「セカイヒョウジュン」という「ジブンタチノバレー」ではいけない
3~4年くらい前でしょうか?日本のバレーボールの中で、「世界標準」という言葉を用いて、これからのバレーボールの戦術のあり方の議論が進んできた部分があります。
それで、「世界標準」とは何か?ということになるんですが、それは要素が一つだけで説明できるものではないし、すでにその内容は年がたつにつれて変化しているものだと思います。だって、4年に一度のオリンピックをひも解いても変遷しているのですから。
個人的に解釈しているのは、これまで長く日本のバレーボールが世界の中で低迷してきたのは、オリンピックやワールドカップ、ワールドリーグに代表される国際的なバレーボールの試合の中で見られている戦術や考え方に、日本がまったく追いついてこなかったこと。あまりにも日本オリジナルの独自路線で対抗しようとしたために、本来は標準化しなければならないものまで、日本は導入することができなかった。これらの反省の上に立って、これから日本のバレーでもやらねばならぬこと、日本のバレーも世界の中で十分戦えるという願いを込めての提言が「世界標準」というネーミングでなされてきたのだと思います。
このバレーボールにおける「世界標準」というものですが、2012年~2013年前後に提言され始めており、その時の世界のバレーボールの指標となっていたのは、男子ブラジルチームのバレーボールなのだと思います。
バンチやデディケートの配置からのリードブロック、クイックに近いバックアタック、リベロの機能、サーブ戦術、サーブとブロックの関係、ブロックとフロアディフェンスの関係・・・具体的な内容も提言されていきました。
当初は、「世界標準」というフレーズ、特に「世界」という言葉に、日本のバレーボールの指導者には取り掛かりにくさというかハードルの高さを感じる人も多いのかなと思いますが、現在では関心も理解も徐々に浸透がはじまってきているようにも思います。昨年(2015年)のワールドカップでは、石川選手や出来田選手などの若い選手が活躍した姿にも、それが重なる部分が多く、さらに関心をもてるようになったのではないかと思います。また、春の高校バレーでも、ブロックやバックアタック、サーブなどで洗練してきたところが勝ったようにも感じています。トップレベルのみならず、各地で小中高校の育成世代の指導者の間でも話題になることが増えてきたのかな?と感じています。
ところが、そうなっていく分、逆にもう一つの現象もバレーボールの指導や練習の場面で増えてきているなと感じることがあります。つまり、「世界標準」というものが必要だ、学びたい、導入したい、という関心が、今度はそれをどうやって実行するか、何をどのようにすればいいかという「ハウツー化」思考が出てきているということです。つまりは、バンチからリードブロックをしよう。テンポで分類してファーストテンポで攻めよう、リベロをセカンドセッターにして、パイプを打たせよう、ブロックは腕を振って跳ばせよう・・・。もちろんチャレンジとしてはどんどんすべきなのでしょうが、果たしてそういう練習が、「世界標準」と言われるものの実現に向かうのでしょうか?
最初に申したとおり、こういった主張がなされるようになってきた原点は、日本のバレーが世界の中で大きく遅れていること、取り残されているということです。ブロックやクイック攻撃などはそのエッセンスに過ぎません。
ここで根本的に忘れてはならないのは、スキルとかやる事以上に「考え方」です。
どうしてリードブロックが標準化されているのか?
なぜ、はやいひくい高速クイックよりも、ゆるやかに見えるファーストテンポなのか?
日本が「高さとパワー」で負けているのは、本当なのか?
なぜ、日本のMBのクイックは得点力が弱いのか?
なぜ、オーバーハンドでのセット(トス)が重要なのか?
スイングしてのブロックはなぜなされているのか?
テンポやスロットの分類はどのように生かされるのか?
なぜ、果敢にジャンプサーブで攻めているのか?
こういった「なぜ」に対する、意図や考え方、その理由やバックグラウンドを理解し、それに基づいて自分たちのバレーボールを生み出していこうということ自体が「世界では標準化されている」バレーボールの姿なのだと思います。
それを証拠に、リードブロックやファーストテンポのスパイクなどの、スキルの事例だけではなく、バレーボールにおける「ブレイク」の意義、サーブの定石とかトータルディフェンスといった、「考え方」にも言及されていることを見過ごしてはいけないですし、むしろこちらの方が大事だと思います。
日本の旧来のバレースタイルでは、その「考え方」が世界に追いついていなかったわけです。戦術論しかり、指導方法しかり、育成の仕方しかりです。指導者主導の側面が強く、選手が自ら学び自らスキルを手に入れ、自ら考える・・・それすらも世界から遅れをとってしまってきたわけです。
ですから、仮にリードブロックをやらせたとしても、ファーストテンポができるようになっても、「セカイヒョウジュン」に近づけたとは言い切れません。
先ほどの「なぜ?」という問いかけに対する答えの根本には、どれもネットの向こうにいる「相手」のやってくること・やってくる戦術にどう対応するか?というものがあるはずです。ところが、日本では、指導者が与えるオフェンスやディフェンスを忠実に実行しようとするスタイルが長く続いてきました。極端な例えをすれば、相手が中学バレーでもVリーグレベルでも、指導された通りの同じスタイルを貫こうとするわけです。それを巷では、「ジブンタチノバレー」と言ってアンチテーゼとしています。
ですから、世界で標準化しているスキルの導入のために、リードブロックや何とかテンポの攻撃とかと言っても、それが指導者から与えられたとおりにただやるだけのものであったら、それは形を変えた「ジブンタチノバレー」でしかないという点は忘れてはならないのです。
コミットブロックが必要なことだってあります。状況によってはスプレッドしちゃうかもしれません。相手の意表を突くインダイレクト・デリバリーからのマイナステンポのクイックだって有効なことがあるし、そのことで後のファーストテンポのスパイクやバックアタックが決まりやすくなることだってあります。
私は、「世界標準」とわざわざ言わなくても、わざわざ意識しなくても、相手の戦い方を分析しそれに応じて選手が主体的に合理的に戦えること、そのためには選手やチームの選択肢を手数を増やして選択判断できる余地を確保する・・・そうすることで対応力が生まれてくる。その中にリードブロックだってバックアタックだって自然と含まれてくる。それがあるべき変化なのではないかと考えています。
「うちではスイングブロックやらせてます。」、「うちではリードブロックやらせてます。」
それだけでは、これからのあるべき方向性の実現にはならないのだと思います。
形を変えた「ジブンタチノバレー」になってはいけないです。
そういう意味では、やはり「ブロック戦術」VS「アタック戦術」の相互の進化というのは大事なんだなと思います。このスパイラル的な関係を生み出すためにも、個人スキルだけじゃなく、ネットを挟んだ攻防やコート上6人の連動性、さらにはゲーム展開のマクロな視点というものが指導者選手には求められてくると思います。
世界の標準化は変わっていきます。だから、「取り入れてまっせ」と言っているうちに取り残されていくことだってあり得ます。だからみんなで、バレーの今を知っておくことって大事だと思います。
(2016年)