「ともしび選書」をいただきました。 ②

さて、そんなわけで久しぶりに本を一冊を読み切りました。
届いた本を見て初めに思ったのは、
「思ったより薄い…!」
せっかくお勧めしてもらったのに読み切れなかったらどうしよう…という一抹の不安を抱えていたので、思わずほっとしてしまいました。と同時に、表紙の紙質や色合いがとっても素敵で、わくわくしながら本を開きました。

6月1日からはじまるくどうさんの日記。
この本ができるまでの背景など何もわからないまま読み進めていくと、どうやら毎日料理にまつわることを書いている。くどうさんは大学生で、一人暮らしをはじめたばかり。ちょうど半年前に唐突に一人暮らしを始めた頃の自分を思い出して、すこし切なく、懐かしくなりながらページをめくりました。

書いているのが6月の1ヶ月というところもいい。なぜなら6月はわたしの誕生月だから。誕生日の4日はどんな話かな、と思ったらお粥のお話。わたしの名前、逆から読むと「かゆ」だからぴったりだね、と無理やり繋げてちょっと嬉しくなる。

一冊を通してわたしが思わず声を出して笑ってしまったのは、ホームベーカリーの音を

「時折『ンノノノノノ!』と叫んだり」 

と表現していたところ。
ホームベーカリーは使ったことがないけれど、きっとそういう音なんだろうなあ、と妙に納得できて面白かった。

出てくる料理がどれも美味しそうで、一人暮らしなのにきちんとごはんをつくっていてえらいなあ、と思う。

わたし、実家にいた間はまったくといっていいほど料理なんかしなかった。唯一留学中の1年弱くらいは初めて実家を離れて、それなりに自炊をして生活してみたけれど。あの時はアメリカのだだっ広いスーパーで何を買えばいいかもわからず、初日にとりあえずジュースとパンとかを買って、十分に食材も買い揃えられない自分が情けなくてちょっと泣いた。

それ以来、4年ぶりくらいの自炊生活。美味しいかどうかは置いておいて、ずぼらなわたしでも、料理をすることはそんなに苦ではない。むしろとても楽しい。

自炊を始めて気づいたのは、食材を切ったりまぜたり焼いたりして、最終的に料理という「成果物」が出来上がるのがとても嬉しい、ということ。よく考えると、今の生活で自分の行動や努力がわかりやすく形に表れるものなんて、他にあったかなあ。

仕事はがんばっていても形に残るようなものはないし、絵を描いたり編み物をしたり、というクリエイティブな趣味もない。訪れた場所の写真はカメラロールに溜まっても、それは自分が「作り上げた」ものとはちょっと違う。たまに友達とスタジオに入って演奏をしても、音は流れてしまうし、自分が観客になることはできない。そう思うと、ささやかではあるけれど自分の手で素朴な食材が料理として目の前に「できあがる」とき、なんだかすごく達成感というか充足感を味わえて、うれしくなる。

特に、料理を始めたばかりのわたしは毎日が新しいメニューへの挑戦なので、やってみたら意外とできるんじゃん、と思えるのがうれしい。

「菜箸を握るのが楽しいと思えることは、きっとすこやかに生きていくうえで武器になると信じている。」

この一文を見たとき、そっと背中をなでられたような気分になった。
友達と外食もできず、ひとりでつくった料理をひとりで食べる生活は、どことなく寂しいなあ、と後ろめたい気持ちすらあったけれど、わたしはいま、菜箸を握ることが楽しい。楽しめていることは、しあわせなことなんだ。

そういえば、一人暮らしを始めたばかりの頃、自分でつくった料理があんまり美味しくなかった。単に下手だから、ということもあるかもしれないけれど、なんとなく、「おいしくない」よりは「味気ない」という感覚だったと思う。そんな中、友達の家に遊びに行ったときにつくってもらったごはんがめちゃくちゃ美味しくて、「人につくってもらうごはんってこんなに美味しかったのか…」と驚いた。

「ごはんがあんまり美味しくないかもしれない」と気付いたときに、わたしはずっと無視していた心の中の「寂しい」という気持ちを自覚した。

両親に相談もせず、悩む暇も不安になる暇もなく勢いで始めた一人暮らしで、とにかく日々を生きなきゃ、ひとりでもきちんと生きなきゃ、という気持ちでいっぱいだった。この歳で一人暮らしなんて大げさなことでもないし、できるだけさらっと、ひとりなんてへっちゃらだよって思わせたかった。でも、たぶんずっと寂しかったんだろうな。

最近引越をしてふたつ目の家で一人暮らしを始めたけれど、今はあんまり寂しさを感じない。在宅勤務の合間にまた新しいメニューに挑戦しては、「うま!」って言いながらひとりで何食も食べている。

感想を書こうとして気付いたのだけれど、わたしは作品そのものの内容についてあれこれ考察したりするよりも、その作品を通じて自分が何を感じたか、何を思い出したか、を考える方が好きみたい。

そして、今回これだけいろいろと考えを巡らすことができたことが、紛れもなくこの本の魅力を表しているのかなあと思います。
素敵な本と記憶との出会いを、ありがとうございました。

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