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枝葉にとらわれないデータの活用~アタッカーの優位性の勝負

データ、エビデンスが求められる現代のバレーボール

「どうすれば勝てるか?」
そんなことを知りたがる人はとても多いです。
 どんな練習をすればよいのか?
 どんな戦術をすればよいのか?
 どんなフォームがいいのか?・・・。

しかし、「どうすれば?」の問いかけの多くが、ハウツーに偏ったものだったり、個別のスキルの正解を求めていたり、「これだけやれば勝てる」という妄想という名の思い込みが、「手段の目的化」となっていたりするっような気がします。
 当ブログでも、二元論的思考の危うさや、問題志向アプローチに偏る危うさ、間違ったスモールステップ傾向の危うさなどを話題にしてきました。
 それでも、まだまだ、思い込みに近い理屈がたくさんあるんだろうと思います。

・サーブミスを減らせば勝てる

・Aパスの精度を上げれば勝てる

・高速バレーを完成すれば勝てる

・コンビバレーをすれば勝てる

・高さをそろえれば勝てる

 例を挙げればこのほかにもたくさんあるわけですが、それらの理屈の中には、プレーヤーとしての感覚的な要素や主観が強いものも多いように思います。
 ところが近年では、バレーボールでも「データ」と呼ばれているいろんな統計数値を算出し用いることが普通になってきました。ところが、これらの「データ」も、せっかく割り出したとしても、その次に行われる分析や活用で、せっかの材料も生かしきれないことも出てくるわけです。

無題

 例えば、レセプションの成功率やサーブミスの本数などがデータとして割り出されます。もちろん個人のプレー精度や確率の良し悪しが明らかになってきます。
 特にバレーボールなんかは、個人のプレーのミスが即失点となりやすい特徴があります。ですから、個別スキルのミスやエラーによる失点を減らすことを目指すのは当然のことです。しかし、それらエラーやミスによる失点が勝敗にどの程度影響を与えているのか。その関与の度合いは、チームやカテゴリによるレベルによって違うはずです。
 ここで一つ、考えたいのは、「ミスを減らせ」、「Aパスにしろ」、「サーブをミスるな」・・・といった考え方は、本当に勝利に直結するのか?(もうすでに正しいとは限らないと提言してきた)ということです。
 先に言えば、小中高校生バレーなど育成段階での失点傾向とその勝敗への関与が、感覚的にシニアにも残ってしまっていることが問題だったりするのではないでしょうか?平たく言えば、小学バレーでも中学・高校バレーでも、そしてVリーグや代表レベルでも、本来はレベルも技術も戦略も違うカテゴリを通しても、同じようなことを言っているのではないか?ということです。中学生に「サーブミスを減らせ」というのと、シニアトップに「サーブミスを」減らせというのと、同じように扱えないと思うのです。

無題2

ですから、やはりこれからはデータを収集し分析し、それらをエビデンスとして戦術やコーチングの材料としないといけないのだと思います。
 例えば、図は、Vリーグ機構のデータをもとに、Vプレミアにおける、スパイク決定率と勝率の相関関係を示しています。男女ともにやや強い相関関係ががみられそうです。
 近年では、チームにいるアナリストが緻密にデータを割り出してくれています。データはいろいろあるんですよね。そこでやっぱり大事だと思うのは、データの活かし方なんだと思うのです。

 バレーボールにおけるデータの活かし方、各データと勝敗への関与は、ゲームのレベルやカテゴリによって違いはあると思います。例えば、小中学生などのゲームは、サーブによる得点、レセプションミスによる失点が上のカテゴリよりも顕著に表れてくると思っていて、そういった場合サーブミスに気付けるとか、レセプションミスが出ないように気を付けるなどの留意点は上のカテゴリに比べて重点化されるかもしれません。

バレーボールというゲーム性や構造の本質を考える

 そういった中で、カテゴリの枠を超えてある程度共通して、ゲームの勝敗の有利不利を明らかにできるデータは何か?と考えたりします。

無題3

そう考えると、

・「スパイク決定率」

・「ブレイク率」

・「サイドアウト率」

という3つの指標は、ゲームを見ていくうえでは、データの良し悪しからゲームの内容を読み取ることができそうです。

 バレーボールにおける得点は、サーブから始まるラリーでの得点と、レセプションから始まるラリーでの得点から成り立っています。
 野球やサッカーでは、比較的オフェンス局面とディフェンス局面がはっきりしていますが、バレーボールでは、ディフェンスやオフェンスというのは、サイドアウトの局面とブレイクの局面が絡み合い目まぐるしく入れ替わりながら展開していきます。バレーボールでは攻守入り混じって、サイドアウトでの得点とブレイク得点になっているんだと思います。

 「スコアリング・スキル」 
 「ノンスコアリング・スキル」


 という分類もあるわけですが、得点のことだけを考え、スコアリング・スキルだけを高めればいいかというとそういわけではありません。バレーボールの得点には、ノンスコアリング・スキルの影響も大きいわけです。
 しかし、ノンスコアリング・スキルを高めれば、それが即得点力になるか?というと、それも違います。Aパスの精度を上げたところで勝てるわけでもないし、仮にAパスにならなくても得点は獲れるからです。

「点」でゲームをみるのではなく、「線」や「面」でみる 

そこで、個人的に考えたのは、

「得点の総体」で考える

ということです。

 「ブレイク率」や「サイドアウト率」というのは、もはや何か個別のスキルの精度の問題を越えて、ノンスコアリング・スキルとスコアリング・スキルの総合的な結果だと言えます。だから、一つのスキルを高めれば即結果になるとは限りません。
 「スパイク決定率」も、ともすると文字ずらに目を奪われると、スパイカー個人の能力と考えがちですが、結局はスパイクに至るまでのさまざまなプレーや戦術が作用していますから、スパイク単体で考えるべきものではないということがお分かりになると思います。ましてや、相手のブロックという障壁があるわけで、そことの駆け引きなしに、決定率の向上などあり得ないわけです。
 大事になってくると思う考え方として、

 ネットの向こう側にいる相手に対して、自チームの「アタッカー優位状態」をいかに作り出すか。

 それは、対ブロックにおける数的優位でもあるし、ブロッカー対スパイカーの高さ的優位でもあり、ハイパフォーマンスの優位でもある。一番は、思考の優位なんじゃないかなと思います。
 この「アタッカーの優位状態」を作り出す、っていうのがチームや個人の特性を生かした指導になってくると思っています。だから、この部分が、チーム状況やカテゴリなどレベルの違いによって、いろんなチームの作り方になるんだと思います。

 ただ、話は戻りますが、あくまでも、スパイク決定率、ブレイク率、サイドアアウト率というものをまず見ていくとすると、最初に挙げた、Aパスが増えれば勝てるとか、サーブミスをなくせば勝てるとか、高速バレーにしたら勝てる、・・・といった論理には行き着かないのではないでしょうか。はやい攻撃をしても、スパイカー自身が力強く打てなかったり、空中での選択判断の思考のゆとりがなければ、「アタッカー優位状態」とは言えないです。

データが示すプロセスや要因はさまざまで

 ただ、一方で、スパイクだけを強化すれば、ブレイク率やサイドアウト率が高まるかと言えばそれまた言い切れず、さらには、「アタックの背景」にある情報は公式な記録としてで表に出てきにくいものがあります。
 バレーボールのデータは、個人のプレー、個別スキルの成功率にどうしても眼が行きがちで、それが指導内容や戦術の考え方にも影響しやすいというのが課題なのではないかと思います。それによって、戦術の内容が結果的に、スパイク決定率の向上や、サイドアウト能力やブレイク能力の向上につながっていない場合も少なくないように思います。

 ネットの向こう側にいる相手に対して、自チームの「アタッカー優位状態」をいかに作り出すか。逆に言えば、相手のアタッカー優位状態をいかに低下させるか。スパイク決定率やブレイク率、サイドアウト率のデータが勝敗への関与を見るのにつながるのは、そういうことなのだと思います。
 自チームのオフェンスシステムを最大限発揮・維持し、相手のオフェンスシステムにダメージを与え壊す。
 当たり前の話のようですが、そういう少しゲームをマクロに見る所から、戦術や指導の内容を洗い出し直す作業が必要で、そこから従来の伝統的で局所解的な思い込みの知識を変えていくことにつながればいいなと思います。
 常にベストのサーブを打ち込みミスを減らすことも大事。Aパスに入れることも大事。でも、ゲームを制するのは、それだけではないその先にある得点までの思考判断や修正などのプロセスを経た1点の奪取の積み重ねをどうするかなのだと思います。練習のプランも個別スキルの精度や完成だけではなく、「スパイク決定まで」をどのようにもっていくかを練習することも必要な気がします。