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指導で足りないのは「ゲームのキホン」

「カタチだ!」「声だ!」「気持ちだ!」っていう前に・・・

 何でもそうですけど、知識や技能の習得は、その人本人によってなされるもので、習得にかかる時間や、習得に至る道のりや方法は、その人によって違って当たり前です。
 「そんなの当たり前だろ」と思うことです。でも、実際バレーボールの指導・練習においては、そんな当たり前のことが前提となっていないことが多いのではないでしょうか?

 見た目の形や、聞こえてくる声の大小、根拠のない精神論など誰にでも言えます。観察や分析、考察もないまま言えることをただ指摘するなら誰にでも言えます。それではコーチのコーチたる意味がないと思います。”プレーヤーズファースト”という言葉も一般的になっても、なかなかバレーボールの育成世代の指導現場は変わっていきません。

 コーチング・指導が必要なのは、

・選手本人が気づいていないことに気付かせる。
・知らないことをクリアにさせ、新しい世界を与える。
・自ら変わるきっかけを与える。
・チャレンジ精神や向上心などのモティベートをする。
・意識させる・内省させる

といったことになるのであって、決して、コーチ(指導者)の言った通りにやらせることや、要求する結果を出すために、コーチングがあるのではないと思います。

繰り返しになりますが、習得するのは、「選手本人」です。

 バレーボールの日本の小中高校生の指導現場では、まだまだ、コーチがああだこうだと大声でいちいち指摘したり、ダメ出しすることが多いです。特に、
「カタチだ!」
  ⇒手はこうだ、足をこうしろ・・・といちいち言うタイプ
「声だせ!」 
  ⇒とにかく大きい声が出ていないと頑張ってる気にならないタイプ
「やる気だ!」
  ⇒具体的なフィードバックをせず、気持ちの問題にしかしないタイプ

この3つのパターンがまあまあ多いわけです。
 でも考えてみてください。何度も言うように、プレーしているのは選手本人、課題を解決し習得するのも選手本人です。人から言われてすぐにできるのなら誰も苦労はしない。先に答えを知らされてその通りにできるのなら誰も苦労はしません。だから練習が必要なのであって、だから選手本人が「学ぶ」(試行錯誤)ことが必要なんです。
 
 「指摘」は、コーチングでも指導でもありません。誰でもできます。運動の習得過程やパフォーマンスの原理を知らない指導者が、見た目のカタチや聞こえる声の大小、まして根拠のない精神論の指摘で、それが指導と思っている人が多いのが、大変大きな日本の課題ではないかと思います。

 これまで長年、バレーボール経験のない中学生とバレーボールをする機会が多かったわけですが、仮に、初心者相手にカタチ指導や声出し指導、気持ちのことで檄を飛ばしても、いざゲーム(試合)になったとたんに、プレーもゲーム内容も総崩れになる場面を山ほど見てきました。
 それよりも、選手たちが望ましい?姿勢やフォーム、声の大小、動きのスピードなどに至っていない、まだまだ「荒削り」な段階であっても、コーチ(指導者)側が、常に指導やフィードバックをすべきことがあるように思っています。
 特に、初心者が抱く、バレーボールの実際のゲームへの、恐怖心や混乱は相当大きなものです。それはなぜかと言うと、「できないから」です。いたってシンプルな理由だと思います。
「できない」というのは2つあって、

ボールコントロールができない
というのと、
ゲームの原理原則や思考方法が分かっていない
というのがあります。

 この2つのうち、私は、後者のゲームの原理原則を理解させることは、ボールコントロールの習得よりも、理解が進みやすいと思います。
 もっと言ってしまうと、「アタマの中でのイメージはタダ」ということです。
 初心者が、仮に現段階でボールコントロールが上手く制御できなくても、映像などを観ながら、ゲームで必要な動きや姿をイメージ化することが、誰にでもできるはずです。
 「カタチ」は、言われてすぐできるようなものじゃないし、「声」だってできないプレーをしながら声を出すのは難しい。そもそも初心者にメンタルの強さを要求するのは無理があるわけです。

 そんなカタチ・声・気持ち以外に、初心者からでも、指摘・指導べきことだってたくさんあると思います。以下のことは大事だと考えます。まとめてしまうと、『イメージの構築』と『オフ・ザ・ボール時の訓練』になろうかと思います。

①シー&リアクト
 ボールを視てから動く、という原則は指導すべきです。相手選手のボールコンタクトの瞬間は静止して視るということ、そしてそこから素早く反応して動くということは、訓練しておかないとなかなかできません。
 シー&リアクトの正確性や反応時間は、習得と向上にはそれなりの時間がかかります。すぐにはできません。日本でリードブロックを指導しようとしない指導者の多くは、この時間がかかることに我慢ができないのが起因しています。

②思考判断に基づくポジショニング
 ボールコントロールが多少ままならなくても、コート上のポジショニング、単なるシャドウでのポジショニングではなく、ネットの向こうの相手選手やボールを視て判断してからのポジショニングを訓練しておくことも重要です。これも初心者でもできます。
 ただ、日本の指導者の多くは、ポジショニングは、状況によって多様な位置取りが存在することを指導していない人が多く、なんでもかんでも同じ位置にしてしまっています。だからこそ、①のシー&リアクト と関連させておくことが重要です。

③判断イメージの一致
 初心者が、ゲームの中で抱く強烈な恐怖や不安、混乱の要因の一つが、ゲーム展開のイメージとそれに伴う自分の動きのイメージが持てていないことがあります。
 映像などでゲームを見せる場合、どうしても選手個人のフォームやボールの状態ばかりに注意が向けられますが、「オフ・ザ・ボール」での選手の動きがかなり重要です。
 今これから起こるのが、強打が打たれるのか、軟打が来るのか。右か左か。前か後ろか。その際自分はどう動くべきなのか。こういったことを、選手の頭脳の中で思い描くことができるかも重要です。
 初心者には、「上手くボールをあげられなくても、そこまでの判断や動きを大事に」、「上手くスパイクやブロックできなくても、やろうとしている意図をはっきりと」、というあたりが大事ではないかと思います。

④打球のイメージと実際の一致
 これも、今すぐできることはありませんが、サーブやスパイクなどは、ただやみくもに打つのではなく、ある時期・ある段階からは、自分の打ったサーブやスパイクが、自分が狙ったものになっているか?を常に念頭に置いて練習することの大切さを知らせておくことも、練習効果を高める上では重要だと思います。
 つまりは、練習の際には、自分が打ちたいサーブやスパイクのボールの結果を常にイメージしておくということが大事です。

⑤「1つ前」への注意
 これもゲーム展開の観点になりますが、初心者は特に、ボールと自分の関係がコンタクトの直前にならないと、自分の意識の範疇にすることができないことが多いです。例えばレセプションなんかでも、相手サーバーがボールを打っても、なかなかリアクトできず、ネット上を通過してきてから慌てて対処するも時すでに遅し・・・。同様にディグで相手がフェイントを仕掛けてきたとき、相手がボールをヒットさせた後にようやくフェイントを認識するので時すでに遅し・・・。こういったことがなかなか改善されないわけです。
 ですから、注意の範囲を少し広げることが必要で、例えば、レセプションだったら、サーブが打たれる瞬間を視ることや、ディグだったら、相手のセッターの状態やセット(トス)の状態にも注意を払うなど、それまでの「1つ前」にも注意を払うよう指導する必要もあります。

⑥相手選手からの読み取り
 特にディグやブロックでは、ただボールに注意を払うだけではなく、相手選手の状態・状況から情報を読み取り、プレーに反映させていくことは大変重要です。
 ただ、ともするとそれらが「ゲス・プレー」になってしまいます。あくまでも、シー&リアクトを基本とします。
 例えばディグでは、ネットの向こう側がいろんな状況になります。アタッカーの身体の状態や位置もさまざまでそこから読み取れる情報も大変重要です。それを見て動き、ボールヒットの瞬間は静止し構える。
 ブロックも、空いてセッターへの返球に至るまでのさまざまな状況を判断し、ブロッカーの配置も微調整・修正がなされる。そして相手セッターがセットする瞬間は静止し、ボールの行方を視る。
 こういったことは、もちろん膨大な経験によってもある程度は習得できますが、あらかじめ指導しておくことで、選手に意識化がなされ、より習得が促進されると思います。

あえて言っておきますが、
 「カタチ」の指導も必要です。でも、それは初心者に画一的にはめるのではなく、ある程度ボールコントロールが身に付いたり、バレーボールのゲームへの向上心が芽生えた選手、ある程度選手としての自信と自覚が芽生えた選手に、セルフチェックや内省のツールとして与えるべきだと思います。

 「声を出す」指導も必要です。でも、ただワーワー、ギャーギャー叫ばせればよいのではありません。「ゲームの中で」、どのような機能として、どのように戦術的な役割として必要なのか。より具体的にその必要性を説明し、理解させなければいけません。

 「メンタル」指導も必要です。でも、「やらせる」のではないですよね?その選手がゲームを行うにあたって、「ゾーン」や「フロー」に近づけるよう、導くことであるべきです。

 バレーボールのルールが変わってきて、トレーニング方法も進化し、それに伴い戦術も変化している。世界は間違いなくその変化にコミットしようとしている。日本だけが旧態依然ではいけないのです。
そして、その土台となる、初心者や育成世代で、どのようにクオリティーの高いコーチングを提供すべきか、これからも活発な議論がなされるべきだと思います。

バレーボールにおける「キホン」(基本)を見直す

 「キホン」(基本)というと、どうしても、一つ一つのスキルのやり方やフォームのことだという認識が強く、姿勢や形の指導に終始することが多いです。個々のプレーの「美しさ」を要求する指導者も多い気がしますが、個人的に思うのは、いわゆるプレーの美しさというのは、教え込まれて出来上がったというより、その選手が膨大なプレー経験と反復の中で自らが習得した最適な動きだということです。

 もちろん、ここのスキルのフォームやカタチというのも大事だと思いますが、これからの指導現場では、型の細部の統一に終始せずバレーボールのゲームとしての基本を理解し、コーチも選手も共通の認識をもって「基本化」することが必要ではないかと思います。

 こんな基本を挙げてみました。
↓ 
① 消去法的に選択肢が絞られシンプルに守ることができる状況をつくる

② 攻撃枚数を確保し多彩に攻めることができる状況をつくる

③ スパイカーの最高打点でフルスイングできる状況をつくる

④ シー&リアクトができる。それができる状況を作る

⑤ 自分の半径1Mのボールは絶対落とさない

⑥ ネットの向こう側の情報を得ている、見ている

⑦ 相手の攻撃にはブロックが2枚以上つける

⑧ 「イン・タイム」プレーができる状況をつくる

⑨ セットは、ボールコンタクトの瞬間まで選択肢が2つ以上持てる

⑨ スパイクは、打つコースや強弱に複数の選択肢がある

⑩ 相手にベストな攻撃をさせないサーブを考える

⑪ ブロックは跳んだあとの空中での勝負が大事  

⑫ スパイカーは自分が打とうとするスパイクのテンポのイメージがある

⑬ 相手の意表を突くプレーの準備がある

⑭ ブロックとフロアディフェンスは常に連携がある

⑮ サーブミスを念頭に置かない。恐れない。

 動画にあるプレーは、どちらかというとレア・ケースなプレーが多いです。でも、こういうプレーは、いきなりできるものではありません。
 かといって、こういったプレーのすべてが、反復した練習によってやっているわけでもないだろうと推論しています。
 日本では、正面で取らないとダメ、腕を振っちゃダメ・・・などいろんな「キホンの押し付け」によって、プレーの自由度を奪っているような気がします。同時に、ゲームのキホンの指導が十分ではないので、選手たちが自らの思考判断で、よりハイパフォーマンスなプレーを選択できなかったり、インスピレーションが出にくい状況になっているような気がします。

 「型」に代表されるベーシックなプレーのやり方論も大事ですが、バレーボールのゲームの基本にももっと十分な指導がなされるべきだと思います。ゲームにおいて自分たちが優位に立てるあるべき状況をどうやって作っていくか。それも大事な基本、ベーシックです。

(2018年)