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スーパーでイカを見ると父を思い出す話

父が亡くなって半年以上が経った。2020年は世界中の人にとって訳のわからない1年だったに違いない。そんな中で父を亡くしたことは、タイミングとしては不幸中の幸いというか、なんかもう全てがカオスの中でドサクサに紛れられた感じはあるかもしれない。身近な人を亡くしたのが初めてだったから他の経験と何とも比べ難いけども。

今でも父の一部と遺影は我が家にあり、日々顔を合わせているけれど、何故か父の存在をすごく身近に感じるのはスーパーで売られているイカを見た時。

父は料理が好きで、とても得意な人だった。

お金にはルーズで仕事も転々とし、社会人としては??という感じだったし、そのおかげで母はかなり苦労したけども、仕事をしてない専業主夫の時期があったり、外回りの営業の仕事をしてる時も営業所が家の近くだったから空き時間には家にいたりすることがあって、中学生くらいの時期、学校から帰ってきて夕方にやってるドラマの再放送を父と一緒に見た思い出などがある。眠れる森にすごいハマってた覚えがある。キムタクと中山美穂が主演のやつ。仲村トオルが演じる役がド級のサイコパスなんだけど、当時はサイコパスなんて概念がなかったから「まじヤバいやつ」だった。

眠れる森を見たことがない人は全力で見ることをオススメするとして、そんな父がよく作っていたのが「イカ大根」だった。
この料理がどれほどポピュラーなものなのかはわからないけど、主に父が料理担当だった我が家で、イカ大根をよく食べていた思い出があるし、今でも好きな献立の一つ。

お袋の味ならぬ、親父の味。

大人になってからレシピを聞いたら、味付けは酒と醤油のみ。それだけで確かに十分美味しい。関東風の見るからに茶色い煮物で、江戸っ子の父らしい。

大人になって自分で料理を作るようになってから、父の料理のうまさというか味付けのセンスの良さに気付かされたものである。

例えば里芋の煮物。シンプルを極めた料理だけど、私がストウブという高級ツールを作ったものよりも、父がただの雪平鍋で作ったものの方が断然美味しい。

中までねっとりとした食感と、絶妙な柚子の風味。料理がうまいなあ、センスがいいなあと唸った。

父の遺骨は海洋散骨にしたので今後1周忌とかなんとか宗教的な儀式はないけど、スーパーでイカを見るたびに「イカ大根でも作るかな」と思い、そのたびに父を思い出す。悪くない。

娘にとって私はそんな料理を残してあげられるのかなと思ったりするけど、現状だと「ゆで卵」に違いない。自己弁護すると、娘は凝った料理(グラタンとか)を一切食べず、素材そのまま系、つまり野菜なら生野菜、肉なら塩で焼いただけ、卵ならゆで卵、最近はさらに好物に刺身も加わって、マジで素材そのものを味わいたい気持ちが伝わってくる。

何回読んだかわからない、よしもとばななの「なんくるない」(無人島に1冊だけ本を持って行けるとしたら私は迷わずこれを選ぶ)。単行本に収録されている中で私は「ちんぬくじゅうしぃ」という短編が一番好きなんだけど、その中の一節で『だって思い出があるでしょ?家族の思い出が。つまんないことでいいのよ•••いっしょに台風を見たとか、みんなで食当たりになってお粥食べただとか、くだらなければくだらないほどすばらしいのよ。後になってみるとね。どうでもいいことがいちばん強くてあったかくて、深刻なこととか理屈なんて大切なように思えても。そういうちっちゃい思い出に比べたら、全然へなちょこなのよ』というのがあって、あまりに的確で読むたびにびっくりする。

いやはや、腰が抜けるほど真理。

そんなこんなで今年の目標は健康第一、そして本のしおりをなくさないことです。頑張ります。

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