労働時間制度の悪用② ~介護事業者における夜勤賃金の計算方法の落とし穴~

介護に関わる労働時間制度の悪用、第2弾です。

今回は、介護業界から切っても切り離せない、「夜勤」の給与に関する問題です。

基本的な考えを、ぜひ理解していただければと思います。

夜勤の業務内容と勤務時間の動向

【ポイント①】2交代制が多い

【ポイント②】ワンオペが多い

宿泊を含めたサービスを提供している介護事業者では、当然ながら夜勤業務が必要となります。

日本医療労働組合連合会によれば、施設形態(グループホーム、特別養護老人ホーム、介護老人保健施設)にかかわらず、5割以上が2交代制となっています。

2交代制では大体、以下のような勤務パターンとなるのではないでしょうか。

【日勤】9:00 ~ 17:00

【夜勤】17:00 ~ 9:00

17:00から申し送りをする事業所も多いでしょうから、実質日勤帯は18:00頃までの勤務も多いことと思いますが、大まかこのような時間だと思います。

夜勤者は、「16時間」の拘束です。また、いわゆる「ワンオペ(ワンオペレーション)」であることが多く、特別養護老人ホームなどでは、1名あたり20名程度のケアをする現場もあります。

「でも、寝てるだけでしょ?」と思われますか?

20名が皆さま、ご高齢で、いつ急変するかもわからない、また褥そう(じょくそう→床ずれ)の管理している方、おむつ介助している方も多く、2時間おきにおむつを交換したり、また認知症の方は、立ち歩かれてしまう方の対応に負われてり、、本当に大変です、、ケアの方法もおおまかには同じですが、服薬等、個別対応も含まれています。

ある方の排泄処理中に、誰かが立ち歩かれてしまう、、転倒の可能性があるため、付き添いが必要なため、ケアをする、、とあっという間に時間が過ぎていってしまいます。

私はお泊りデイサービスの管理者をしていましたが、その施設では宿泊の定員がMAX5名様と、東京都の指針に沿った運用をしていましたので、他施設よりはまだ負担は少なかったように思います。

しかし、夜中に対応方法の確認を求める電話がかかってくることはざらにありました。常に命に対して責任を負っていますので、精神的なストレスはかなりありました。もちろん、その分、やりがいもあるのですが、低賃金な上、過重労働が重なってくると、仕事を継続していくにはかなり厳しいものがありました。

とにかく、ワンオペで、急変を予測しながら、常に見守りが必要であるため、みなさんのご想像より、大多数の夜勤業務が大変だということをご理解いただければと思います。

いかに夜勤業務の負担をかるくするか、それにはやはり人的コストをかけるしかありませんが、なかなかそうもいかないのが現状でしょう。

さらに大きな問題は、この「夜間の介護をどうするか」という課題が「介護施設」だけの問題にされていることです。

利用者さんがいる限りは、施設の人々は責任をもって見守りしていきますが、夜間帯の命を預かるということに対し、もっと広域に議論がなされて行ってほしいと思います。

現場はかなり疲弊しています。

詳しい情報は、下記にまとまっていましたので、ご参考までに。

https://www.minnanokaigo.com/news/kaigogaku/no136/

夜勤給与の計算方法

夜勤業務は、17時~翌日の9時まで、など、2暦日(れきじつ)にまたいでの業務がほとんどだと思います。

例として、17時~翌日9時まで、ここでは、「1暦日」として計算するため、24時間+9時間=31時間と表記しますので

17時~31時の勤務について説明します。

(この1暦日で表記する、というのが実は重要なポイントですが、のちほど説明します。)

夜勤業務計算でのポイントは、「割増賃金が発生する」ということです。

夜間帯に発生するであろう「割増賃金」は以下の2つです。

①深夜(22時~29時(翌日の5時)」

→深夜割増 時間給の1.25倍

②時間外労働分(8時間を超えた分)

→時間外割増 時間給の1.25倍

①②が重なる時間帯は、1.25×1.25=1.5倍の計算となります。

また、これは議論が必要なポイントですが、厳密にいえば、「休憩時間」は、ワンオペに限り、労働基準法の定義上は、とれていない、「0」で計算すべきというのが、私の主張です。

労働基準法では、休憩とは「労働者が権利として労働から離れることを保障された時間」をいいます。

ワンオペでの夜勤業務は、労働から離れることは保障されているとは言えません。

夜食を食べていても、常に利用者の動向に気を配っておく必要がありますから、「労働から離れる」ことはできませんね。利用者が立ち上がっても、休憩だから、と見て見ぬふりわできませんから。

今回は、深夜労働にかからない「17:00~22:00」までに1時間の休憩をとったと仮定して、計算します。ただし、ワンオペ業務で勤務されている方は、この1時間についても、勤務時間に加算するように交渉することもできると思います。

さて、上記を踏まえて、計算すると以下のようになります。計算には東京都の最低賃金を使用します。平成29年10月時点で、958円ですね。

下記計算結果の賃金を下回るようでしたら、明確な労働基準法違反ですので、労使交渉に利用してください。なお、賃金計算の際に生じる小数点以下については、「切り上げ」で大丈夫です。

①17:00~22:00(※1時間休憩したとします)

<割増なし>

4時間 × 958        = 3832円

②22:00~26:00

<深夜割増のみ>

4時間 × 958 × 1.25 = 4790円

③26:00~29:00

<深夜割増+時間外割増>

3時間 × 958 × 1.5  = 4311円

④29:00~33:00

<時間外割増>

4時間 × 958 × 1.25 = 4790円

①~④を足し上げると「17,723」円となります。

なお、ワンオペで休憩をとっていない場合は、これに時給分を1時間くわえますので「18,681」円となります。

現在お勤めの施設等で、夜勤1回の勤務がこれを下回る賃金の場合は、未払い分があるということです。現状は、まず人が集まらないため、これを下回る賃金で募集をかけているところは、ほとんどないとは思っていますが、、

夜勤給与計算で「よくある」不正

「1勤務であるのに、2暦日ごとに分けて計算することで、「時間外割増」の支払いを、逃れる」

1回、16時間の勤務を、2日に分けてしまえ、ということです。

①17:00~24:00 → 7時間

②0:00 ~ 9:00 → 8時間(うち1時間は休憩)

こうすることで、見かけ上は、2回の勤務であるようになり、時間外割増が計算されないことになります。(2日目に休憩をとったことにして、1時間の時間割増も発生しないようにするとは、、なんとも姑息ですよね。。)

今回の例の場合、その差額は、「1,437」円にも上ります。

1月に4回程度夜勤に入っていたとして、それが一年ですと、単純計算で7万円近くの不払いがあることになります。

不正を見つけたら、まずは労基署か専門家へ相談を!

このような不正を見つけたら、どうすればいいのでしょうか。

おそらく、介護施設には、ほとんど「労働組合」がないはずです。(労働組合については、また別途まとめた記事を書こうと思います。)

まず、第一に「労働基準監督署」に行くことをおすすめします。

「弁護士にお願いする」という手もあるのですが、労働基準監督署(以下、労基署とします)であれば、匿名で申告ができますし(公益通報、といいます)、費用をかけずに問題を解決できます。

労働組合が存在しない、また在職中であれば、なかなか直接の労使交渉はやりにくいものです。

ただ、労基署に行く前にも準備が必要です。

残念なことに、労基署も人手不足のため、なるべくなら自分で解決させてようとしてきます。「そのことは、上司に伝えましたか?」「伝えていないなら一度相談してください」のようなことを言われる場合があります。

なので、そのような「足切り」に合わないように、証拠は必ず持参しましょう。証拠とは、勤務表(タイムカードの記録)、就業規則、給与明細などがあります。

不足分をあらかじめ計算していくことも、手です。やる気を見せつけてやりましょう。

パワハラなどが横行している場合は、内部で解決できない!という意思をしっかりと伝えましょう。

すでに退職しているので、書面にて支払いを催告し(配達証明、内容証明にて送付)、それでも応じないときは、その書面のコピーをもって労基署へ、という手もあります。(このほうが、労基署は確実に入ってくれます。)

なお、受け付ける人は、「監督官」という実際に現場に立ち入ったりする職員ではなく、嘱託の職員ということが多いです。

なお、有識者に気軽に相談したい、というのであれば、介護ユニオンというのが信頼できる団体です。介護に関わらず、保育、エステ業界など幅広く対応している「労働組合」となります。

介護ユニオンHP

http://kaigohoiku-u.com/

まとめ

いかがだったでしょうか。

もし身に覚えのある方は、支払いから2年であれば、未払い分を取り返すことができますので、トライしてみてください。

このような請求をすることは「権利」であり、守っている企業が「あたり前」で、守っていない企業はおかしいのです。

いろいろと経験をシェアしたくて、いきおいのまま書いているので、少し散文的ですが、少しでもみなさんの今後の人生に役立てれば幸いです。

社労士の資格を取得して、フリーランスで、労働問題に困っている方のお手伝いができれば、、とも考えています。

とにかく、まずはこういった記事をシェアすることで、介護業界がもっと働きやすくなればいいなぁと思っています。

次回は、労働時間の問題から少し離れ、私が3年間で培った介護事業のマネジメント方法について、シェアしていきたいと思います。

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