読書感想文①『ナイフ』
アルバイト先の大掃除中、偶然見つけた本。処分されるから、ともらってきた重松清さんの『ナイフ』。
心を常にナイフの先端でぐりぐりと抉られる。読んでいる最中は生きた心地がしなかったけど、ページをめくる手は止まらなかった。
用事がある場所へと向かう電車で読み終わらなかったので、最後は結局駅のベンチで見届けた。
登場人物は、小学生、中学生、働く大人たち。ただ、 全員に共通していたのは何かと闘っているということ。いじめ、パートナーとの軋轢、 親子の確執。
描かれているのは常に、 自分の身の回りの小さな世界。だけど、その小さな世界の中ですら、ヒーローみたいな鮮やかな逆転劇などない。むしろ、勝ち負けで二分するなら負けている。
この本の中で自分の力で世界が思い通りに動くことはない。はたから見ると、あまりにも無力な人たち。その人たちが物語の中で紡ぐものがただ一つあるとすれば、前進したのかどうかもわからないようなかすかな一歩だけだ。
心の安寧も完全に平和な世界もやってこないけれど、前とは少し違って見える世界。でも、現実の世界だってそうやって私たちは世界を作り上げている。
大きな前進も華々しい成果もなく、折り紙のような薄さの毎日を積み上げていくだけだ。
『ナイフ』は、そのことが丁寧に描かれている作品だった。特にいじめの描写がとても克明に描かれており、読み飛ばしたくなるようなページも多い。何回か薄目で読んで飛ばして、時間をおいて戻った場面もある。にもかかわらず絶望では終わらずに、登場人物たちのだれにも明日を見ることができた。
喜びに満ち溢れ、毎日ハッピー! そんな日々ではないけれど少なくとも生きて毎日は続く。そのことが救いとなる、そんな物語だった。
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