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「Googleレコーダー」の文字起こし機能は画期的。だけど人との対話がうむ不思議な瞬間は、AIにはつくれない。


●驚きの文字起こし革命!Googleレコーダーで新時代到来

これを書くと、何を今さら?と笑われるかも知れないが、最近Googleレコーダーの文字起こしに感動してしまった。

僕は昔から、インタビューをして原稿を書く仕事もたくさんやってきた。書くことは好きなので、さほど苦にはならない。でも録音を聞いて文字起こしする作業は嫌いだった。自分で原稿にする時は、使えそうなところを手書きメモにすればいいので、まだ楽だ。でも誰かから頼まれた時は、話し言葉に忠実に文字起こししなければならず、とても面倒だったのだ。

数年前から、文字起こしソフトを試してみた。レコーダーの音声データをパソコンに取り込み、文字起こしソフトを起動する。Wordファイルに文字が自動で入力されるのを見て、やった!と思った。これで面倒な作業から解放される。

ところが、やっぱり精度が非常に悪かった。出来上がったテキストを読んでも、何が何だか意味がまったくわからない。やはり手作業でやるしかないか、と諦めていた。

Googleレコーダーによる自動文字起こしは、感覚的には精度90%以上という感じ。不可解な部分の聞き直しも、起こされたテキストの聞きたい箇所をクリックするだけ。スマホ(Google Pixel)で録音した後、テキストファイルは自分宛にメールし、音声データはクラウドにアップするだけで完了だ。

添付した画像は、この文章を自分で読み上げて録音し、それをGoogleレコーダーで文字起こししたもの。ほぼ完璧にテキスト化されている。やっと使えるソフトが出てきたと、本当に嬉しくなった。愛用するソニー製のスマホに加えて、Googl Pixelを購入した投資は、完全に元が取れたと思う。

●録音を止めた時、マクドナルドの藤田社長は何を語ったか

インタビューの仕事には、いろんな思い出がある。そのいくつかを書き残しておこう。

もう30年以上前のこと。日本マクドナルドの藤田田社長と、アスキー創業者で米国マイクロソフトの副社長だった西和彦さんの対談に同席したことがある。

当時、僕はマクドナルドの営業担当で、 広報部からPR誌の編集制作も委託されていた。3ヵ月に1回刊行されるその冊子の巻頭企画で、藤田社長が各界の著名人と対談する企画が売り物の一つだった。

西さんのアテンドは、マクドナルドの広報部がやったと思う。しかし対談が行われた1986年、西さんはビル・ゲイツと事業方針で衝突し、マイクロソフトとアスキーの代理店契約は解消された。対談が行われたのは、そのニュースが流れた直後だった。

事前に準備した対談のテーマは、米国と日本の企業文化の違いというようなものだったと思う。内容はすっかり忘れてしまった。ただ西さんの発言が少なかったことはうっすらと覚えている。カメラマンは西さんの笑顔が撮れないとこぼしていたが、その心情は推して知るべしだ。

小一時間で対談は終わり、僕はテープレコーダーのスイッチを切った。そしてスタッフと一緒に社長室を出ようとしたちょうどその時、藤田社長が言ったのだ。

「西さん、いろいろ大変かもしれないが、すべて勉強だと思ったほうがいい。これを機会に、たまに飯でも行きましょう」

豪放磊落でならした藤田社長の相手を慮る発言に、広報課長はびっくりしていた。僕も驚いた。僕らスタッフは社長室を後にしたが、西さんは残ったまま。後で広報課長から、かなり長く二人で話し込んでいたことを聞いた。

録音していないところで、人の気持ちの機微に触れる言葉を発する藤田社長に、僕は若手経営者への暖かい心遣いを感じ、ますますファンになったことだ。

●プロのエコノミストが紡いだ、圧倒的に魅力ある語り口

もう一つは、これも30年以上前、大和証券の採用PRの仕事でのこと。元経済企画庁長官で、当時は大和証券経済研究所の理事長だった宮崎勇さんにインタビューした。

1990年代の中頃、日本では金融ビッグバンとよばれる金融業界の規制緩和が行われた。銀行と証券の垣根がなくなり、金融市場の国際化が一挙に進んだ。人材採用市場で大和証券と競合するのは、業界トップの野村証券とメガバンク、そして総合商社だった。

大和証券の人事部に対して、僕は「GO! GLOBAL」という採用コンセプトを提案していた。イケイケの営業体質で知られる野村証券と一線を画し、国内支店で厳しい競争に晒される都市銀行とも差別化し、世界を忙しく飛び回る総合商社に対して“知的国際派”としての大和証券を学生に訴える作戦だった。

その一環で、シンクタンク理事長である宮崎氏のインタビューをとったのだ。国際金融市場で存在感を発揮する大和証券を、それとなくアピールしてほしい。許可された時間は30分。事前にインタビューの趣旨と質問項目をペラ1枚で提出していた。

僕とカメラマンが入室し、着席すると、宮崎さんが聞いてきた。

「これ、何文字の原稿にするんですか?」

質問の意味がわからないまま僕が答えると、宮崎さんはしばらく考えた後、スラスラと流暢な語り口で質問項目に答え始めた。僕が口を挟むことはまったくなかった。約束の時間が近づくと、「こんなもんで良いですか?」と宮崎さんは話を切り上げた。僕はただただ感動していた。

後日、録音を文字起こしして、驚いた。文字起こしが、ほぼそのまま原稿になるのだ。しかも、見出しになるキーセンテンスが何本か用意されている。

プロのエコノミストとはこういうものか、と恐れ入ったことを思い出す。

●AIには真似できない、人との対話が生む不思議な瞬間

あと何年かすると、録音データがすぐに指定されたシナリオと文字数で完璧な原稿になる時代が来るだろう。でもその時AIは、マクドナルドの藤田社長のように、録音には残らないところで人の感情を揺り動かす言葉を紡げるだろうか。そもそもAIは、テキストや音声データがなければ何も語ることはできない。

ある商社マンは、商談を成功させる秘訣の一つは、最後の最後に何を言うか、だと教えてくれた。商談が終わる。挨拶の交わす。そしてエレベーターまで見送られ、扉が閉まりかける。その寸前で発する最後の一言が、商談のクロージングに決定的に重要だ、というのだ。人を動かすには最後に快の感情を刺激することが有効とする、行動経済学のピークエンドの法則である。

銀座あたりの飲み屋のママは、帰るお客を見送るために、必ずビルの1階の道路まで出てくる。そこでお客を送る最後のメッセージが、次の来店を促すことを知っているからだ。お客は店での会話は忘れても、最後の一言は覚えている。AIはその最後の言葉を言えるだろうか。

あるいは、大和証券のシンクタンクの宮崎さんのようにAIは語れるだろうか。親会社の人事部からの期待に違うことなく、編集者への心配りも忘れず、エコノミストとしての知見を学生にもわかるような言葉と文脈で語り下ろすことは、AIには多分できない。というか、そんなプロンプトをかける人間は、どこにもいないだろう。

人にインタビューする仕事は、だから面白い。だからやめられない。

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