻」となってしまう。

2016年
奈良女子大学で、はじめて、石橋氏不在の中、あまづらの再現が行われました。

主導となったのは、2011年の再現の時に参加した前川佳代研究員です。

それから7年が過ぎ、2023年。

このたび、「あまづら」の人工シロップが完成、お披露目の運びとなりました。
わたくしも、主にHP担当者として、名前を連ねさせていただいております。

来る7月9日、詳細はこちらをご覧ください。


むちゅめがもう少し大きくなれば、戦力として冬の再現実験に駆けつけることができるのですが、それはもう少し先のことになりそうです。

ともかく、2011年から足掛け12年。
コロナという逆風に歩みを緩めながらも3年かけて進めた「甘葛シロップ」の完成を祝って!!

この度、見守ってくださった皆様に感謝御礼を申し上げるとともに、
今宵は大好きな梅酒にて、祝杯をあげさせていただきたいと思います!
かんぱーい♪

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