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らーめん作りに学ぶ

自身が料理人を志すことを決めたきっかけの一つに、感動的に美味しかったらぁめんの存在がある。

素材の味が存分に引き出され、滋味深く余韻が残る奥行きのある味わい。一杯に込められた優しさが身体全体に染み渡るようならぁめんだった。

“Homemade Ramen 麦苗”のらぁめんは特に絶品で、寺子屋に参加する前は毎週末足繁く通っていた。

偶然にも6月の中旬頃に島内でラーメン大会が開かれるそうで、思い入れがあるラーメンという料理を自ら作る機会が巡ってきた。

当日に向けて、この1ヶ月は毎週末ラーメンの試作に取り組んでいる。

今回は自身の備忘録も兼ねて、試作の過程と得られた気付きを簡単にまとめたいと思う。

試作の過程

今までは食べることを専門にしてきたため、作ることに関しては全くの未経験。まずは参考書やインターネットで得たレシピをもとに見様見真似で試作をした。

ラーメンを構成するのは、麺・スープ・タレ(カエシ)・トッピング・香味油になるが、今回は全ての自作に挑戦するため、一から学ぶことがとても多い。

例えば麺について。材料は基本シンプルで、強力粉、塩、かん水のみだが、強力粉に対する加水率(他の材料の比率)や麺の太さで出来上がりの食感が大きく変わる。加水率が低いほど歯切れの良いパツっとした食感となり、高い程ちゅるっとした食感になる。この加水率が1%変わったり、麺の幅や厚みが0.5mm変わったりするだけで、出来上がりの印象が全く異なるものになるのだ。

これが麺だけでなくスープ、タレ、トッピング、香味油と微妙な変化で味わいが変わる要素が多いのだから、考えなければいけないことが膨大にある。考えることの多さに戸惑いながら、材料を取り揃えて醤油ラーメンを作った。

1回目の試作では鶏ガラベースのスープに魚介出汁を加え、3種類の醤油を使ったタレを合わせた。

麺は違いを比べるため、加水率37%-39%のものをそれぞれ試作。麺を作る際の水回しと呼ばれる作業が出来上がりの80%を左右するとも言われており、生地を捏ねずに全体へ水分を行き届かせるのが難しい。出来上がった麺帯はパスタマシンで伸ばしてカットしていく。(写真:水回ししたあとの状態と製麺後の麺。)

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試作したラーメンは同期の3人にも食べてもらい、味の印象など感想をもらった。身近に意見を聞ける仲間がいるのはとてもありがたい。

最初の試作の個人的な感想は、旨味、香り、風味がどれも不足しており、スープ・タレ・麺の分量もバランスが整っていなかったことから、味もイマイチなものになってしまった。

1回目から上手くいくとは当然思っていなかったが、何をどうすれば良くなるのか具体的な方法やアプローチの仕方も分からず、これ程までに難しいものかと頭を悩ませた。

スープの旨味の引き出し方や全体の味のバランスに1番の課題があると考え、改善できそうなポイントや味に影響を及ぼす要素を列挙し、一つ一つどうすれば良くなるのかを調べていく。2回目以降の試作では、①旨味成分の比率を考え素材の分量を変える、②温度計を使いスープを炊き出す際の温度と時間管理をしっかりと行う、③Brix濃度計と塩分濃度計を使い味のバランスを確かめるなど、具体的な数値や毎回の条件を記録することで改善のポイントを見極められるよう工夫した。

3回目の試作で作った醤油ラーメン。1回目の試作に比べ一つ一つの出来は良くなってきた。ようやく目指すべき形の輪郭が見え始めたが、まだまだ全体でのバランスが取れておらず、完成には程遠い。

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特にスープ作りはとても難しく、旨味や香りを十分に引き出し、深い味わいを作るのは長い道のりになりそうだ。

次の試作ではスープの素材や炊き出し方を変えてアプローチしようと思う

らーめん作りを通しての気付き

1. 料理へのアプローチ

一からのラーメン作りを通して、料理のアプローチの仕方を考えさせられた。目指したい味を先に決めて逆算的に組み上げていくアプローチと、主役となる素材を先に決めて、最大限に良さを引き出せるよう組み上げていくアプローチ。そのどちらもが大切で、料理のコンセプトや考え方が定まっていないと改善の方向性も定まらない。もう一つ料理を作る上で大切だと感じたのが、自分が料理に込める想いや意図だ。何故その料理を作るのか、食べたあと何を感じ、どういった気持ちになって欲しいのか。それを伝えるために工夫を重ねていく。

2. 料理と味の理解・解像度を高める

目指したい方向が決まっていても、理想と現状の差分が何なのか、何から生じているのかを捉えられなければ前進できない。この点は今の自分が最も苦労している点で、理想とする味のイメージがざっくりとあっても何をどう変えれば良いのか、何が足りないのかが具体的に分からず全てが手探りの状態だ。理想とする味がどんな要素からなっているのか、分からないなりにも一つ一つ言語化し解像度を高めていく。回数を重ねて経験していくことはもちろんだが、料理の理解度・解像度を高めることがまずは前進する上で大切な一歩だと感じた。

3. 知識は必要最低条件

理想と現状のギャップを埋めていくためには知識と経験が必要だ。美味しい料理を作り上げるためにはその裏にある理論や方法を正しく知り、実践する必要がある。当たり前のことだが、知識がなければ良いものは絶対に作れない。例えば今回の3回の試作を通して、以下のような知識を得た。

・スープの水は軟水のほうが旨味の抽出率が高く効率が良い
・食材料に比べて水の量が多いほうが浸透圧の原理が働くため旨味を抽出しやすくなる一方、水分量が多くなるため濃度が上がりにくくなる
・鶏ガラに含まれる血液にも旨味が残っているため、下茹でで灰汁や汚れを取り除くと一緒に旨味成分まで溶け出てしまう
・鶏ガラスープは95℃〜98℃の温度帯が最も旨味が抽出でき、1℃単位で香りや旨味の強弱が変わる
・グルタミン酸×イノシン酸の相乗効果は配合比が1:1に近いほど旨味が強くなる
・タレとスープの比率は1:10で仕上がりの塩分濃度は1%が黄金比と言われており、最も美味しさを感じやすい

など、他にも多くの情報を得ながら毎回の試作で実践を繰り返し、知識と経験を自分のものにしていく。この知識と経験の量と質がより良い料理へと還元されるのだろう。

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らーめんは考える要素がとても多く、全体のバランスをとるのがとても難しい繊細な料理だ。

作る側の立場になることで、一つの料理を完成させるのにどれだけの試行錯誤があるのか、その凄さや尊さを思い知った。人を感動させられるような料理は、料理人の壮大な時間と想いが込められた命の結晶なのだと思う。

自分が納得できるものを作れないのはもどかしいし、悔しく悲しい気持ちにもなる。理想の一皿を作るためには一つ一つ改善を重ねて研鑽する他ない。終わりのないプロセスで途方もなく感じる道のりだが、だからこそ料理は面白いのだと思う。

時間は限られているが、出来る限り良いものを届けられるように頑張りたい。目指す理想ばかり高いが、まずは美味しいものをしっかりと作れるように。

最終的にどのような仕上がりになるのか、また次の機会に伝えられればと思う。

(文:鈴木)