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「神経戦」としてのバレーボール

「ストレス」を与える攻防
「ストレス」に対抗するプレー
相手のやることがわかることによるストレス
相手が何をしてくるか分からないことによるストレス

 実は、バレーボールのゲーム(試合)では、一つ一つのプレーのパフォーマンスや完成度の高さ、難易度の高いプレーによる競い合いだけではなく、「相手のスペックを落とす」、「相手が意図する戦術をさせない」競い合いも重要だと考えています。
 どんなスポーツ競技でも、選手の「メンタル」の充実は必要不可欠であり、その差が勝敗につながることも多いわけですが、特にバレーボールは「メンタル」が及ぼす影響が大きいと考えます。そのメンタルというのも、個人のプレーやパフォーマンスの発揮に関与するわけですが、自分自身の内なる問題としてのメンタルの維持だけではなく、相手から与えられる心理的揺さぶりやストレス、プレッシャーとの戦いの要素が大きいわけです。こういった部分は、ゲームを外から観ているだけではなかなかわからない部分もあるかと思います。逆にプレーヤーまたはプレー経験のある人は、この何とも言えない緊張感や不安感、ストレスやプレッシャーがお分かりになるんじゃないかと思います。
 つまりは、メンタルと言っても、「自己との闘い」と「相手との闘い」とに対峙しなければいけないということです。

 特に重要なビッグマッチやファイナル、そして両チームの実力が拮抗しているような状況であるほど、選手個々の頭脳がどう機能しているか、もちろんメンタルも含めての話でありますが、一瞬の判断の誤りや隙が勝敗に大きな影響を与えることも出てくるのではないかと思います。

 その試合全体を通して、接戦と思えるようなスコアだったとしても、例えばセット後半から1,2点抜け出したり、中盤まではもつれても最終セットになって相手を圧倒するような試合を観ていると、そこにはやはり「メンタルの崩壊」が観られることも少なくないです。
 実際ゲームをしている選手たちは、どのような「眼に見えにくい戦い」、「インナーゲーム」をしているのでしょうか?

◆狙いや意図が徹底している相手のサーブ
 相手がどこに打ってくるか、逆に分かり切っているサーブというのも、プレッシャーがかかります。特にチームのアタックの主軸となる選手にサーブが集中すると、レセプションに対するストレスやプレッシャー度合いが増し、自身のスパイクのパフォーマンスが低下したり、さらにはミスを誘発してしまうことが増えます。このストレスが1セット、2セット・・・と積み重なっていくと、仮にフルセットになったとしてもそこで明暗を分ける展開が十分考えられるわけです。

◆しつこく相手ブロックに跳ばれる
 アタッカーというのは、フリースパイク(ノーブロック)は思い切りボールを叩けても、相手ブロックが1枚、2枚・・・と枚数が増えていくほど、当然のことながらスパイク決定しずらくなるものです。ですから、アタッカーにしていれば、ゲーム中相手が常時ブロックが複数枚跳んでくる展開を維持してくるだけでも、心的なストレスやプレッシャーとなり、ボディブロウのように終盤のスパイクアウトにつながることが起こりえます。

◆相手の中央攻撃に対する消耗
 逆にスパイクを待ち受ける側のブロッカー、特にミドルブロッカーにとっては、相手の仕掛ける攻撃に対し、ツー攻撃の警戒もありながらの、攻撃の第一波ともいえる、相手のミドルのクイック攻撃、そこからのサイドへの攻撃展開への対応、そして現代では同じ中央位置からバックアタックの攻撃もあり、相手の中央攻撃に神経を張るウエイトが増してきています。

◆数的優位でしかけてくるシンクロ攻撃
 ブロッカー3枚に対して、相手の攻撃オプションが2つ以下に絞ることができれば、ブロックの対応は比較的容易になりやすいです。
 しかし、相手セッターが前衛であればバックアタックを含めて攻め手は3つ、相手セッターが後衛であればフロント3にバックアタックを加えた4つの攻め手を擁することができ、ブロックに対する数的優位を構築することができます。
 ブロック側にしてみれば、相手の攻撃側に数的優位に立たれてしまうと、その瞬間からの判断と対応はかなり負荷のかかった難しいものとなります。

◆わかっちゃいるけど止まらないストレス
 しかし一方で相手の攻撃側に数的優位を許さなかった場合や、ブロック側の想定通りの攻撃が繰り出された場合でも、ブロック枚数がしっかり対応しても止められないスパイクがあるのも事実です。
 高さとパワー十分なファーストテンポのふわっと空中に浮くようなクイックや、WSやOPのサードテンポやハイセットのスパイクなどでは、破壊力あるエースなどがブロックなどもろともしないスパイクで得点をたたき出すこともしばしばあります。
 こういう展開ではともすると絶望的な心理にもなりかけるのですが、それでも3セットまたは5セットの長期戦に持ち込んでの戦略が求められてくるのです。

◆ビックサーバーへの恐怖感
 もう一つ、わかちゃいるけど、どうしようもないストレスは、ビッグサーバーです。
こればかりは、相手としてはどう妨害することもできません。ですからこういう場合では守る側のメンタルは、十分な技術の訓練と、シフトの位置取りや攻撃の想定など戦術的な理解をしっかり持って備えることが必要になってくるわけです。

◆相手のシステムの変化
 セットによってオーダーが変わる、さらにはオーダー順のみならず同じ選手によるポジション変更、そして攻撃のセット配分や攻撃パターン、ブロックシステムやディフェンスシフト・・・ゲームの中で様々な変更がかかってきます。
 それらの変更に対応できるだけのスキルと戦術をもっておかねばならず、こういった変更も相手を動揺させ、ストレスを与えることにもなります。

ここで言う「メンタル」は、強い気持ちや心、気迫や集中力といったぼやけた概念ではなく、技術や戦術的にどう対処すべきかの判断を迫られるといった、より具体的な思考のことを指していると思います。そういう点において、バレーボールのゲームでは、相手に思考判断的な負荷、ストレスを与えているかにも注目していくといいと思います。


(2020年)