SAKANAQUARIMU 「光」はとんでもないライブだった

サカナクション初のオンラインライブが終わって、今はじんわりと余韻に浸っている。このとんでもないものを見たなぁっていう感覚は久し振りだ。


前置きはこのくらいにして、昨日今日で視聴したサカナクションSAKANAQUARIMU 「光」の感想を綴っていきたい。


一応断っておくと、ライブのセットリストにがっつり触れながら書いていくので、アーカイブ視聴を予定している方はそれをご了承の上で見ていただければと思う。あとは、メモを軸に率直に綴った感想なので、そこまで踏み込んだ内容にはなっておりません。


今回の配信ライブは屋外から始まる。自動販売機の前で何かを見つめならが立ち尽くす一郎氏の姿が映るこのシーンだが、見た瞬間にとある楽曲のMVを思い出した。 この楽曲に関してはライブ本編でも登場するので、あとで触れる事にする。

缶コーヒーをゴミ箱に捨てて、ライブ会場へと歩みを進めていく。そのタイミングで『グッドバイ』 「世界 世界」とコーラスを奏でるメンバーの中に加わっていく。

今回のライブはヘッドフォンで視聴したのだが、この『グッドバイ』でそれは正解だったと買う新下。とにかくコーラスが心地良いのだ。暖かさと優しさに満ちたように「世界 世界」と歌われるコーラスの中に思わず身を委ねてしまいたくなるような心地良さだ。この感覚は音楽に優しく包まれるといっても良いくらい、心地良いものだった。

2曲目は『マッチとピーナッツ』。先ほどの心地良さとはガラリと雰囲気を変えて、不気味な世界観へとぐいぐい引き込んでいく。ここでライゾマとの映像演出が登場したのだが、妖艶な女性が写り込んだループ映像がVJのようにメンバーを映し出した映像に重ねられていく。

この映像とのシンクロがよりこの『マッチとピーナッツ』の楽曲の不気味さを増しているかのようだった。終わりの見えないループ映像の中で怪しく揺蕩う『マッチとピーナッツ』のメロディラインに合わさるこの演出は今回のライブの中でも多く見られた楽曲を魅せる(見せる)役割を担っていたように思う。

そんなジメッと湿った『マッチとピーナッツ』に続いて披露されたのが、『聴きたかったダンスミュージック、リキッドルームに』だ。先ほどのような不気味な演出は終わり、バンド形態のシンプルな演出とカラッと乾いたようなメロディの雰囲気に抜けきった開放感が漂っていたように思う。いつもこの曲を聴くと、不思議と身体が動き出してしまうし、振り付けも真似したくなってしまう。

またこの曲で一郎氏のリバーブのかかった声が自分の身に付けているヘッドフォンを駆け巡るかのような音の演出には思わず鳥肌が立った。見た目はシンプルな分、今度は音で楽しませてくれる。

続く4曲目は『ユリイカ』。ここでは草刈姐さんのコーラスが冴え渡る。そっと優しく寄り添うかのように「いつ終わるかな」と歌うその歌声に気持ちが癒される。これもヘッドフォンで聴いておいて間違いはなかった。

そして『ユリイカ』での魅力はなんと言っても映像演出だろう。ライブの中では定番とも言える「東京」と「小樽」の映像がメンバーを被写体の1つとしてステージに大きく映し出される。この2つの街の映像のシンクロに初日視聴した際、思わず涙してしまった。

それは主観もあるのだが、ここで映し出された映像はどうしてもコロナ禍で失われてしまった今までの「日常」を思い出してしまうのだ。そのようにかつての「日常」を振り返っていく中で、どうしても生き急いでしまうこの毎日はいつ終わるのだろうというこの『ユリイカ』の歌詞が突き刺さってくる。「このコロナ禍はいつ終わるのだろう?」「あの日常はもう戻って来ないのだろうか?と楽曲が今のこの状況に対して絶妙にシンクロしてくる。

そんな中で歌う一郎氏の姿を見て、いつ終わるか分からないこの日々でもいつか終わる事を願うような祈りだと思った。楽曲が描いていたであろう主題を超えてはいるが、この『ユリイカ』ではこのコロナ禍と映像、そして祈るように歌う一郎氏の姿が重なって見えて、僕は涙が止まらなかったのだと思う。

『ユリイカ』で培ったグルーヴで続くのは『ネイティブダンサー』。メンバーの白色の衣装の上で踊るかのような照明演出がただ美しい。メンバーの身体にレーザー演出が溶け込んで、ステージと一体化するような演出はずっと見ていたいくらいだ。

そんな光の美しさは続く『ワンダーランド』でも健在だった。イントロで光にそっと手を差し伸べる一郎氏の姿を見て、理由は分からないけれど、僕はその中に「希望」を感じ取った。淡い光の中で、『ワンダーランド』の世界観を紡ぎ上げていくその姿がとっても美しい。

終盤では、サウンドだけでなく、映像の中にもノイズが登場する。本来、ノイズは余計なもの、邪魔なものだという印象があるが、ここではむしろノイズとの共存が良い。ノイズの中でも拮抗するかのように変わらず奏でられる歌声とメロディーがそこにはある。ノイズとノイズではないもののせめぎ合いによって生じる美しさに僕は胸がグッと掴まる。そしてそんな中でも変わらず力強く放たれる光の演出に鳥肌が立つ。

今回のライブを通じて、この演出のおかげでより好きになったのがこの『ワンダーランド」だった。

『ワンダーランド』の次に披露されたのはまさかの『流線』だった。しばらくライブでは耳にしていなかった印象なので、この選曲には正直驚いた。

今までの演出とは雰囲気を変えて、暗めの暖色の照明だけというシンプルな演出だった。だが、そういった演出だからこそこの曲の歌詞が持つ言葉の響きの面白さに気が付けたように思う。シンプルに言葉を繰り返していく中で、少しずつリズムが生まれて、うねりを生み出すかのようだった。『流線』の歌詞が持つ言葉のダイナミズムを体感する事ができた。


続いて披露されたのは『茶柱』。こちらも『流線』同様に暖色の照明が用いられたのだが、若干異なり、ステージ上にいくつかの行灯がセッティングされている。行灯が置かれる事で暖かさが可視化されるかのようで、楽曲が持ち合わせていた暖かさというかホッと落ち着く穏やかなムードが漂っていた。

そんな暖かさに満ちた『茶柱』に続くのは『ナイロンの糸』。サカナクションの楽曲の中でも大好きなこの曲への繋ぎは堪らなかった。改めて聴き直して見ると、『茶柱』も『ナイロンの糸』も同じような暖かさを持っている楽曲だから、違和感なく繋がったのかもしれない。ここに関しては引き続き考えていくとして、この『ナイロンの糸』も映像演出が美しかった。


どこか切ない雰囲気を醸し出す女性とそれを受け入れるかのような円を描いた海のコントラストが今でも脳裏に焼き付いている。やっぱり『ナイロンの糸』が大好きだ。


この後の『ボイル』が今回のオンラインライブでの1番のハイライトだ。じっくりと言葉とメロディーを積み重ねていって最後に解き放つ楽曲の展開がずっと好きなのだが、今回のライブ配信を通じて、よりこの楽曲に愛着が湧いた。

ラスサビのタイミングでステージ後方の壁が開き、光が見えた瞬間は忘れられない。扉が開いていく中で広がりを見せていく光の力強さに感情が揺れに揺れた。あの力強い光の美しさの中で披露される『ボイル』の美しさにも涙が溢れてきた。

いつものサカナクションのライブの展開で考えるのであれば、ここまでが「中層」だろう。「中層」の楽曲たちは演出と二人三脚でその楽曲の世界観を拡張していたように思う。


「中層」を終えて、「浅瀬」の始まりを告げたのは『陽炎』だった。ここでは今までのステージを飛び出して、スナックへとその舞台を変えていく。今までと雰囲気をガラリと変えた『陽炎』だけでも十分に気持ちは明るくなるのに、そのステージも変わる事でよりライブへの気持ちは高まる。いつも以上に「かーげろう かーげろう」の部分のこぶしが効いていたので、この『陽炎』は何となくだけど、演歌っぽいなと感じた。

その後『モス』『夜の踊り子』『アイデンティティ』と「浅瀬」のアップテンポが繰り広げられるのだが、ここでは引き算の演出が効果的だったように思う。本来の楽曲が持つポテンシャルを活かすために、あえて余計な演出を盛り込まず、バンドとしての姿をきちんと見せる事でいつものライブで気持ちが高まるあの瞬間と同じ気持ちを感じた。

ステージ上のメンバーもまるで目の前に観客がいるかのように煽ったり、手拍子をしたりとあのライブの光景が画面の中に存在していた。いつものライブの延長線上にあるかのようなシンプルな演出に思わず身を乗り出して、振り付けや手拍子を真似した。

続く『多分、風』は音の広がりを再確認できる時間だった。イントロとラスサビ前のコーラス、びゅうびゅう吹き荒れる風の音に鳥肌が立ちっぱなしだった。改めて、この『多分、風』はライブ映えする楽曲だと確信した。

そんな『多分、風』に続くのはまさかの『ルーキー』。『アイデンティティ』からの『ルーキー』という定番の繋ぎを終えて、『多分、風』という新しい繋ぎを見つけたのにも関わらずここからさらに『ルーキー』に戻るという展開は予測していなかった。

『多分、風』が持っていた疾走感をそのままに『ルーキー』へと勢いよく突っ込んでいく入り方には新しさも感じたけれど、違和感はなく、すっと入って行った。カオスティックな雰囲気の中に勢いよく突っ込んでいくそのスピード感が堪らなく好きだ。これからのライブの新しい定番であって欲しい。


続く『ミュージック』『新宝島』『忘れられないの』とライブは終わりに向かっていく。これらの楽曲の中で印象的だったのが、メンバーの表情。特に2日目の今日の方がよく分かったのだが、プレッシャーから解放された、ライブを純粋に楽しんでいるかのような表情をしている。初日はどんなライブになるか分からない不安もあっただろう。そんな不安を乗り越えた先の楽しさに到達できたようで、一ファンとしても彼らの表情を見ているのが何よりも嬉しかった。

そしてライブのエンドロールと共に披露されたのが、『さよならはエモーション』だった。この瞬間、ライブ冒頭でのMVのオマージュはそういう事だったのかと納得した。『さよならはエモーション』の中で歌われているこれから先も闇の中を歩み続けていくよという主題は今のサカナクションに通ずるものだったのだ。今回の配信ライブはこの楽曲で終わるけれど、あくまでこれは通過点の1つであって、これからも先も見えない闇を切り開いていくよというこれからの決意でもあるのだ。

こんなに凄い配信ライブを披露してもなお、まだまだ歩みを止めないサカナクションに僕はまた衝撃を受けた。とんでもないよ、サカナクション。

サカナクションが今回タイトルに掲げていた「光」はそんな暗闇を切り裂く力強さの象徴なんじゃないか。音楽業界に関わらず先の見えない暗闇が巣食っているこの時代を切り抜く力強さを今回の配信ライブで学ばせてもらった。

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