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テラジア オンラインウィーク2021 [日本語]

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テラジア オンラインウィーク2021に寄せた4つの読みもの。11月19日(金)から順次公開。テラジアの魅力をより深く知り、味わうために、作品鑑賞のお供としてぜひご一読ください。
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記事一覧

往復書簡:テラとTERAの音楽をめぐって④(音源付き)グリット・レカクンより最後の手紙

by 田中教順、グリット・レカクン ひとつ前の記事を読む 最初から読む 第六便:グリット・レカクンより 教順さん、こんにちは。  私の中では、私たちは音楽と仏教や、タイ人と日本人の音楽の違いを議論しているわけではないと思っています。実際、私たちは人間で、人類の創造と発展において、世界の文化の下にいます。ですから、タイの『TERA เถระ』や日本の『テラ』で表現された音楽は、グローバル化した世界における私たちの文化や経験を表しています。ゴージャスな音楽、美しい音楽、はた

往復書簡:テラとTERAの音楽をめぐって③(音源付き)田中教順より最後の手紙

by 田中教順、グリット・レカクン ひとつ前の記事を読む 最初から読む 第五便:田中教順よりグリットさん 再び大変興味深いお返事をありがとうございます。 前回の自分のメールは諸々と説明が不足していた気がします。その結果グリットさんを多少戸惑わせてしまったかもしれません。なので、前回した話を少し補足させてください。 まず、僕が『テラ』の音楽の面でなるべく避けようと思っていたのは「ゴージャス」と「シリアス」だった、と表現したほうがわかりやすかったかもしれません。 日本の演

TERASIAに外部観察者として関わるとはどういうことか?

Text by 田中 里奈(興行研究者/明治大学 助教) 序に代えて  「テラジア オンラインウィーク2021」への寄稿は打ち合わせから始まった。最初、「テラジア隔離の時代を旅する演劇」(以下、「テラジア」と略記)というプロジェクトが、演劇研究者の視点から見てどう思われるかを文章化してみないか、と坂田ゆかりさんからお話しを頂いた。それは坂田さんからたびたび問われてきたことだったので、一度言語化するべきとは思った。だが、いま「演劇研究者の視点」で語れるほど、私はプロジェクトと

往復書簡:テラとTERAの音楽をめぐって②音楽と寺/仏教の関係

by 田中教順、グリット・レカクン 前回の記事を読む 第三便:田中教順より グリットさん 研究活動でお忙しいところご返信いただきありがとうございます。 とても興味深いお話、拝読させていただきました。TERAタイ編の音楽はタイの音楽をベースにグリットさんが作曲されたものなのですね。おっしゃる通り、タイという国の雰囲気を表しながら、同時にどこか他の場所や国にいるような不思議な感覚にもさせてくれる、素晴らしい音楽でした。グリットさんが目指した音楽的効果が見事に表れていたと思い

地獄の唱導と芸能―絵解き・落語・芝居/後篇

書き手:渡 浩一(明治大学国際日本学部教授) 表紙:「十界双六」(国立国会図書館所蔵) ⇒前篇はこちら 地獄巡りの物語とその絵解き 仏教の唱導活動によって地獄の具体的イメージが広まってくると、地獄巡りなど地獄を舞台としたさまざまな物語も生まれ、そうした物語も多く絵画化されて絵解きされてきた。  たとえば、大和郡山市の矢田寺の『矢田地蔵縁起』は、受戒を望む閻魔王の招きで閻魔王庁に招かれ王に菩薩戒を授けた満米上人がお礼に地獄見学をさせてもらい、現世に帰還後地獄で出会った地蔵

地獄の唱導と芸能―絵解き・落語・芝居/前篇

書き手:渡 浩一(明治大学国際日本学部教授) 表紙:「十界双六」(国立国会図書館所蔵) はじめに 思いがけないご縁に導かれて、『テラ 京都編』の記録映像を視聴し、観劇の趣味などまったくないのに一文を寄稿させていただくことになった。  正直、映像を視聴しての印象は「わからない」であった。しかし、何となく面白く感じ興味をひかれた部分があったことも事実である。一つは『テラ』の活動全般に関わることだが、場所が寺であること。仏教・お寺と芸能との歴史的因縁を思った。一つは井戸から堕ち

『TERA เถระ』字幕の裏側から

Text by: 千徳美穂(日タイ舞台芸術コーディネーター/『TERA เถระ』日本語字幕担当) 結論から言えば (そう、最初に結論から入る上、ネタバレ満載のこのnoteは一度は作品を観てから読んでいただくことを推奨します) 、この作品は「死」がテーマだ。とはいえ、重苦しさは微塵もなく、癒しすら感じる自然で穏やかな空気に満ちているのは、タイで生まれた作品だからと言えるのかもしれない。タイの国民は9割以上が敬虔な仏教徒であり、ほとんどの人が輪廻転生を信じている。三島由紀夫の

往復書簡:テラとTERAの音楽をめぐって①音楽家の役割と「伝統」音楽

by 田中教順、グリット・レカクン 第一便:田中教順よりグリットさんへ  今回「テラジア オンラインウィーク2021」に際しまして、『テラ』東京編と『テラ 京都編』で音楽を担当した自分と、タイ編『TERA เถระ』で音楽をご担当されたグリットさんとの間で音楽についてお話できるという素晴らしい機会を頂き、とてもありがたく思っています。この往復書簡を通じて、お互いの音楽のインスピレーションについてやり取りすることを楽しみにしています。  『テラ』東京および京都編とタイ編と