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戦争 ”あらゆる犠牲”(六話)

両腕が、思うように動かない。
箸を握ることすら、ままならない。

文字など、書けるはずもない。
我が子を抱くことすら、できなくなった。

あの雨のせいか?
あの雨の、せいなのか?

爆発はなんとか免れたが、あの雨にあたってしまった。

未だに、鮮明に覚えている。
全身が黒く濡れた、あの時を。

すぐに川に飛び込んだが、濡れた時点で私の命運は決まっていた。

我が子が屋内にいたことが、私の唯一の救いだった。
あの子が、あんなに幼い子供が、犠牲になってはいけない。
これからこの国を建て直すのは、彼らなのだから。

苦しむのは、我々大人だけで十分だ。
大本営を支持した我々が、苦しめばいいのだ。
あの子を、巻き込まないでくれ。

もう、言葉すらまともに発せない時がある。
思考が、まとまらない。
我が子に、「愛している」と伝えられるのも、あと少しだろう。

あの子に、斯様な悲劇を見せるわけにはいかない。

私は、静かに消えるべきなのだ。
子供には、母親がいれば十分だ。
まともに機能しない父親など、いたところで何になる?

そろそろ、両脚も動かないようだ。

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