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バレーボールの攻撃と「はやさ」論について

バレーボールと「はやさ」について記事にします。
もう何度も話題にしていますが、なかなかいろんな意見が出ていて、人によって、その捉え方も様々ですし、正直、試合中継の解説を聞いても???となる点が多いので、あえて書こうと思います。

もう一度、「はやい」攻撃について、以下の点で考えてみましょう。
みなさんはどのような見解をお示しになりますか?
 
① なぜ「はやい攻撃」が必要なのか?
② 「はやさ」 は何をもって 「はやさ」としているのか?
③ 「高さ」 VS 「スピード」 というのは対等な比較対象となるか?
④ 「唯一論」的な選択になっていないか?
⑤ カテゴリの違い で片づけていないか?

①「なぜ、はやい攻撃」を必要とするのでしょうか?

それは、相手ブロックの効果よりも、自チームのスパイクが優勢になって、スパイク決定しやすくする。ということだと思います。
ここで、重要なのは「スパイク決定」の前提は、「そのスパイカーの高さとパワーが十分発揮できる」
という点です。
なぜなら、スパイカーの高さやパワーを犠牲にしてまで、いわゆるスピード重視でいくと、確かに相手ブロッカーに対しては、ブロックの効果を弱めるかもしれませんが、今度はスパイカーが十分打てなくて、コースアウトやネットなどのミスを誘発したり、ボールの強さがなく、相手に拾われてしまったりと、「はやさ追求 = スパイク決定」 と言いきれない部分がたくさん出てきます。

② でも「はやい」攻撃は必要になってくるわけです。

そこで「はやさ」とは何で生み出されるか?をしっかり考える必要があります。
日本の中で求められがちな「はやさ」とは、どちらかというと、「攻撃する側」のはやさです。セッターのセットするボールの球速や、セットからヒットまでの時間、ファーストタッチからヒットまでの所要時間、など、相手に関係なく、こちらがわの時間的速さです。
もちろん、これだけでも一定の効果はあります。オープン攻撃やハイセットよりも、「いわゆる」クイックや平行の攻撃にすれば、相手ブロッカーのステップや移動に負荷を与えることになりますから、結果、相手ブロックの枚数がそろわず、スパイク優勢になります。
問題は、もう一つの側面があるということです。
それは、「相手ブロッカーから見た間に合わなさ」=はやさ です。
ここでの「間に合わなさ」と聞くと、やっぱりスピードか・・・と思う人もいるかもしれませんが、それだけではありません。
ここで言う、「相手ブロッカーから見た間に合わなさ」というのは、ブロッカーの判断が遅れること、
どこから攻撃をするのかギリギリまで決めかねることからくる、

判断の遅れ→動き出しの遅れ→間に合わない→はやさ

という側面があるのです。ですから、ここではセットの球速とか所要時間ではなく、相手ブロックの選択判断を鈍らせることがキーとなります。
大きく二つの要素があって、

◇ 攻撃の枚数を増やし、かつ限りなく同時多発的にしかけること
◇ セットする際に、なるべく相手にセット方向を読まれないこと

という点があります。
ですから、バックアタックなどを標準化して、攻撃枚数を増やしたり、さらにはそのバックアタックもフロントの攻撃と同時多発的にするため、パイプ攻撃やビック攻撃にする必要性が出てきます。
または、セットはアンダーよりもオーバーの方が優れているのも説明がつきます。
さらには、セッターのテクニックとして、トリッキーなモーションや、セットの間合いをひきつけると言うものも説明がつきます。
じゃあ、そのためのセッターへのファーストタッチの返球は・・・?
いろいろ話がつながってくると思います。
いわゆる、ブロックを振って、ブロックのない所からスパイクを叩きこむだけじゃなく、相手ブロックの最高点での完成前に、スパイクの最高打点を持って行き上から叩こう。それでもいいわけです。

③「高さ」VS「スピード」という比較や対立軸がはたして、適当なのかという疑問

が出てきます。
高ければいいのか、スピードさえ追求すればいいのか。違います。そこには「選択判断」という要素もあります。
大事なのは、メリットとデメリット、リスクとリターンをしっかりならべ、適宜選択をしていくと言うことだと思います。
例えば、
攻撃するこちら側のスピード、はやさを追求するということは、相手ブロックに負荷をかけると同時に、こちらのスパイカーの負担となって、十分なジャンプやフルスイングによるパワーの発揮が、犠牲にされている状況があるということです。
「高さ」という尺度は、高さを競う中で求められるものであり、「スピード」という尺度は、スピードを競う中で求められるものです。
陸上競技の100M走とか競泳とかそうです。棒高跳びとか、走り高跳びとかそうです。でも、高さに勝つために、スピードとか・・・ちょっと論点が違う気も。

④高さにスピードは勝てるのか? 

「高さに対抗するスピード」などと表して、さも、高さを考えなくともスピードを追い求めようとなり、スパイク決定の前提でもある、最高打点でしっかり打つを犠牲にしてもよい的な錯覚を持ってしまいます。
日本人は低い、外国人は高い と決めつけた結果どうでしょう?そこから日本の「スピード唯一論」となってきたのです。
ですが、日本は外国に比べて低いと自ら言いながら、そんな低い日本が、スピードばかり求めて、
己の能力よりもさらに「低く」なっては本末転倒ではないですか。だから、余計に「高さ」VS「スピード」という対立軸は、無用な誤解や錯覚を生むように思えてなりません。

きっと日本が言う、「はやさ」の完成は、下の動画のようなものを指すのかもしれません。
でも見落としてはならないのは、スパイカーがフルスイングで打ち切っている点です。
しかし同時に、これはとても難易度が高く、このプレーは1セットの中で、何本も見られません。
むしろミスや不完全で終わる方が多いと思います。

だとしたら、はやい攻撃をしつつ、スパイカーの最高打点やフルスイングを生み出すよう、しっかり打たせることを意識していくことも重要です。大事なのは、どっちがいい?ではなく、どう使っていくか?ということになります。普通に考えて、手数が一つしかないよりも、いくつかあった方が有利なわけですから。

⑤ トップレベルでないとできないのか?

そして最後に、このように動画などを用いると、それは身長2Mの世界だからとか、それはトップレベルの話で・・・と言ってしまう人がいると言う点です。

そんなことはありません。今回記事で書いてきた発想は、どのカテゴリでも植え付けていくことはできます。

スパイカーには十分な助走やジャンプを保障すること、
スパイクは、アタッカーが合わせるのではなく、セッターが合わせること、
「はやさ」を使い分けること、
相手の選択判断とのかけひき、
バックアタックの標準化、

これらは、どのカテゴリでも意識できるはずです。

ってなわけで、「はやく」・・・このはやさ論の呪縛、無限ループから解放されるのを願っています。
いろいろ思考錯誤しながら、形づくっていってもらいたいです。


(2013年)