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初心者の「バレー脳」と「次何が起こるか?」

初心者と「次何が起こるか?」

 新年度の春を迎え、今年もまた、新たなバレーボーラーとの出会いの季節を迎えている人も多いと思います。また、人生で初めてバレーボールというスポーツに出会った子供たちや青少年たちもたくさんいるでしょう。バレーボールって、本当に楽しくて面白くて奥が深いスポーツだと思います。仲間もたくさん作ることができるし、たくさんのことを学ぶことができると思います。でも同時に難しいスポーツですよね、特に初心者にとっては。イメージするようなカッコいいバレーボールができるようになるまでには、何年もかけて練習しないといけないかもしれません。

 バレーボールの初心者において、「ボールコントロール」の難しさは、指導するコーチ側も、やる選手側も実感があると思います。まずオーバーハンドパスやアンダーハンドパスなどでは、まったくボールが言うこと聞いてくれない。サーブやスパイクは、「ネット」というモンスターが立ちはだかって、大きな壁となります。

 「ボールコントロール」の習得だけでも、なかなか言葉で言ってもできるようになるわけじゃないし、習得の過程もかかる時間も人によって千差万別でなかなか不透明なものだけに、1週間、1カ月というスパンだけでは、なかなか習得の実感も達成感も得にくいのが実際のところです。
 しかし、最近は初心者の練習で「ボールコントロール」の視点だけでのアプローチではいけないと思うようになり、練習のプログラムやレクチャーの項目として、意識的に取り入れるようにしているのが、

①「次何をやるのか?」
➁「次何が起こるのか?」
③「力の入れ方」
④「時間の感じ方」
⑤「位置感覚」
⑥「変化の自己認識」

 ボールコントロール以外に、初心者を悩ませている要素が、このようにたくさんあるんだと思います。
 こういった視点は、きっと、プレーヤー経験のある指導者からは、なかなか初心者にかみ砕いて伝達するのが難しいことかもしれないと思っています。どれも無意識にできていることですからね。「当たり前だろ!」「見ればわかるだろ」「考えればわかるだろ」っていうことを、人に改めて分かりやすく丁寧に伝えるって案外難しいことです。

 バレーボールって、ボールを保持できませんし、床に落とすこともできません。時間は待ってくれないわけで、その中で瞬時に行動を決断しなければならない。相手も何をしてくるかを読み取るゆとりも多くない。それを初心者にいきなり求めるのは酷だと思うわけです。
 そんな中、例えば、
 ファーストタッチをしたら、次はアタックの助走体制をとったり、被ブロックのケアに行く、スパイカーの助走経路を空けてやる、ブロック着地後のボールのケアをする・・・そんなことが当たり前であって、言えばできそうなことでも、なかなか身につかないものです。それは、決して「サボり」ではなく、意識がそこまで及ばないのではないかと思うのです。一つのことをやることが精いっぱいで、その一つのことをやるのも覚束ない・・・。そのような状況で、次やること、次やることへと意識をつなげていけるはずがないわけです。ですから、当然「相手が次何をやってくるか」というのにも意識が及ぶはずがないわけです。
 
 初心者、特に小中学生の子どもたちに、「次何をしたらよいか」に意識が及ばない苦労がある、「相手が何をしてくるか」に意識をもっていくことができない苦労がある、ということをコーチ側が理解を示しつつ、できる手立てを提案したりアドバイスすることが、とても重要な気がします。
 これが、どうしても、できていない事やミスの「指摘」にとどまった教え方になると、選手側はなかなかチャレンジ精神を発揮できないと思うわけです。

 「声を出そう」というのも、同様の問題があります。プレーやゲーム中に「声」があった方がいいか?ということには、誰もが「あった方がいい」と考えるはずです。
 ですが、ビギナーなどに「声」を要求してもなかなかプレーやゲームの中で出せるものではありません。「彼ら」(初心者たち)は、どういう声を出すべきかの理解が弱い、次に頭の中では声を出すべきだと思ってもボールコントールの難しさやプレーの恐怖感から声を出すゆとりを生み出せない。その「ゆとりのなさ」を生み出すのもやはり「次に何が起こるのか?」ということを「読み取る」ことができていないが故のことなんだと思います。そういう過程を乗り越えて、ようやく「声を出す」が成立するのだと思います。
 ですから、バレーボールをやるうえで、ボールや思考のセルフコントロールがままならないうちは、それ以外の相手や状況など他への意識を求め過ぎても初心者はキャパシティをオーバーさせてしまいます。初心者がみせるパニックに似たぎこちなさは、そこからくるのだと思います。

 バレーボールと初心者との関係では、初心者である「彼ら」が、バレーボールというゲームを成立させ、自らがその面白さや醍醐味を十分に味わうようになるためには、野球やサッカーなどの他のボールスポーツよりも、はるかに時間がかかるものであることは否定できないです。
 ですから、ミニバレーやソフトバレー、風船バレーなどいろんな形があるのが大事なんだと思うのですが、やはりインドアの6人制やビーチバレーが花形だとすると、そこにいたるまでの間の「長い期間」に、「彼ら」にどうアプローチし、何を提供していくべきなのか?は大変重要だと思うのです。
 「真面目に練習しろ」、「勝つ気あるのか?」、「やる気あるのか?」などというやりとりをしているうちは、未来は明るくないと思います。ますます。

初心者の「バレー脳」をどのように引き出すか

 自分のチームではここ数年は、ずっとバレーボール初心者たちを指導しているので、本当にたくさんの試行錯誤を私自身が求められています。
 一概に初心者と言っても、体格の大小の違いがあるだけではなく、もともとの運動スキルが高い子もいるしなかなか走る・投げる・跳ぶこと自体が未発達な子もいる。性格やモチベーションの違いもある。そんな彼らが、バレーボールという共通のチーム・スポーツに挑戦しようとしているわけですが、個に応じたいろんな特性の違いはあれど、バレーボール初心者に共通してあてはまるものが、私なりに考える「バレー脳」なのではないかと、最近考えて練習のアプローチを考えるようにしています。

 近年は、従来の伝統的バレーボール指導の一つである「型はめ文化」や、プレーや自身の感覚に頼ったやや合理性に欠いた内容などから、少し違った指導を試みてきました。
 仮に、「かたち」を身に付けさせたとしても、いざゲームライクや試合となったとたんに、練習で身に付けたものは見事に崩れる・・・「練習のための練習」のようなパフォーマンス披露的練習や形式だけのセレモニー的練習では、特に初心者のゲームスキルを高めるのはなかなか難しいというのは、明らかになってきたのではないでしょうか?

 初心者が、なかなかプレーが上手くいかないのは当然のこと。しかし、それに対して指導者が「なぜやらないんだ!」、「もっとはやく動け!」、「もっと声を出せ!」と声をかけるわけですが、言われてもできないからこそビギナーなわけです。
 スキルが高まっていく中で、姿勢・フォームなどの「かたち」は、できあがっていくものであって、言ってやらせたからといってできるものではない。なので選手自身の試行錯誤において、まずはボールコントロールを自ら体得していくのが大事なわけです。

「かたち」の話は、何度か話題にしてきたので、今回は横に置いておくことにして、先ほど触れた、ビギナーが、バレーボールをプレーする際に克服するのに時として苦労する、ゲーム中の動けなさ、ぎこちなさ、パニック要素・・・に大きく関わっているのが、私はバレーボールに必要な思考力や判断力、それを生み出すためのツールを持ち合わせていないことによるものではないかと思うのです。ここで私は勝手に「バレー脳」とネーミングしておきます^^

 これまで、指導者が求めるかたちができていなければ、「かたちを作れ!」と言い、なかなか動けない選手には「はやく動け!」と言い、コミュニケーションとれていない場面では「声を出せ!」と言う。しかし、そもそも「バレー脳」、つまりはゲームセンスに関わる力が未発達の子に、どんな声を浴びせてもすぐには動けない。だからこそビギナーなわけですよね。
 脳といっても、面白いもので、学力と比例するとは限らないです。つまり机上でなされる脳の使い方と、バレーボールの思考力の発揮は違うところも多いです。もちろん無関係ではなく、「学習力」のある無しなどは、関係している子も見受けられるなと思います。仮に理屈をアタマで理解していも、即できるようにはならないというのが、運動でありスポーツ。でも知識や情報が要らないかといえばそうではなく、原理原則を理解しておくことで学習を促進するのは間違いないわけです。

 そこで、指導する側が、この目に見えにくいゲームセンスを向上させるべき「バレー能」を意識的にトレーニングしていく視点の例には、以下のポイントがあると思い、取り組んでいます。

・ボール飛来のイメージが持てない

・ボールを見て動くタイミングがつかめていない

・プレーにおける着眼点やタイミングをとるポイントがわかっていない

・何を見るべきかがわかっていない

・自分の動きの像がイメージできていない

・ゲームの展開が理解できていない

・「次起こること」を想定できていない

・ポジショニングの判断材料がわからない

・空中ででき得る判断、空中でできることが知識としてない

 こういった要素や練習の視点は、ただ練習メニューやトレーニングメニューをひたすら反復させるだけではなく、やる前に選手にレクチャーしておくことは大変重要だと思っています。
 プレーヤーをやられていた方や現役の上級者の方などは、こういったことはもはや無意識のうちに自動化されていますから、なかなか初心者には説明がつかないできたことが多いのだと思います。
かといって、「自分はそんなこと知らなくてもできるようになった」からと言って、やみくもに選手に練習量・反復量重視でやっていくと、やはりオーバーワークやついていけなく脱落しちゃう子が出ちゃうと思います。確かに反復を繰り返す中で習得されていく部分も大きいのですが、パターンで訓練されたものはあくまでパターンの中での域を越えず、育成で求められるものとは少し違ってくると思います。
 パターン・プラクティスというのは、長短があると思いますが、根本は「型はめ」スモールステップと同じ問題をはらんでいて、パターン以外のことには対応しにくいという点があります。

 初心忘るべからず・・・それは志を立てた新鮮な気持ちよりも、やり始めのビギナー状態のいろんな苦労や試行錯誤の苦難を忘れるな、ということ。
 ペーパーテストの答案を上手に処理できても、バレーボールのゲーム局面で必要な動きを自ら実行できるとは限りません。そのために必要な「訓練」や「トレーニング」が必要です。
 これまで、「動けない」と言って走らせたり、「声が出ていない」と言って声出しをさせたり、「考えていない」と言って「考えろ」と言ったり・・・。それは、指導ではなく指摘、いやそれ以下のレベルではないかと思うようになってきました。(昔は自分もやっちゃってた)
 
 「バレー脳」をどのように見つけさせるか・・・。どんな視点があって、それをどのように練習内容に盛り込んでいくか。そしてどのように指導をしていくのか。
 それこそが、指導者としての腕の見せ所の一つ、特に初心者指導に求められている、根幹的なものではないでしょうか?


(2018年)