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メンタルで勝とうとするから、メンタルで負ける

選手たちがよく言う、「メンタル」の強化ということです。
メンタルを強くする、心を強くする、精神力を強くする。
これって、何なんでしょう?ということです。
練習でお邪魔しミーティングをした際も、選手たちに他に課題は?的な話題をした時も「メンタルを強くしたい」みたいな声がありました。
自分もこれについては、何かを証明したこともないし、実績を根拠にした説得力はないのですが、最近よく考えています。

そもそも「メンタル」ってどこにあるのか?

それは、「メンタル」というもの自体が、強いもの、弱いものであり続ける個体ではなく、それは常に変化するものであるし、同じ状況や条件でも、人の受け取り様で、いくらでも違うということを考えなければならないということがあります。
さらには、「メンタル」というのは、使い様で、要するに「いいメンタル」は、積極的に活用したい、
逆にネガティブなマイナス的なメンタルは、極力もちたくない・・・ということだと思います。
ここで、最近考えているのは、

「メンタルの介入を許さない」メンタルの強さということです。

ポジティブでいようと思う時点で、ネガティブが存在するし、ネガティブを排除しようと思う時点で、ポジティブは遠のく。不安、恐怖、萎縮・・・そういったメンタル的状態を、思考に入れさせない、余地を与えない、つまりは、嬉しい、苦しい、ヤバい、どうしよう、楽しい・・・そんなことを「考えるヒマがない」ようにしたらどうだろう?
そこで、大事になってくるのが、テクニカルな部分における、知識や情報、コミュニケーションのスキルなんだと思います。
どんな攻撃で優位にしたい?それはなぜか?
そのために必要なレセプションやブロックは?
ブロックをどうしたい?そのためのサーブは?
今のプレーの修正点は?
相手はどうなっている?・・・
そういう思考力やコミュニケーション力、考える習慣を身につけておけば、いちいち心のトレーニングとか、精神論で終始せずともいいのではないかと思います。
いわゆる、「ゾーン」や「フロー」というのは、言葉では説明できない、究極の無の集中力の極致の例です。
今さらながら、というかやはりというか、特に中学生たちのメンタルの維持、セルフコントロールをさせるというのは難しいもんだなぁと思わされます。エンジンがかかるのが遅いし、一度ちょっとした失敗があると、一気に落ち込んでしまったり。でもベンチから、ワーキャー叫んでもしょうがないし。
「ゾーン」とか「フロー」という、非常に集中し、何をやってもうまくいくような感覚を覚える、自分のベストパフォーマンス状態というのは、結果への不安や心配がなく、極めてプレーへの意志と意図が明確で、感情の余地がなく、身体的なリラックスが保たれ、非常に充実した表情で、自分の思う通りに行動がなされる状態への入り口をいかに探すか

・チャレンジマインド(挑戦心)
・向上心、成長を求める姿勢
・積極的な双方向のコミュニケーション
・自分のありのままを客観視できる冷静沈着さ
・プレーや戦術への思考の連続、ゲームへの没頭
・内発的動機
・自分の強み、相手の弱みへの意識
・フィジカルチェックとケア

こういった側面から、いろんな行動や準備ができるはずで、「ゾーン」や「フロー」と呼ばれる状態への「入口」は、たくさんあるはずなのに、どうしても、メンタル的な調子を保つのは中学生には難しいのかな、と思ったりします。
手っ取り早いのは、ベンチから大きな声を出し、または普段から選手を追い込むようなブレイクスルー的な状態を日常化することで、選手はそれに負けじとパフォーマンスし続けるというのがよくある手法なんですが、これは一定の即効性はあっても、必ずどこかで手詰まりになりますし、ましてやこれからの将来性を拓こう、育成しようとなれば、それだけで大会に臨むのは避けたいなと思うわけです。

「メンタル」を持ち出す時こそ要注意!?

コート上の中学生高校生を見ていると、
「声を出していこう」「集中しよう」「盛り上がっていこう」
「カット(レセプション)一本」「こーい(来い!)」
という声を叫んでいる選手が多いです。
ちょっとキツめに言うならば、毎回そういう光景にはセンスのなさ(笑)を感じてしまいちょっと残念です。(変な書き方ゴメンナサイ)というのも、それらの言葉を発して、功を奏したことなんてみたことないからです。
「声を出せ!」といって、いきなりみんなが声を出して、チームが鼓舞されプレーが変化することなんてまずないです。出したとしても、何だかワーキャー叫んでいるだけで、むしろ思考が停止し、身体が硬直化していく様が見られます。
「こーい」と叫んでいて、いざサーブが自分の所にボールが来たら、まあまあ悲惨なことになることが多いです。
つまりは、選手にそれだけ、思考方法を学ばせていないということです。選手たちに活気があって、動きや行動に無駄のない集中した様・・・・そういったものを作りだすには、先ほど挙げた例のような「入口」というのはとても大事です。
「緊張するな」といった時点で緊張は強化されますし、
「集中しよう」といった時点で集中しきれない感情が邪魔する、
「自信を持て」という時点で自信のない自分が助長され、
「元気を出せ」という時点でチームは停滞する。
大事なのは、
何をすることでチームに活気が出るのか、何を選択してプレーすることで集中力が出るのか、
やはり、知識や思考などという蓄積は大事であり、それらを材料とした情報で自分自身の思考を満たし、コミュニケーションの材料とすることが、中学生たちにとっては足りないことなんだろうと思います。

従来の声出せ指導、そして選手の試行錯誤の機会があまりないとか、思考の材料を広げるコーチングというのがあまりなされてこなかった、そういった部分に手当てをし、まさに自立したゲームを楽しみ没頭する自分をつくりだすスキルも求められるんだろうと思います。
先日練習した高校生たちともそんな話題になりました。だから、日々頭脳のアップデートも大事なんだと思います。そろそろ、「一本集中っ!!」「リラックスしよう」「こーいっ」ってしか言えない、言わせることしかできない、ゲームからの脱却も求められると思います。
 プレーやゲームに対して、「メンタル」を意識することのない状態。実はテクニカルな情報や戦術的な情報があふれている中、気持ちだの集中だのメンタルのことばかりが話題になるのは、それだけ「考えていない」、「考える余裕がない」、「考えるための情報がない」などと定義できるのだと考えています。
 気持ちの話をするヒマがあったら、サーブにどういう効果をもたせたいか、それによってブロックシステムをどのようにするか、その後のオフェンスシステムをどうすべきか・・・語るべき情報、考えるべき情報処理は山のようにあるはずです。
 テクニカルな思考で脳内を満たせば、自然とメンタルのことなど気にもしなくなる。そのためには、日常の知識理解や思考判断をトレーニングしておかねばならない。
 もし「メンタルで負ける」ことがあるとしたら、それはバレーボールの競技の専門的なコーチング以前の、精神論に頼った指導環境のせいかもしれないですね。

(2014年)