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「療育を謳わない」という選択

『「療育をしない」が正解だった』・・・ツイッター界隈では議論となっていた記事を読んでみた。正直な感想を言えば、ごく当たり前のことを言っている印象もあるが、議論となるのは、「療育をしない」という一方的な結論に対しての『拒否反応』といえるかもしれない。記事の書き方なのか?それとも、あえてそういった発言をすることで、注目を集めたいだけなのか?または、『療育信仰』ともいうべき状態に対するアンチテーゼなのか?正直に言えば、こういった事業所があっても良いし、逆にすべての事業所がこうなってもらっても正直困る。そもそも論だけど、『すべての子に当てはまる支援なんて、この世には存在しない』という立場からみると、どちらも必要な視点であり、立場なのだと思うのだ。

というのも、「療育を謳わない」ということについては、実は私たちが運営する事業所にも求めていることだからだ。であるならば、いわゆる「支援」という面で療育を行なっていないか?と言われればそれは嘘になると思う。

ある専門家の方からは、私たちが考える支援に対して、以前、「ABAをやっているんですね!」と評価されたこともあった。あ、なるほど、ABAでは、こういったアプローチでやるのか?と後になって気がついたこともあったが、かといって実際には、すべての人に同じ支援を行なっているわけではない。単に、その子にあわせたアプローチをしていこうと、みんなで考えて努力してきただけだったのだ。新人に「研修会」に安易に行かせるのはせずに、まずは、私たちの法人の考え方を理解するところから始めたことが功を奏したのかもしれない。「学んだこと=それが正解」ということが全てではないという意識がこの業界には必要なのだ。数学の計算の様にはいかないのが、この仕事の難しさでもある。

学びは大切。でも、学んだことで、通り一辺倒の支援になるのは、子どもを苦しめることにもなりかねない。実際に、そう思う様になった出来事は、過去にたくさん体験してきた。臨床心理の専門家が、(まるで餌付けのような)子を管理・脅迫するような発言を療育と称して平気で行なっていたり、本人は嫌がっているのに、構造化と称してすべてを段ボール部屋にして、ひとつひとつの動作を行う環境を強制したり(おいおい、これを家庭でしろっていうのかよ〜)、専門家と称して、家族背景などを完全に無視して、最後には、「オタクのお子さん、将来犯罪者になりますよ!」とか平気で口にする医療機関に勤務する専門家もいた。専門家以前に、「お前、何様だよ」と言いたくなる支援者が数多くいたなぁ。

2時間かけて、食事を取らせていたが、その子が嫌がって床に投げたものを、全部、拾わせて、食べる様に強制していた支援者もいた。そんな姿も当時は、「そういうものなのか」と思う様にしていたが、その時の無知な自分ですら、『こんな支援は絶対におかしい』と感じたからこそ、「私たちの考える支援をする事業所」の設立に向けて取り組んできたのが、今の本体事業所なのだ。そして、そのような経験を先にしてしまうと、「一体、療育ってなんだろう?」と思うし、であるならば、私たちは、その人に合わせた支援を考えていきたいから、「療育を謳うことをやめよう」と考えるようなってもおかしいとは思わない。

『そもそも、療育とはそういったものではない』ということも理解できる。多分、そういったものではなく、本当にもっと、柔軟かつ根本的なものだと理解している。でも、例えそうであっても、私たちが『療育を謳わない』選択をしているのは、私たち自身が、うまくいかないこと等に対して「支援のイデオロギー」を子に強制しないようにするためでもある。『支援技術は時に暴力にもなる』とうのが私が行き着いた結論でもあり、だからこそ、その子に思いを寄せる、合わせる努力を怠ることはできないのだと感じているのだ。

くれぐれも、療育や専門性を否定しているのではないことは言っておきたい。私たち支援者が謙虚でい続けるための手段として、「療育を謳わない」という選択をしているだけなのだ。反面、私たちの運営理念は掲げるようにしている。自分たちは、「いつも笑顔でいること」「常に専門性を持って支援にあたること」「本人との特別な関係性を構築すること」などなど。これらも、正解ということではない。あくまで、ご本人やご家族が何を優先させたいのか、あくまで選択しやすいように情報提供を行なっているだけなのだ。中身のない事業所は、専門性や療育を謳ったところで、利用者はついてこないし、そういった上っ面の支援は、いつしかボロが出るということも理解してのこと。

そうであっても、私たちは「発達支援(療育)」をしているのだと思う。だから、「療育をしない」のではなく、「療育を謳わない」が、私たちにとっての正解なのかもしれない。


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