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松本市長選に立候補した菱山晋一君のこと。

今年3月に行われる長野県の松本市長選に、高校・大学時代を一緒に過ごした親友、菱山晋一君が立候補を表明した。

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信濃毎日新聞がスクープ記事として、彼の立候補予定を報じたのが昨年の10月11日。その前日の夜、菱山君からメールが届いた。翌日の新聞に記事が出るが、立候補する方向で動いているという内容だった。それを見て、へぇ、勇気あるなぁと非常に驚くとともに、瞬時に思い出したことがある。高校時代に菱山君がやった”放送室ジャック”のことだ。

今から50年も前のこと、松本深志高校に入学した僕は、すぐにバスケ部へ入った。その部室で、先に入部していた菱山君と初めて出会った。とても明るい性格で、新入部員のまとめ役のような存在だったと記憶している。それ以来の長い付き合いだ。

ある時、お昼の休み時間に教室で弁当を食べていた。いつも放送部が映画音楽などを流していたのだが、突然その放送が途切れて、なんと菱山君が「檄文」を読み始めたのだ。何を訴えたのかはすっかり忘れてしまった。でも「学校と関係者の猛省を促す!」と結んだ最後の言葉は、ずっと耳に残っている。いつもの映画音楽に戻った放送を聴きながら、随分と勇気のある奴だな、と感じ入ったのだった。

この勇気ある行動力は、彼の際立った個性の一つだと思う。昔も今も、そこは変わっていない。市長選への立候補に驚きはしたが、どこかで納得したのはそんな理由からだ。

もう一つ、菱山君の個性をあげるならば、物事の勘所を捉まえる能力の高さだ。良く言えば「本質を見抜く直観力」であり、意地悪に言えば「要領の良さ」でもある。

高校時代、僕と同じで決して成績が良いとは言えなかった彼が、直前数ヶ月の受験勉強でいくつかの大学・学部へ現役合格したのもその一例だ。1年遅れで同じ大学に進んだ僕に、単位の取りやすい一般教養過程の授業を教えてくれたのも彼だ。信越放送に就職してからは、報道記者、番組制作、デジタル担当など、経営管理系以外の業務を卒なくこなしていた。勘所を押さえる力がなければ、とてもできることとは思えない。

また、対人関係能力が抜群に高く、特に信越放送の松本支局長時代に築いた人脈は驚くほど広い。退職しても飲み仲間には困らないと笑っていた。僕が帰省した時には松本市内の何軒ものお店を連れ回してもらったが、どこに行っても「お久しぶり!」と声をかけられていた。会うべき人が多過ぎ、また行く店の選択肢も広過ぎたのだ。

社会人になった後も、かなり頻繁に会っていた。そのほとんどの機会は菱山君がセッティングしてくれた。僕が帰省した時の酒席はもちろん、同級生とのゴルフ、東京での観劇など、出不精の僕を引っ張り出してくれた。心から感謝している。

40歳を過ぎた頃から、将来は信越放送の社長になると、僕は勝手に思い込んでいた。仕事は抜群に出来る。人間関係も圧倒的に豊富だ。強いリーダーシップ能力も持ち合わせている。社長にならないはずがないと思っていたのだ。

しかし彼はかなり早い時点で、自分が社長になる目はない、と言っていた。地方の放送局が置かれた厳しい経営環境の中で、求めらるのは自分ではないと悟っていたように思えた。僕から見ると経営トップとしての素養をすべて満たしていたのだが、彼は会社と自分の置かれた状況を冷静に判断していたのだと思う。これも勘所の良さの表れだろう。

お互いの仕事の話をする中で、もう一つ驚いたことがある。彼が自分のマネジメントスタイルを「調整型」だと言っていたことだ。それは僕にはかなり意外だったが、長い職業生活の中で彼なりに自分のリーダーシップのあり方を見つめ直していたのだろう。勇気ある行動力を一旦脇に置き、物事の本質を捉えたコミュニケーションで、妥当な方向性を見出していく。彼が市長選立候補の時に掲げた「対話と実行」というスローガンに共感できるのは、こうした理由があるからだ。

一度、菱山君から厳しい言葉で諌められたことがある。

彼は大学時代の最後の年に、僕と同じ学生新聞部に籍を置き、広告営業を担当していた。僕はもっぱら原稿書きや編集の担当で、広告営業を低く見ているところがあった。それをキツく指摘されたのだ。

「寺澤さ、広告を出してくれる人の気持ちを考えたこと、あるか?」

そう言って、本気で叱ってくれた。彼とはずっと親しい仲だった。大学時代に僕は菱山君のアパートから歩いて数分のところに部屋を借り、長い時間を一緒に過ごした。僕の思い上がった発言をスルーすれば、その人間関係が壊れることもない。でもそれを承知で厳しい言葉を投げかけた彼の真意を、僕はかなり後になって理解することになる。

菱山君は60歳の時に、信越放送に同期入社した奥さんをガンでなくしている。でも、3人の娘さんはそれぞれ社会人として立派に自立している。会社のNo.2である専務取締役で退職し、悠々自適の生活をする選択肢だってあったはずだ。

それを「勇気ある行動力」で立候補を表明し、本気で松本市を良くしようとしている。僕は高校を卒業してからずっと東京暮らしなので、松本市の詳しいことはわからない。でも、立候補の理由を記者から問われて「松本が大好きだから」と答えた彼の言葉に嘘はないと断言できる。

一定の年齢を超えると、人は自分に正直なピュアな気持ちで動くようになる。発する言葉がピュアであるほど、それは人を介して伝わっていく。菱山君の辻立ちの動画を見ると、辻立ちをする勇気に驚きながらも、彼のピュアな気持ちを強く感じる。決して肩肘を張るわけではなく、とても自然体なのだ。

菱山君の勇気に、心からの拍手を送りたい。

※この文章を投稿することを、実は本人には一言も相談していない。僕が勝手に応援したくてメッセージを書いた。「余計なこと、するな!」と怒られたら、素直に謝ろうと思っている。

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