『ボクたちはみんな大人になれなかった』を読んだ

発売日に地元の小さな本屋さんに駆け込んだ時は、そもそも燃え殻さんの本は取り扱いがないと言われた。取り寄せてもらう算段をつけて、その週のうちには届くだろうと思っていたら、各所で即日売り切れ、即重版となっていた。

本の奥付が第二版となり、私も落ち着いてようやく件の本屋に行った土曜日、発売日には取り扱いのなかったこの本が、私の取り置きのほかで一冊だけ、人気本のコーナーに置かれていた。新潮社のTwitterアカウントが伝える盛況ぶりよりも、その本屋の台に置かれた一冊のほうが、燃え殻さんの確かな人気を私に教えてくれた。

人生を変えるのは、一冊の本や映画だけじゃない。
名前も知らなかったような人との交わりで、少しずつ自分が形作られている。この本はそういう本だったと思う。

だから、時代も境遇も全然異なるのに、ボクと私に一緒の部分が見つかる。
ボクが青春を過ごした1990年代後半に私はまだ保育園児だったし、今の自分は当時ボクと年が近いけれど、いまだにラブホテルに入ったことがない。
でも、ありえたかもしれないifの先に、ボクのような生き方があったのではないかと思わされる。

それは、私の20数年の中にも、ボクと同じように人生を変えた「ふつうの人」がいるからだ。いじめを救ったヒーローでもなければ、命を助けてくれた人でもない。でも、人生が交差したこと自体が今の私を作っている。そういうひとがいるからだ。

私の人生にの中には「もしもあの時あんなことを言わなかったら・・・」ということばがある。
それを発した当時は思いもしなかったのに、振り返ってみると分岐点となってしまっていた。そして、もう二度と会うことはできないだろうその人に、今の私は影響を受けている。もし、その人と出会うことがなかったら、今の私はきっとなかった。

そのひとは、
私の大好きなBUMP OF CHICKENでもなく、
糸井重里さんでもないし、
Catcher in the Ryeの中にも出てこない。

尊敬しているわけでも、ずっと追いかけてきたわけでもない。でも、そんな人が私の人生の一部分になっている。きちんと、なってしまっているのだ。

生涯に一人が出会う人の数は、87,000人強だと聞いたことがある。87,000人とあった数だけ人生のifがあり、出会ったら出会った分だけ、出会わなかったとしたら、出会わなかった分だけ、人生が変わっていく。もしかしたら、それに気が付くのは、人生が交差してから2,30年とたったあとの話になるかもしれない。

ボクたちはみんな大人になれなかったは、それを丁寧に描いた話だと思う。特に、クリスマスの日の出来事が私は好きで、人生の中で忘れられない人はもしかしたらああいう形で出会う人のことなのかもしれない。

87,000人のうちの1人が、今日のぼくたちを作っている。
そんな一人の存在で人生が変わってしまうような人生を生きている。私たちの人生なんてそんなもんだけれど、そんな人生が面白くて生きているのだ。
この本は、元気をくれるわけでも悲しみを拭い去ってくれるわけでもない。でもこれからも本棚のなかで、その人生のおもしろさとさみしさを教えてくれるんだと思う。

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