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「Aパス」の概念とは「カウンター攻撃できるええパス」


セッターの定位置にファーストタッチのボールをパスする

「Aパス」とは、

セッターのセットアップ定位置にファーストタッチが返球されることで、セッターはすべてのアタック・ヒットが選択できる状態を生み出せる。

「定位置」というものには、そもそも規定やルールはありません。

ここが重要だと思っていて、

セッターは、ゲームにおいては、ネット付近に移動をしセットアップをするわけです。そこから、だいたいどの位置にもセットアップできそうなニュートラルな位置を、いわゆる「セッターの定位置」としているのでしょうが、セリンジャーの「パワーバレーボール」(かなり古い本)などでは、コート幅を分割分類する「スロット」によるナンバリングが採用されていることもあり、そこでは「スロット0」がセッターの「定位置」となっていたりするので、私たちは、何となく「セッターの定位置」というを用いています。しかし、まずもってセッターに絶対的な定位置はないと思っています。

 しかし、私たちの身の回りで言われているところの「Aパス」という考え方は、かなりその範囲が限定的な意味で使われている、またはその考え方に縛られ過ぎているのではないでしょうか?

Aパスが増えれば試合は勝てるのか?

 日本のバレーボールの指導現場では、「Aパス精度を上げる」ということが、練習やゲーム中のパフォーマンスでかなり重点が置かれていることが多いです。もちろん、ディフェンスのスキルを高める意味で、Aパスを返球するパーセンテージを意識して練習することは必要なことだとは思っていますが、問題はAパスの精度を上げることだけが要求されてしまっていることが多いということです。
 Aパスをすることで、セッターが安定してセットアップを行うことで、安定したセット(トス)が供給され、結果アタックヒットを十分に可能にさせる・・・。ということなんでしょうけど、セッターやセットのボールが安定しているからと言って、アタック決定が比例的に向上するとは思いません。なぜなら、アタックの決定力は、スパイカー自身のスキルや判断力が作用しますし、何よりも相手ブロックという存在があるからです。

↑レセプションとアタックの成績との関係に関する検討(『バレーボール研究』より)

このように、「Aパス」についての議論は、ここ数年間でかなり動いてきてるように思うのですが、それでもなお日本のトップカテゴリでは、狭い意味での「Aパス精度」にこだわっています。
 結果、どのようなことになっているかというと、

Aパスが入れば勝てる」

「Aパスが入らないと勝てない」

「(固定化された限定的)Aパスにしなければいけない」

どんどん、プレーヤーに精神的ストレスとプレッシャーをかけると同時に、戦術的にも、Aパスに依存した攻撃、つまり、Aパスにならないと自動的に攻撃を構築することができず、得点力が大きく低下してしまう。
ですので、さらにAパス最優先の練習をしてしまう。
という悪循環になってしまうのだと思います。

現代バレーとAパスの評価

 しかし、先ほどから述べているように、そもそもセッターには絶対的な定位置の規定があるわけではありませんし、実際のゲームをみても、セッターはあらゆる場所から自分のポジショニングをとってセットアップしていることがわかります。
 さらには、むしろ「セッターの定位置」を仮に柔軟に変更させていくとすれば、その分相手ブロックシステムとの勝負で、いろんな策をつくりだすことにもなるはずです。
 スロットにも絶対スロットと流動スロットがあると同じように、セッターの定位置にもバリエーションが持てる方が望ましいです。
 では、「Aパス」とは、どう考えたらいいのか?Aパスにこだわらなくてもいいのでは?ということになってきますが、やはり「Aパス」を目指すことは必要なことだと思います。やはり、Aパスからの攻撃が得点しやすいのではと思われます。

 そこで、考えたいのは、従来の「定位置」、つまりセッターの位置を指定するのではなく、セッターの「状態」、つまりセットアップ時のセッターの準備態勢の有無で考えてみてはどうかという問いです。
 「インタイムプレー」などと言われることもありますが、セッターは、返球されるボール(パス)の落下点にゆとりをもって移動でき、かつセットアップをする準備が可能なゆとりを確保、さらには味方の攻撃態勢も整った中から複数の選択肢から選択できる状態にすること。こういう状態であれば、セッターの立ち位置がたとえ違っていても、「Aパス」的に評価していいのではないかと考えます。

 こういった、Aパスの概念や発想というのは、練習段階から気を付けなければいけないと思っています。
 一般的には、スキルごとに分解された練習を行うことが多く、特にスキルの精度となるとクローズドスキル的に練習することになると思うので、どうしてもAパスの概念は、固定化された、絶対的セッター定位置を狙うことにとどまってしまいがちです。
 しかし、Aパスの評価を、 
  ・セッターの準備体勢が十分に確保
  ・複数スパイカーの攻撃態勢が確保
  ・セッターにセットアップの選択判断の選択肢が確保

 というような条件で、多少位置にずれがあるのを許容するようにすれば、「Aパス」を目指した練習は、スパイクヒットまでを行うことをしないと、実戦に結びつかないのではないでしょうか。
 
 つまりは、「Aパス」は、自分たちの攻撃を生み出せた「ええパス」であることが重要で、セッターの定位置にボールを送る、ダーツのような的当ての発想ではないというこです。

イン・システムの幅を広げる。Aパスの幅を広げる

 そう考えると、いよいよ究極的には、セッター以外の選手がセットアップをしたとしても、「Aパス」になり得るのではないか?という個人的な勝手な仮説を持ったりするわけです。
 近年では、セッターがファーストタッチをする場合などは、リベロが積極的にセットアップに参加し、セッターと同等の機能を果たすことが求められています。
 従来のAパスの概念では、セッターがセットアップをしない時点で、Aパスという評価はできないことになるわけですが、リベロがセットアップを積極的に行い、十分な攻撃システムを発揮することが求められます。そうなると、リベロはアタックラインを踏み越してのオーバーハンドによるセットアップからアタックヒットができないことを考えると、リベロのセットアップにおける「Aパス」があることになるわけです。
 だから、もはや限定的、狭義のセッターの定位置としての「Aパス」という考え方は限界に来ているのではないかと思いますし、実際にそうやってきた日本のバレーボールが、世界的にみてゲームにおける得点力低下の問題につながっているのだと思います。

 究極的には、選手全員のセット能力(オーバーハンドパススキル)を高めておけば、「Aパス」の範囲はどんどん広がっていきます。
 ・攻撃オプションが複数準備態勢がとれる
 ・カウンター体制の完了
 ・セッターのセットアップ準備の確保
 ・セッターの選択判断の確保

これらが整い、仮に位置は固定化された位置ではなくてもセットアップできれば、ファーストタッチのボールを供給した選手には、ナイスプレーの評価を与えてもいいのではないかと思います。

「Aパス」になり得る範囲が広がれば、その分チームの得点力は上がることになります。

 ・セッターのセット準備能力(フットワークや難しい体勢)が可能である。
 ・スパイカーのスパイク準備能力(攻撃パターンの即興性)
 ・セッター定位置の変更対応力

 限定的なAパスのターゲット精度を上げることよりも、「Aパスにし得るスキル」をチーム全体で高めておくことが、チームの勝利に直結すると考えています。従来の「Aパスにする返球精度を上げる」という考え方から、「Aパスとなる攻撃態勢づくり能力を上げる」とすべきではないでしょうか?

 これからは、選手に「Aパス」を求める場合は、クローズドスキルとしての返球練習だけで終わらず、カウンター複数人攻撃をとる練習、さらにはよりコンプレックス(複雑化)した局面からのカウンター攻撃を成立させるところまでの、セッターのセット能力とスパイカーの攻撃態勢づくりのイマジネーション力を評価した「Aパス練習」が必要だと思います。

(2018年)