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「サーブ」の時代の幕開けをみた

 21世紀になってからの世界のバレーボールをみていて、レゼンデが指揮するブラジル代表男子チームが作り上げた、組織的かつ運動量豊富なバレーボールは、当初圧倒的な強さをみせていました。
 そしてそんなバレーボールの戦い方が、他国、他チームにも取り入れられた結果、アメリカ代表男子やロシア代表男子、ポーランド代表男子が対抗馬となっています。今はリードブロックと配置を組み合わせフロアディフェンスとの組織性を高めたディフェンス、攻撃枚数4枚による対ブロック数的優位を確保するために必要なファーストタッチやセッターからのセットの洗練洗練化、してバックアタックのバリエーションの変化、リベロの機能の多機能化などの現代バレーボールのシステムを各国が導入しているわけです。

現代バレーとサーブの立ち位置

 この21世紀に登場した現代バレーボールの仕組みというかシステムというかプレースタイルを、次にどのような新しい戦い方によって打ち砕いてくるのか。ずっと注目してきたわけです。
 印象深かったのは、2016年リオデジャネイロ五輪で、イタリア男子が銀メダルと獲得したことでした。正直この時点でのイタリア男子は、前述したようなブラジルのようなバレーボールのシステムを完成させていたとは言えなかったと思います。ところが、イタリアのザイツェフ選手を中心とした破壊力満点の強烈なサーブで、相手の組織力をもろともせず得点を重ねて決勝まで勝ち上がっていったのです。

 バレーボールにおいては、サーブはゲームそしてラリー攻防のオープニングです。このサーブ如何でいずれかのチームの優位性が方向づけられます。またサーブだけが、対戦相手に妨害されること無く自分の間合いで仕掛けることのできる攻撃でもあります。
 テニスやバドミントン、卓球などのような同じネット対戦型競技であっても、バレーボールはチームスポーツであると同時に、自分のコート内で3回までのボールタッチが認められてる点で大きな差異があります。つまりは「プレーの修正が利く」という点においては、仮にサーブによってシステムが崩されたり、アウトオブシステム状態になっても得点できる可能性は、テニスやバドミントンより高いと言えると思います。
 しかし一般的には、テニスや卓球などではサーブを打つ側が優位となることが前提となり、サーブを受ける側がラリーを制した場合に「ブレイク」と呼ぶのに対し、バレーボールはその逆にサーブを打った側がラリーを制し得点する場合に「ブレイク」と呼ぶこともその表れではないかと考えます。

 つまりバレーボールは、「サーブの位置づけ」というものがその時代その時代の戦術の変遷に深く関与していると思うわけです。20世紀までのバレーボールの「戦い方」は、サーブよりも、アタックの戦術とそれに対抗しうるブロック戦術のせめぎ合いの要素が強かったと考えます。20世紀はサイドアウト制の時代がほとんどで、そこから現代バレーは、ラリーポイント制となっています。この変化もサーブの位置づけを大きく変えました。

 もちろんその時代ごとに、名物選手のような「ビッグサーバー」がいたわけでしたが、それは必ずしも個人の武器にとどまっていて、チームとしてサーブの威力や効果をメンバー全員が洗練されていたかといえば、必ずしもそうとは限らないように思うわけです。

チームの戦術に組み込まれるサーブ

 2000年代、21世紀に入り、セレソン(ブラジル代表男子)が革命的に生み出した組織的な戦術は、特に2004年のアテネ五輪前後からは、ブラジル男子は無類の強さを発揮してきました。
 個人的には、それを打ち砕く、何か目新しい新戦術や斬新なシステムが生まれてくるのか?生まれてくるとしたらどんなシステムが開発されるのか?そういう期待めいたものをもっていたかのように注目していました。

 リオデジャネイロ五輪では、やはりブラジルが金メダルを獲得したわけですが、なぜ銀メダルのイタリア代表男子に注目したかと言うと、イタリア男子は90年代は名将ベラスコと数々のスター選手たちによって黄金期を迎えるも、21世紀になってからはブラジルに大きく溝を開けられてきたからです。そんなイタリアが十数年ぶりにオリンピックの決勝に勝ち上がってきたその理由が気になったのです。
 そこで個人的に目を引いたのが「サーブ」だったわけです。

 そこで、今回のFIVBワールドカップバレーボール2019の世界の強豪チームを見ていると、やはり「サーブ」の威力、そして戦略的なアグレッシブなサーブを組み込んでいることが見えるような気がします。
 今大会で言えば、女子の中国、男子のブラジル、ポーランド、アメリカなどは、サーブによって相手を翻弄し、自チームを優位に導くゲームスタイルがはっきりしているように思います。日本代表男子もサーブの進化が顕著に見られました。それぞれのチームには「ビッグサーブ」をもった選手がいるのはもちろん、ジャンピングフローターサーブで堅実に打っているようで極めて戦略的な意図・・・例えば特定の選手にストレスや負荷をかけてパフォーマンスを低下させたりミスを誘ったり、または特定の選手やスペースを狙うことで相手の攻撃枚数を減らし、相手アタックの数的優位を封じるようなサーブがほとんどです。
 さらには、6人のサーブのラインナップによる緩急によって、相手ディフェンスに精神的ゆさぶりをかけていることにもつながっているような気がします。

「サーブミスは痛い」は時代の周回遅れ

 バレーボールは、国際的にも「オリンピック」がターゲットとなっています。来年2020年に向けての各国の仕上がりも徐々に佳境を迎えていくと思います。
 これからのバレーボールは「サーブの時代」に突入したのではないかという印象を強く持ちました。
 もはや、「サーブミスは痛い」、「サーブは入れることが最優先」というような価値観で現代バレーのゲームに臨むことは、アウトオブデイトなんだと思います。21世紀になって確立された組織的なアタックとブロックから始まるトタールデフェンスのプレーモデルを打ち崩すためには、「サーブの重要性」が生命線になってくるんだと思います。
 「サーブの時代」。それは個人技としてのサーブではなく、チームとしての戦略や戦術の重要な要素となり、ゲームシナリオを組み立てる重要な視点の一つとなってくるということを意味すると思います。サービスエースを視野に入れつつ、相手のアタックシステムをアウトオブシステムにもちこみ、自チームのカウンター性を優位にもちこむための必須オプションになるわけです。サーブは消極的かつ受動的に打つものでもなく、委縮して打つものでもない。チームとしての戦略や戦術の理解に基づいて、ミスのリスクを背負いながらかつ明確な意図をもってアグレッシブに打つものにならなければなりません。

 これからは、個人技としてのサーブだけではなく、チームとしてのサーブや、ゲーム展開に与えるサーブの影響力を見ていく必要が重要になってくると思います。

(2019年)