おっさんはかく語りき

絶対終わったら即アイス買ってやる。実働12時間、そうでもないと思っていたのだが夏は舐めるには強大な相手だった。くそが。警備なら楽って言ってたじゃねぇか。だがまぁいい、あと1時間だ。あと1時間で終わるはずなんだ。
 「おい新人。この時期に入ってくるなんて正気じゃないと思ったが夜間の暇な所と間違えて入っちまったんだろ。分かるぞその気持ち。紛らわしいよな。」
急に話しかけられてびっくりしたが車も少なくなって来たし、話すのは時間を潰せる。小馬鹿にされたとはいえ話しかけてくれるのは願ったり叶ったりだ。
 「ほんとっすよ。バイトなんか東京くるまでしてこなかったんで調べ方分かんなかったんすよ。でもまー時給高いし。」
「いや、意外にいい選択だぞ。確かに今日はきついがいつもは車も少ないし何よりルーズな現場の周期が多いんだ。スマホいじっても何してても良いんだから別に家と変わんねーじゃんって時もある。お前の言う通り東京の警備でも時給が高い部類だよ。平均年収の倍は週4で入ればいけるぜ。だからまだやめんなよ。」
友達から聞いたようにバイトの店長や社員は洗脳してくるのか!と思ったがただのバイトのようだ。ちょっと信用できるな。しかもこーいう擦れたおっさんは話が面白い。
 
 俺は次もちゃんとバイトに行った。
「うぉ来たのか。お前が来た日外れだったからもう来ねーと思ったんだけどな。今日は当たりだぞ。」
俺はこの当たりの日を一度見てこのバイトに腰を落ち着けるかどうか決めようと思った。前のバイトは面倒で2日目にして飛んでしまったので相当楽じゃないと来れないと思うのだ。
社員さんが業務を説明してくれたが、単純なもので10秒ほどで終わった。
なんと、基本的に部屋でカメラを見る(漫画読めるぐらいの適当さ)、建物を巡回する。だけで、いいらしい。警備ってどこもこんな感じなのかと思ったがおっさんがそうでもない事を教えてくれた。  
 俺はとうとうバイトを決めた。しかもおっさんがいうには当たりの日はある程度予想がつくらしく入り方で狙い撃ちする事が可能だという。そして俺は週2日入ることにした。まぁそれでも明らかに貰いすぎなのだが。そして業務が単純なのでバイトは二人、これ以上求人も出さないらしい。おっさんと二人かきついな。

1日目
「今日も来たのか。」
おっさんは驚いた。変なタイミングで驚かれた。給料が高すぎて確実に訳ありだと思っていたので前回の時、訳ありポイントを見逃したかとびくついた。
「お前みたいなやつは大体2回目でバイト飛ぶんだ。」
面白くない冗談だ。とはいえ訳ありの話じゃなくて少し安心だ。
「あーまぁ給料高いんで。」
「でも、何か訳ありなんじゃないかとは思うよな。心配すんな。訳ありだ。報道では3年前に会社員が集団自殺らしい。何人かが爆薬作ってやっちまったってことらしい。まぁテロだな。次の巡回の時探したら血とかあるかもな。一緒に行ってやろうか?」
「、、、お願いします。」
ちなみにガチらしい。

2日目

とりあえず暇つぶしが必要だと言うことは分かったので漫画の違法サイトで流行りは全て読んだ。おっさんはおらず、1人。心霊がダメというわけじゃないしアホくさいとも思っているが、普通に怖い。生物としては当然、昔は襲われていたしなとか哲学的な解答まで考えてしまうほどには暇だった。前の巡回の時血が本当にうっすらまだ残っている箇所をおっさんが教えてくれた。前あった会社はえげつないブラックだったらしい。毎日自分がしたくもないことで何かの為に働く。嫌気が刺して、したい事を八つ当たりみたいにやって死ぬ。俺には分からん。暇すぎてまた哲学的な事を書いてしまった。祈りとか馬鹿馬鹿しいとは思うが、手を合わせた。

3日目
今日はおっさんがいた。正直この前のバイトは怖かったのでありがたい。こんなおっさんが少し頼りがいがある感じに見える。
「そういえば最近チンポジ直す頻度が増えてんだよな。このまま増えていったらちんこになっちまうんじゃねぇかな。」
やっぱ違ったらしい。

4日目

おっさんと仲良くなった。意外に漫画とか色々持ってて貸してくれたし、俺も貸した。給料高いし正直大学辞めてずっとこれでいいなとも思ったがそこまでの勇気はない。でも少しおっさんにきいてみたかった。
「あー大学辞めてぇ。」
どうくる?おっさん、、、


「俺中卒。」
「ごめん。」


5日目

「お前大学辞めるんならここでシフト入りまくるって事か?」
おっさんが変に心配したらしい。なんかきめぇな。あるいは仕事が減るから期待してんのかもしれん。
「まー言ってるだけっすよ。そんな勇気ないっす。漫画好きなんすけど、漫画読んでたら大体の世の中にある気分という気分は味わえちゃうみたいなとこありません?なんもする気起きないんすよねー。」
変に自分を言い過ぎてしまった。
「シコり過ぎてEDか?風俗行こうぜ風俗。」

6日目
おっさんがdsを持ってきていた。準備が良く、俺の分まで持ってきてくれた。
「妖怪ウォッチやろうぜ。飛ぶぞ。」
神ゲーだった。一週間後に対戦する事を決め、お互いに妖怪を育成してガチでやり合おうと熱い握手を交わした。

7日目
明日で一週間、俺は妖怪ウォッチが面白すぎて巡回中も歩きながらdsで妖怪と友達になった。今日はおっさんはおらず1人だが、流石に怖くなかった。というより夜に曰く付きのビルでひとり、妖怪ウォッチをやりながら黙々と歩いている俺の方が怖いだろうと思う。

8日目
おっさんと対戦した。
対戦が始まるとおっさんは急に黙り、黙々とdsと向き合っていた。俺の妖怪達はボッコボコにされた。勝ち誇ったおっさんは俺に攻略サイトを見てみろと言った。

9日目
おっさんに負けてから色々と攻略サイトを見てガチのパーティを作成したところ、いい勝負になった。対戦内容は流石に書くのがめんどうだ。しかしちょっと仲良くなった気がする。おっさんも俺の戦友、いや友達妖怪と言ったところか。上手いこと言ってしまった。
「なぁ、実は俺カントン包茎なんだけどさ、カントンってのは皮が小さいから茎を絞めちゃうってやつなんだけど。俺は確かに包茎だということは認める。しかし仮性包茎なのか真性包茎なのかどっちなんだ。そう思ったら最近寝れなくてな、寝れても夢にちんこ出てくんだよ。これほんとに俺ちんこになっちまうんじゃねぇかな。」

絶交である。



10日目

「実は俺陰陽師なんだわ。」
(おっさん、おもむろに携帯を取り出しレッツゴー陰陽師を流し始める。)
久しぶりに下ネタじゃないししかもつまらんこと言うやんと思った。
「あー友達妖怪作りに曰く付きビルで警備っすか。」
我ながらいい返しをした。フォローしたんだから感謝して欲しいくらいだ。
「そそそそ。新人、流石に妖怪ウォッチで一週間で理論値のパーティ作り上げるだけあるな。」
謎ノリが始まったので俺は適当に相槌を打っておっさんの漫画を読んだ。

11日目

巡回からおっさんが帰ってこない。多分先週の悪ノリが続いているのだろう。俺を脅かそうというわけだ。まぁ一応警備だし不審者に襲われている可能性もなきにしもあらずだ。注意していこう。ここ曰く付きだしわけわからんやつが入ってくることもあるかもしれん。

おっさんがよく分からん服を着て(陰陽師っぽいやつ)戦ってる風の感じの動きをしていた。流石に引いた。
「おっさん!何してんだよ。流石にクビだろそれ。」
「すまんガチで助けてくれ!!何か普通ではありえんくらい怒ってんだ!!俺の能力は札を飛ばすことで霊に強制的に会話をさせる能力だ!!そ、そこに置いてある札を俺のところまで、、持ってきてくれ!、、!!!」
正直悪ノリが過ぎると思ったが独り身の男がバイトで食い繋ぎ、46歳まで頑張ってきたのを思えば、弾けてしまうのも仕方ないかと思い札を手に取った。
重い 札が重い。
事態の深刻さに少し信憑性を感じた俺は札一枚持ってそれを引きずって汗だくになりながら忘れてしまった必死さを思い出しながらおっさんまで運んだ。

おっさんが札を飛ばした。空中でビタリと札は止まった。その瞬間俺の無線から
「俺にも、妖怪ウォッチやらせろよ。」
と内容に反して恐ろしい声が響いた。俺は反射的に「ひゃんっ」だったか「ふぁっ」みたいな声を出してしまった。
「馬鹿やろう!最初に話したやつとしか霊は話さねぇ!お前このままじゃ死ぬまで霊と妖怪ウォッチだ!!!!くそっ、、何か手を考える、、」
俺はおっさんがわけわからん服で色々と考えている間無線機から「妖怪ウォッチ、、妖怪ウォッチ、、、」と永遠と聞かされた。すごく長かったのを覚えている。


「思いついたが、上手くいくとは思えん。やるか?」
俺はわけもわからずうなづいた。
「俺は下ネタで世の中の事は大体なんとかなると思ってる。だから多分下ネタ言えばなんとかなるはずだ。お前下ネタ嫌いだから俺が言った事をそのまま繰り返せ。」
最悪だ。
口が裂けても言いたくねぇ。妖怪ウォッチなら死ぬまでやってもいいかもしれんとか思いだした。
「俺実はカントンでさぁ、」
俺が羞恥と苦しみに悶えているとおっさんが腹パンをかましてきた。くそがぁ。
「俺、実はカントンで、さぁ、、。」
おっさんがそれでいいという感じでうなづく。
「洗うと痛えから洗ってなくてチンカスめっちゃ溜まってさ。だから半年に一回痛みに耐えながら洗うんだけどさ。最近気づいたのよ。ローションでシコると同時にチンカス取れるんだって。」
おっさんも緊張しているのだろう訳が分からない。そしてやはり下ネタは面白くない。俺は絶望して口を開けないでいた。おっさんが俺を急かそうとした腹パンがヒットする直前。無線から
「やるやん。」
と聞こえ、無線が切れた。どうやら霊はどこかに行ったらしい。
おっさんは言った。
「下ネタ最強かよ。」

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