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鈴木愛理 ライブ映像『No Live, No Life?』 を振り返って

先日発売になった鈴木愛理のライブ映像作品『No Live, No Life?』をようやく手に入れた。


昨年12月に開催されたライブの模様を収録したのが今作なのだが、このライブはもちろん生で見に行ったのだが、今までの鈴木愛理の作り上げてきたライブとは大きく趣向の変わったその内容に大きく驚いたのを覚えている。

では、どのように趣向が変わっていたのか。

°C-ute解散以降の鈴木愛理の魅力と言えば、歌唱力、ダンスパフォーマンス、そして作り込まれたライブでの世界観にあると考えているのだが、今回はそのうちの二つを「あえて」削っている。




具体的な変化でいうなら、これまで彼女と共にステージでパフォーマンスをしていたダンサーは登場しないし、『Escape』のような作り込まれた世界観もない。今回は鈴木愛理とバンドメンバーのみで作り上げられた、非常にシンプルなライブだと言える。


では、そんなシンプルなライブはそぎ落とされたものが多い分、少し物足りなさを感じる内容になってしまったのだろうか。いや、当然そんな事はない。むしろ、鈴木愛理がこれまで作り上げてきたものがちゃんと詰め込まれたライブになっていた。


まず今回のライブに関して言うのであれば、2018年に開催された『PARALLEL DATE』から最新アルバム『i』に続いていた「こじらせ」系の物語を完結させた事にあると言える。


一旦、ライブから脱線して、最新アルバム『i』について簡単に触れておきたい。デビューアルバムである『Do me a favor』がジャンルレスなアルバムであったとすれば、2作目の『i』はどちらかと言うと恋愛をテーマにした楽曲で構成されている。(『Do me a favor』については下記の記事で書いています。)


この楽曲たちが厄介な恋愛=「こじらせ」を感じさせるテーマで描かれているのだ。簡単に言うと、昔の恋愛を忘れたいのに忘れられないでつい思い出してしまう。別れたはずの恋人に対する未練はないはずなのに、どこか引きずってしまう感じというのだろうか。そういった一筋縄ではいかない恋愛における「こじらせ」感が詰まっているのが、最新作『i』である。

そのアルバムリリース直後に開催されたのが今回の『No Live, No Life?』のライブなのだ。

ライブの冒頭から中盤にかけては、全く「こじらせ」を感じさせないで、愛理の伸びやかな歌声とバンドメンバーが生み出すメロディーに爽やかさを感じる。新曲『Break it down』はもちろん、より愛理の歌唱力とバンドサウンドに厚みが出た『Good Night』に心躍ったのを今でも覚えている。


だが、MC以降ではそれまでの賑やかな雰囲気、爽やかな感じはガラリと変わって「こじらせ」感のある楽曲が続々と登場する。


最初はそれほど重みのない恋愛ソングである『ハナウタ』で始まるのだが、続く『気まぐれ』で「こじらせ」感が現れてくる。続く『君の好きな人』も原曲であれば、明るいメロディラインで展開していくはずが、ここではキーボードを中心として、しっとりと聴かせるアレンジとなっている。より「こじらせ」が加速していく訳だ。


そして、そんな「こじらせ」感も『別の人の彼女になったよ』で頂点に達する。別の人の彼女になったはずの私が今でも元彼が気になって仕方ないその様子を描いているのがこの楽曲なのだが、もうその内容を書いているだけで「こじらせ」感が伝わってくる。


この『別の人の彼女になったよ』は今回のライブでの大きな見せ場の1つになる。ラスサビの「だからもう〜」以降が凄い。恋人に対する声にならない叫びと歌声の絶妙な合間を捉えた愛理の歌に圧倒された。改めて、ライブ映像を見直して、その愛理の表情を見て、さらにこの楽曲に魅了された。

この「こじらせ」感を払拭するためだろうか。ここで愛理を彼氏目線で捉えた映像が登場するが、この映像の破壊力が途轍もない。ライブではこの日常を切り取った可愛さにやられてしまった訳だが、『別の人の彼女になったよ』と合わせると、まるで付き合っていたかのような雰囲気を味わえてより切なくなってしまう。


そんな日常を切り取った映像で「こじらせ」は一旦お休みして、ここから愛理とバンドメンバーの新しいステージが展開していく。いくつか楽曲をピックアップしてここからの展開を述べていくが、前半までの「こじらせ」はどこに行った?と思ってしまうくらい雰囲気がガラリと変わっているのが後半戦の見どころだと思う。

まずは後半戦の開幕を告げる『Escape』だが、これが前回のツアーで披露された時よりも進化していた。バンドサウンドに厚みがました事で、よりダンサブルになっているし、愛理自身も歌に集中しているから高音の伸びが凄く出ているように聴こえる。前回のツアーコンセプトを担っていた『Escape』がその役割を終えて、より鈴木愛理の持ち歌として機能し始めている事を確信した。


続いて披露されたのが『STRONGER』。こちらも『Escape』同様に愛理自身が歌に集中できる事で、歌そのものに力強さが増している。「負けたくない」と反骨精神に燃えるのがこの曲が描いているテーマなのだが、それに対して愛理の力強い歌声が非常にマッチしている。

これまで可愛らしい印象で捉えていた愛理がこの曲で、カッコ良い存在へと生まれ変わっていく。この『STRONGER』はカッコ良い鈴木愛理をつくり上げるためには欠かせない武器の1つになり得る楽曲だ。


そして、この流れで披露されたのが『start again』。個人的にこの楽曲は愛理の楽曲でも1、2を争うくらいに好きな楽曲であるので、まずはこれが聴けただけも凄く嬉しかったのを今でも覚えている。

少し話は脱線するが、この楽曲に惹かれるポイントとしては、タイトルにあるように「ここからまたやり直していけばいいじゃない」という励ましを与えてくれるところにある。何度この曲で元気を貰ってきたか分からない。個人的にはそれくらい大事な楽曲の1つである。

さて、ライブでの『start again』の話に戻りたい。今までこの楽曲といえば、1番の終わりから2番にかけてダンスが差し込まれ、踊りながら歌うというのが1つの魅力であった。これまで『Escape』と『STRONGER』の流れもあるように、この『start again』でもそのダンスは封じられている。

だが、その分歌へエネルギーは注がれている。ダンスを封じた事でよりサビの高音の伸びがクリアになっている。正直、ダンスをしながら歌う愛理のその姿が好きだったので若干の寂しさはあったが、楽曲が終盤に向かうにつれて、歌唱力の進化に魅了されて、そんな寂しさは払拭された。


ここまで3曲に関して述べてきたが、このライブでの後半戦の魅力はお得意のダンスパフォーマンスを削った分、より強みが増した愛理の歌唱力にある。前半戦の「こじらせ」を発散するかのようにとんでもないエネルギーで全力の歌を届けてくれる。

鈴木愛理の歌に魅力され、ファンになった僕としてはこの力強さが増した歌唱力に後半戦はずっと圧倒されていた。

ここまで大まかにこの『No Live, No Life?』のライブの中身とその魅力を語ってきたが、まとめると前半戦は2018年の『PARALLEL DATE』から始まり、最新作『i』まで貫いてきた恋愛における「こじらせ」の集大成を描いていた。一方で、後半戦はそんな「こじらせ」によってモヤモヤしてきた気持ちを発散させるかのように愛理の力強い歌唱力が爆発している。

冒頭で、今回のライブに関してシンプルなライブだと述べた。確かに今までのような派手な演出もないし、ダンスパフォーマンスも封じられている。
だが、ちゃんと今回のライブには鈴木愛理がライブや作品を通じて、今まで紡ぎあげてきたストーリーの続きが描かれているのだし、彼女の魅力も益々磨かれている。

シンプルであるからこそ、今までは見えなかった鈴木愛理の軌跡が詰め込まれたのが今回のライブから見えてきたものだ。

本来であれば、この流れで4月に開催予定だった横浜アリーナ公演で愛理自身がどんなステージを披露してくれるのか楽しみで仕方なかった。今度はどんな世界でライブを作り上げていくんだろうか、パフォーマンスはより磨かれてとんでもない事になっているんじゃないだろうかと想像が止まらない。

そんな過程で今回中止になってしまったのは非常に残念だ。それでも、きっと何らかの形でライブは実現してくれるはずなので、僕はその日をじっくりと待ちたい。鈴木愛理は次にどんな景色を見せてくれるか、今から楽しみで仕方ない。


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