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バレーボールの育成における4大スキル問題

 私たちが、バレーボールを「見る人」という立場で、バレーボールを楽しむとき、どうしても戦い方や戦術というものに話題がいきがちです。
 しかし、日本のアンダーカテゴリにおける指導風土や伝統的な指導内容が「基本」とよばれているものに与えているネガティブな影響があることを見直さねばなりません。これは決して、今プレーしている選手たちの批判ではなく、バレーボールの指導や育成の在り方への提言です。

教え過ぎ&変な指導が上達を阻害している

いろんなチームに所属する小中学生たちと接していると、スキルや発達段階、成長速度に個人差がみられるのは自然であり、当然のことだとは思っています。

 しかし、それとは別にある、日ごろの練習や受けている指導の影響による課題も多いなと感じています。どのスキルのトレーニングも大事なのですが、

 ①キャッチ癖が抜けない「オバーハンドパス」(セット)
 ②インタイムプレーを作れない「レセプション」(サーブレシーブ)
 ③思考停止ロボットブロック
 ④ミスをおそれた弱腰サーブ

・・・この4つは特に、育成の責任で負うべき4大問題だと思ってます。
 「コーチング」と言っても、別に手取り足取りの指導が悪いわけではないと思っています。しかし、
 この4つのスキル問題は、
 ・カタチを画一的にやらせる「型ハメ」指導
 ・ミスや失敗を許さない高圧的な指導
 ・早期に分業を強制する非オールラウンド指導
 ・やらされる練習によって試行錯誤のできない主体性のない練習
 ・指導者の後付的な強引な非科学的理論
 ・一貫した指導プログラムがなく、カテゴリごとの指導理論の分断

こういった指導体質によって、発生する問題だと考えています。

(キャッチ癖をつけさせない指導力が求められます)

(「基本」というものはレベルやカテゴリを貫いて存在するはず)

(こういうブロックは、中学生でもできるし、男女に関係なくできると思います。)

(サーブにおける技術もメンタリティも大事)

 トップカテゴリのバレーは、小中学生とは次元が違うので関係ない。男子と女子は筋力が違うからできるできないがある。オーバーハンドパスが飛ばない初心者はキャッチもやむなし。スイングブロックはタッチネットや吸い込みが発生しやすい。サーブミスが多いと試合で勝てない。レセプションは正面で取れ。
 ・・・こういった類の内容はちまたでよく耳にする内容です。

 しかし、トップカテゴリで行われている技術やスキルの土台は、育成の中で養われるものです。トップでやられているプレーやパフォーマンスが、どのようにして生まれるかを科学的かつ合理的に説明できなければなりません。
 キャッチから導入しなくても、初心者がオーバーパスを飛ばせるようになります。
 サーブミスが多くても、何カ月も練習を積み重ねればビッグサーバーになることができます。
 特に初心者にはカタチの強要から解放し、タイミングや感覚を自ら修正できるようになれば、ボールの返球は安定してきます。
 スイングブロックは、より高さを出すことができ、練習の反復によってミスやエラーを抑えることができます。
 強力なサーブに対するレセプションは、わざわざ腕を引いたり後ずさりをさせなくても、しっかり立ってでもボールをコントロールできます。

 数日間での短期的な成果ばかりを見るのではなく、何カ月または何年間を通してスキルアップの経過を見ていくことも重要です。
 
 指導者側がアップデートや学習することがないまま、見様見真似の指導や、検証すらしていない指導内容の模倣や踏襲のままでは、ビギナーから習得すべきものを奪ってしまう問題は続くだろうと思います。

従来型指導内容を疑う・検証する・アップデートさせる

日本のバレーボールの技術や戦術がなかなか世界の潮流に乗れていない背景のひとつに、指導現場の風土・体質みたいなものがあると思っています。

 バレーボールでも日本では、いかに、後付けの理論や、根拠のない通説が多いことかと思います。代表的なものを挙げますが、多くの人が一度は聞いたことがあることじゃないでしょうか?
 こういった、経験則で行っている指導や、感覚的な指導、口伝的な指導方法が、プレーや戦術のアップデートを妨げていることがかなり多いように思います。
 
 結論から言うと、
  ・仕組み的に複数年の長期間、時間をかけて指導できない環境になっている
  ・指導者が時間をかけて練習して得られる成果を待てない

 
 ということになり、それができない故、いろんな理屈を後付的に行っているものも結構あると思っています。もはや「やらない」合理的な理由ではなく、「やりたくない理由」と化しているように思えます。


☑バックアタックをさせない理由
 (俗説)⇒ バックアタックには高さとパワーが必要だから
       バックアタックでは、得点が獲れないから
       女子やパワーのない選手にはバックアタックは無理
★(実践・検証)
 何も、他のアタックを封印してまでバックアタックで得点しろとは言っていない。
 無理にハイセットをするもハンドリングの反則や、セットにならず相手のチャンスにする場面がこれまで多すぎたのです。
 そんなことをするよりは、セットしやすいスロットを見つけ、スパイカーも積極的に自分のいる場所から攻撃参加を仕掛けるべきです。こうすることで、相手への献上チャンス乱発を防ぐだけでなく、現代バレーの標準であるシンクロ攻撃の源流を生み出すことにもつながります。
 初心者指導で言えば、ニアネットのボールほど、スパイクは打ちにくい。初心者が安心してスパイクにチャレンジできるのは、ネットから離れたボールを打つことです。だったらバックアタックはむしろ練習の導入要素が強いわけです。

☑リードブロックをしない理由
 (俗説)⇒ クイックを止めきれないから
       はやい攻撃に間に合わないから
★(実践・検証)
 ブロックを単独プレーでの対処で考えること自体が良くありません。基本はサーブとブロックで考えることです。クイックを止めきれないのではなく、そもそもスパイクジャンプVSブロックジャンプでいえば、クイックに限らずスパイク側が有利なのです。
 クイックを止められないことが、理由にはなり得ません。そもそもバレーボールでは、相手がクイック攻撃をコンスタントに採用させている局面自体が問題であって、それはブロック以前に、相手にクイック攻撃を十分にさせてしまっている状態が問題です。相手のクイック攻撃にやられているとすれば、それはサーブやこちらの攻撃を分析すること、さらには本当にブロック戦術が適切かを分析する必要があると思います。1セット25点のうちクイックで得点するウエイトはそれほど大きくはないはずです。
 また、リードブロックは、相手セッターのボールコンタクトを見てから素早く反応して動くという、シー&レスポンス、シー&リアクトのスキルが求められ、これらが実戦で対応できるようになる、またはレスポンスやリアクトが素早くできるまでには、かなりの時間がかかるという事実もあります。すぐにはできません。(何だってそうですが)
 結論、バレーボールのゲームの戦術やマクロな戦局の視点に立っていません。

☑スイングブロックをしない理由
 (俗説)⇒ ブロックの完成形が整いにくく、ネットに吸い込みやすいから

★(実践・検証)
 スイングブロックの方が、スイングなしのブロックジャンプよりも最高到達点は圧倒的に高いです。
 スイングブロックをやっていない選手が、ステップから勢いをつけてジャンプしてブロックをし、空中で相手スパイクに対峙できる状態を作ることができるようになるまでには時間がかかります。反復練習が必要です。中学生でも1~2年はかかります。もちろん、やり始めはタッチネットや吸い込み、タイミングのズレなどが生じやすくエラーが発生しやすいです。
 逆に言えば、時間をかけて練習すれば、中学から始めた子でもできるようになるということです。実際にできるようになります。スイングブロックから、吸い込みやタッチネットなくブロックできるようになります。

☑止まってボール処理することを優先させない理由
 (俗説)⇒ 特に女子や子どもは、筋力がないから
       女子は、ネットが低く打点が低いため、ボール飛来の時間が      短いため

★(実践・検証)
 ダッシュ&ストップは、確かに負荷がかかる動きではあっても、男女の違いや筋力の違いに関わらず、移動後から静止する間合いがあるボールコンタクト(イン・タイム状態)を生み出すことでボールコントロールが安定することには変わりありません。
 女子や子どもができないのではありません。練習をすればできます。できるようになるまで練習していない、練習させていないことが要因として大きいと思います。

☑レセプション時にサーブの威力を意図的吸収緩和できるのか?
 (俗説)⇒ サーブのショック(ボールの勢い)を吸収させるためにボールコンタクト時に腕を引いたり、後方への体勢移動させながら行う。

★(実践・検証)

 腕を引いたり、後ずさりをしながら返球したり、尻もちをしたり後ろに転がりながら返球せずとも、強いインパクトのあるサーブを両足で立って返球するプレーは可能です。というかトップレベルの選手のプレーでもみんなそうやっています。

☑オーバーパスの練習でキャッチを入れる練習をやめない理由
 (俗説)⇒ 筋力のない子は、キャッチせずにボールを飛ばせないから。

★(実践・検証)
 そもそも、オーバーパスの手の形から、オーバーパスの動作原理で飛ばす原理と、キャッチをしてから飛ばす原理は、違うものと考えます。だから、キャッチで飛ばせている子が、筋力がついたからといって、本来の動作原理でオーバーパスが飛ばせるようになるとは言えません。
 キャッチぐせのついた選手を、適正な動作原理で飛ばせるように修正するのにも相当な時間がかかります。
 っていうか、そもそも「キャッチ」というルールに反することを教えるってダメですよね?
 だから、オーバーパスがちゃんと飛ばせるようになるまで根気強い指導ができないから、手っ取り早くキャッチをさせちゃっていることになる。

☑オールラウンドな育成をしない理由
 (俗説)⇒ 選手特性を見抜いて、練習量や経験の確保が必要だから。

★(実践・検証)
 特に小中学生などは、体格や思考力も大きく変わっていきますし、得意なプレーや興味関心も変わっていきます。なぜ小中学生でやったポジションを未来永劫続けなければいけないのか?
 なのに日本のトップカテゴリでは、得点力のあるMBがいない、守備力のある大型選手がいない、大型セッターがいない・・・と「ないものねだり」ばかりを繰り返すから困ったものです。無いなら、育てて世に出すしかないだろうと思いますが。 

 とにかく、日本のバレーボールの指導現場、育成環境で言えば、複数年にまたがった長期ビジョンに立った、スケールの大きい指導ができない状況です。小学生からメンバーが固定され、膨大な反復やプレー時間を積み重ねて、限定的なスキルの完成度を上げていく。しかし、それも1,2年しか継続できず、次のカテゴリではまた別の指導を受けることになり、発展性が断たれる。
 指導側も、短期スパンでの成果や結果を出さねばならないという強迫観念から、断片的な指導や限定的な完成など、短期間で目に見えるもの以外は、意味のないものとして排除していくことになります。
 (そんなのんびりやってても勝てねーよ)っていう論理。
 
やりたくてもできないのは、次々と大会がやってきて勝たねばならないから
長期間見守る余裕がないから、今できる子を選抜するしかない
結局、本来は目指さなねばならないことでも、
そのカテゴリの中だけを考えると、やらなくていいとなる。

 このようないろいろな土壌の中で、いわゆる「ジッセキ」(実績)・・・つまり日本一になったとか、ローカルな世界で何連覇したとかの結果を出した人の手法に、その正当性を見出そうと、いろいろな理屈を後付していることが繰り返されています。
 いずれにしても、世界を無視した極めてローカルな世界で構築された理屈が、いまだ継承されていることに、もっと危機感をもたねばならないと思っています。

 選手は頑張っています。むしろ今まで育ててくれた環境や人へのリスペクトを大切にしながらプレーを頑張っています。だからこそ、コーチ(指導者)は、日々クリティカルシンキングをもちながら、アップデートしていかないと、戦術以前の世界との差はなかなか埋めることができません。


(2018年)