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京都から世界に発信!寺社仏閣から始める脱炭素に向けた取り組み

1997年に採択され、温暖化に対する取り組みを掲げた国際的な条約「京都議定書」。議定書誕生の地として、京都市は地球温暖化対策に取り組んできました。その後、日本で初めて2050年までに地球温暖化・気候変動の原因となる温室効果ガスの排出をゼロにする「2050年カーボンニュートラル」を宣言。

2022年には、2030年までに電力消費に伴うCO2排出の実質ゼロを実現し、地域特性に応じた脱炭素への取り組みを全国に広げる「脱炭素先行地域」に選定されました。

今回は、脱炭素先行地域の取組みの一環として京都市とお坊さん4人が立ち上げた新電力会社「テラエナジー」とタッグを組んでスタートした「京都広域再エネグリッド構築」についてご紹介します。京都ならではの脱炭素社会実現のためにどんなことに取り組んでいるのでしょうか。京都市の環境政策局地球温暖化対策室長・永田綾さんとTERA Energy (テラエナジー) 代表・竹本了悟さんにお話を伺いました。

なぜ、お坊さんが電力会社をつくったのか

ーーはじめに「テラエナジー」がどのような取り組みなのか教えてください。

竹本:テラエナジーは、2016年に日本で電気が⾃由化されたことをきっかけに「寄付つき電気」の仕組みを思いつき、それを実行するために私を含めた4人の僧侶が立ち上げた電力会社になります。寄付つき電気とは、電力の売り上げの一部を利用者自身が選んだ非営利の団体などに寄付させてもらうという仕組みです。利用者はどの団体に寄付したいかを選んで、普通に毎月電気を使ってもらうだけ。電力の売上から約2.5% (最大) を寄付させていただきます。現在寄付先は82団体あり、昨年はおよそ412万円の寄付 (2024年3月現在) を達成することができました。

TERA Energy (テラエナジー) 代表・竹本了悟さん

ーー寄付つき電気は、どのようにして思いついたのでしょうか。

竹本:起業したきっかけは、京都で自死・自殺相談センター Sottoという非営利団体の活動をしていて、運営資金不足を感じていたことです。相談者は増えているし、生涯の仕事にしたいというほど熱心なボランティアの方もいるのに、常勤のスタッフを雇う資金がなかった。そんなときに前職の同僚だった本多 (テラエナジー取締役) が僧侶でありながら環境に関する研究をしており、「仏教と環境のテーマで勉強会をするから参加してみないか」と誘われたんです。

そこで出会ったのが、ドイツのシュタットベルケという地方の取り組みでした。地方のおじさんたちが自分たちで電力会社を立ち上げ、その収益で赤字路線のバスを買収して無償化して走らせている。小さな規模でも電力事業を起業できるんだと驚いたし、そこで得た収益で持続可能な経済循環をつくっていることに感動しました。そこで「寄付つき電気」の仕組みを考えつきました。良い活動を応援したくても、懐を痛めて寄付を続けるのは難しいもの。ですが電力を使うだけで寄付ができれば、どんな人でも寄付ができると思ったんです。

ーーその後は、どのように起業までこぎつけたのでしょうか?

竹本:最初は福岡県みやま市と共同出資して立ち上げておられた、みやまスマートエネルギーに「寄付つきの電気の仕組みを作ってもらえませんか」とお願いしにいきました。ところがいろいろと話をしているうちに、代表の磯部さんから「そこまで明確にビジョンがあるなら、自分たちで立ち上げたらどうですか」と背中を押してもらったんです。しかし、構想はあっても電気に対する知識があるわけではなく…ゼロから勉強して1年かかってようやく電力供給をスタートすることができました。

京都の寺社仏閣が環境問題解決の要に

ーーどのように、京都市との連携はスタートしたのでしょうか?

竹本:起業してすぐ、千葉商科大の環境に関するシンポジウムの懇親会に参加したときに、京都市から出向で東京に来られている職員の方に出会ったんです。私たちの取り組みに興味を持ってくれ、その方が市役所に戻ったタイミングで一緒に宗教者向けの環境問題に関する勉強会を開催しました。

ーー偶然の出会いから始まったんですね。しかし、なぜ宗教者に向けて勉強会を?

竹本:ヨーロッパって宗教者の発言が強いんですよ。ローマ法王が発言すれば、環境問題への取り組みが一気に進む。日本はお坊さんがいっぱいいるのに、社会的なアクションに対して影響力はないに等しいじゃないですか。それがちょっと悔しくて (笑) 。欲を少なく満足する事を知る「少欲知足」の暮らしを実践しているお坊さんこそが環境問題に取り組み、社会に良い影響をもたらせたらこれまで以上にお寺の存在価値を見直してもらえるのではないかと思ったんです。

ーー今回、京都市とタッグを組んだ「京都広域再エネグリッド構築」とは、どんな取り組みなのでしょうか?

永田:再生可能エネルギーの普及を進めるために、太陽光パネルと蓄電池を組み合わせた発電設備を寺社仏閣や伏見エリアの商店街などに景観上支障がない形で工夫しながら設置し、さらに電力の需給調整等を試みながら地産地消のエネルギー循環の仕組みをつくる取り組みになります。

環境政策局地球温暖化対策室長・永田綾さん

ーー発電設備の拠点に、なぜ寺社仏閣を選ばれたのでしょうか。

永田:脱炭素は、市民の方の協力なしでは目標を達成することはできません。京都のシンボルであり、昔から地域コミュニティの核として大きな役割を果たしてきた寺社仏閣に参加していただくことで、大きく前進するのではと考えたのです。そこで既にお寺とつながりのあるテラエナジーにご相談させていただきました。

脱炭素を自分ごとと捉えづらい人もいるかもしれませんが、温暖化は京都でもまったなしの状態です。猛暑日が増えたり、異常気象による災害が起きたり、大雨や猛烈な台風により川が氾濫したり。採れる農作物が変わるなどが予想されています。事実、京都は都市化によるヒートアイランドの影響も加わり、100年前より2.1度上昇しています。年々熱中症で運ばれる方が増えて、桜の開花も早まっています。

この状況下で、宗教者の方々が持つ役割はとても大きいのではないかと思っています。日々お説法の中で話される「どう生きるか」ということの前提には、社会の中で自分がどう在るべきかということも含まれていますよね。1200年以上の歴史ある京都とともに歩んできた寺社仏閣の方々と共に、また1000年先の未来を守っていくための活動をすることに意味があると感じています。

ーーたしかに京都は「1000年単位で物事を考える」土壌があるのかもしれませんね。

永田:市民や有識者の方々と2050年に脱炭素社会を達成したとき、どんなライフスタイルになっているかを考えるワークを行ったのですが、「物を長く愛用する」「食材を無駄にしない」といった意見が出てきました。それって京都が持つ「始末 (しまつ) の心」だよねと。物を大切に長く使い、自然と共生する京都の暮らし方は、脱炭素社会にとてもフィットするんですよね。

京都市では2050年の脱炭素ライフスタイルのビジョン等を策定している

竹本:多くの仏教や神道は自らの欲をできるだけ抑えて、既にあるものの中に喜びを見出して幸福を感じていくことを良しとしています。でも今の社会では、人の欲望をあおってそれを満たすことで成り立っているサービスが多い。資源が限られている中で生きていくため、欲をどうコントロールしていくかという発想を持つことで、環境問題を始めとする世界中のさまざまな問題を解決できるんじゃないでしょうか。

ついに2カ寺で導入開始!

ーーこの取り組みを成功させるためには、寺社仏閣の協力が必須ですよね。どのように協力を仰いだのでしょうか。

竹本:まずは取り組みを知ってもらおうと、京都市さんと一緒にお寺を訪れて発電設備の設置を呼びかけました。でも賛同を得るのはなかなか難しくて。そもそも日本では電気やガスなどのインフラの供給元を変えることに対してハードルが高いし、特に寺社仏閣は歴史ある財を守るという立場上、保守的にならざるを得ません。中でもお寺は檀家さんあってのものなので住職の意志だけで変えられるものではないため、リスクを背負ってファーストペンギンにならなくてはいけないんです。

永田:ですからどうしたらわかりやすくなるかを考えて資料づくりを行い、何度もお寺や神社に足を運んで、住職や檀家さんに納得をしていただけるようにお話させていただきました。今回のお取組にご賛同いただくとかなり手厚い補助 (費用の3分の2) をご利用いただけるのですが、最初は「市まで出てきてうまい話で騙そうとしてるんじゃないか…」と訝しげに話を聞いている方も多かったように思います (笑) 。

ーー「電気を変える」ことがまだまだ浸透しきっていない中で説明するのは難しそうです。

永田:お寺に太陽光パネルを設置し蓄電して、その電気を供給する…と仕組みをわかりやすく解説することはもちろんですが、蓄電された電気が災害時に果たす役割や、京都を取り巻く環境の変化などをお話しました。今、この問題に取り組まないと100年後、私たちの子孫が生きにくい世界になってしまう、そのための取り組みなんだと。自分ごとに捉えてもらえるメッセージをお伝えすることで、少しでも理解を深めていただけたのではないかと感じています。

竹本:急に環境問題の話をされても…という気持ちはよく分かるんですよね。正直僕も最初、氷河期に比べたら大したことないじゃんと思ってたんですよ (笑) 。でも今は1000年単位じゃなくて、100年単位で環境が変化しているから危ないんだと。人間や動物の体質も急激な変化には対応しきれない。その話を聞いてやっと納得したんですよね。だからといって恐怖心をあおりたいのではなく、わくわくして心地よい未来を描くために行動したくなる仕組みが必要だと思っていて。それってやっぱりお坊さんとか、宗教者の仕事だと思うんですよね。そんな意見に賛同して、今回は壬生寺様と妙福寺様が導入してくださいました。

妙福寺に設置されたソーラーパネル

環境問題を解決に導く「京都のこころ」

ーー最後に2050年カーボンニュートラルに対して、目標をお聞かせてください。

永田:最終到達点は、2050年までに温室効果ガスの排出をゼロにすることです。その中間地点の目標として京都市は2030年までに46%削減、 消費電力における再生可能エネルギーの比率は35%以上に設定しています。そのためにも、100箇所の寺社仏閣をはじめとする文化遺産に発電設備を設置することを目標に掲げています。もちろん発電設備を増やすこととあわせて、再生可能エネルギーを使う人を増やさないといけない。こうした活動をテラエナジーと一緒に取り組んでいきたいですね。

「京都広域再エネグリッド構築」の連携協定締結式にて

竹本:私は「京都モデル」をつくっていきたいですね。「一見さんお断り」で保守的な京都のまちが一丸となって温暖化に取り組み、その中心に寺社仏閣があるってめちゃくちゃかっこいいじゃないですか。例えばこの仕組みを日本や、世界の歴史あるまちが同じように取り組んで、温暖化をストップするだけでなく、防災力が高まったり、地域が豊かになっていく。そんな未来を描けたら素敵ですよね。

永田:※京都議定書が生まれた土地として、京都は国際的にも環境先進都市と認知されています。今、「DO YOU KYOTO? (環境にいいことしていますか?) 」を合言葉に環境への取り組みを進めているんですが、これはドイツのメルケル元首相が「“ KYOTO”って環境に良いことをするという言葉でもあるよね」と話してくださったことから生まれたんですよ。

※京都議定書…歴史上初めて、温室効果ガス削減の国際的数値目標を定めた議定書。

ーー京都の「物を長く大切にする姿勢」を評価してくださったのでしょうか。

永田:そうですね。物を長く大切に使う。四季を尊び見合った暮らしをする。そんな京都の価値観は世界で認められているんだと思います。京都が持ってる価値も含めたうえで環境問題に取り組むことで、竹本さんのおっしゃったように「京都モデル」は確立できるのではないでしょうか。そのシンボルになるのが、寺社仏閣。お寺の少欲知足の暮らしも、今あらためてサステナビリティの取り組みとして価値があると思うんです。

ーー100箇所の寺社仏閣などの文化遺産に発電設備を設置することができたら…「観光×環境」の先進都市として認知される日が来るかもしれませんね。

竹本:京都ってめっちゃ住みづらいんですよ。夏は暑くてジメジメするし、冬は底冷えして寒い。だからこそ、どうやったら涼をとれるか、暖をとれるか工夫して暮らしてきた。この温暖化をはじめとする問題をこうした京都の強みを活かしてどうやって乗り越えようか、住民の皆さん、そして寺社仏閣の方々と一緒に考えて取り組んでいきたいですね。

執筆:三上由香利
撮影:安武慶哉

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