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春高バレー2022で見えてきたこと~次はいよいよ本丸へ

 高校生バレーボールの最高峰の大会にもなっている「春の高校バレー」。かつては3月に開催されていたことから、こうよばれていたこの大会も、1月開催になってから10年以上が経ちました。

 昨年に続き、今年もコロナ禍にあって、開催や運営にも不安がある中での春の高校バレーでした.。きっと日本全国の高校生バレーボーラーも、例年とは比較にならないくらいの調整の難しさ、練習やトレーニングが十分にできなかったことなどからくる緊迫感や重圧があったのではないでしょうか。しかし、今年は特に、男子バレーが個人的には面白く興味深かったです。みなさん、も彼らのバレーにエキサイトできたのではないでしょうか?

高校バレーも男子のゲームやプレーにみんなエキサイトした

 春の高校バレー2022の男子バレーは、どこが勝ってもおかしくない熱戦がたくさんありました。上位進出が目されていた強豪校や注目校が敗れたり、攻守にハイスペックな大型選手が多数活躍したり、チームを組織として鍛え上げてきたり・・・と見どころがたくさんありました。
 東福岡、東山、清風、駿台学園、鎮西・・・といった例年よく目にする名のチームに加え、優勝した日本航空をはじめ、日南振徳、高松工芸、県立岐阜商、習志野、雄物川・・・数多くのチームの活躍が光った大会になりました。

 夏に東京2020五輪があったその直後の春高バレー。高校男子バレーが見せたたくさんの見どころは、偶然の産物ではないと思っています。
 夏を振り返り、オリンピックにおいても、バレーボール日本男子代表チームの活躍にみなさんも注目したと思います。惜しくもメダルには届かなかったものの、観ていた私たちがエキサイトできたのは、日本男子代表チームのまさに「バレーそのもの」のすごさ、面白さ、迫力・・・世界の強豪と見劣りしないゲーム内容があったからです。
 そのような、観る者に与える一種の効果というか影響みたいなものが、今年の春の高校バレーの男子バレーにはあったのだと思います。

 東京2020五輪で観た男子バレーに通ずるもの・・・世界の強豪チームのバレーボールのゲームに基づくプレーにつながるようなものが、日本男子代表チームにあったのと同じように、日本代表男子チームのバレーに通ずるものが今年の春高バレーの男子バレーには垣間見れました。

 ・大型選手のオールラウンドな育成
 ・リードブロックを基軸にした組織的ブロックとトータルディフェンス
 ・ミスを恐れないサーブの戦術化
  (ビッグサーブ、ショートサーブ、ハイブリッドサーブとそれらの意図)
 ・得点源となるバックアタックの標準装備
 ・MB(ミドルブロッカー)からの得点力アップ
 ・セッターの多彩で多様なセット

 
 特に日本の男子バレーにおいては、2019年のワールドカップ、昨年春のVNL(ネーションズリーグ)、東京2020五輪、Vリーグ・・・とバレーボールシーンを追いかけてウォッチしてきた皆さんには、今回の春高バレー2022の高校生男子の試合は、見どころがたくさんあったのではないでしょうか?
 「東京2020五輪年代」として記憶にとどめておいていいのではないか?

「脱・必殺技」や「脱・スーパーヒーロ」からみえること

 私が、今回の春高バレー2022で特に印象深かったのが、何か特別なネーミングのついた戦術とか、過度に才能に注目したスーパーヒーローみたいな取り上げられ方が過去よりも薄れていたという点です。(伝える側に何らかの意図があったかどうかはわからないので個人的な印象や推察になってしまいますが)

・チェーンブロック
・高速コンビバレー
・スイッチブロック(スタックブロック)
・サーカスバレー
・「〇〇高校」の粘りのバレー
など・・・
 かつて、優勝校や強豪校チームが採用したゲームの戦い方がネーミングとともに注目され、それがその年のトレンド化して全国の高校バレーに拡散されていく展開を、バレーボールの指導現場に立ってきた中で感じています。
 また、選手個人にフォーカスした、ヒーローやヒロインとしての取り上げ方も、かつてはものすごく加熱していた印象がありました。今年も素晴らしい注目選手はたくさんいましたが、私はかつてのような過剰な注目に対するストレスはあまりありませんでした。
 今年は、過度にそのような情報が入ってくることなく、今、目の前で行われているバレーボールを注視できたのは、自分だけではないのではないでしょうか。

 きっと、実況や解説のみなさんも、より「バレーボール」を伝えるということにシフトチェンジしてくださっているのかなと思うと同時に、何よりも各校のチーム作り、指導者のチーム作りが少しずつアップデートされていっているのがあるのではないでしょうか。
 今回の男子バレーでは、いろんな座標的立ち位置がチームカラーとしてあって、面白かったです。組織に重点化しているチーム、個のパフォーマンスに焦点を当てているチーム、多彩さや柔軟性に重きを置くチーム、シンプルかつチームのディシプリンに重きを置くチーム、積極的なチャレンジング、ミスを最小にする・・・。いろんなチームのいろんな意図や考え方にも触れることができました。
 近年では、指導者の世代交代も活発になってきている中、Vリーグ経験のある若く新しい指導者と、今も健在な常勝軍団をつくる名将が入り混じった試合展開も見応えがありました。そしてそれぞれの考え方やコンセプトにも大変興味深いものがありました。

 いろんなカテゴリ、いろんなレベルによって、「当たり前」と言えるものが存在するのだと思います。そして一貫して通ずる「当たり前」もあるのだと思います。それが、「基本」だとか「原理原則」だとか「標準」だとか・・・いろんな表現として存在しているんでしょうけど、今年個人的にとても好感をもてたのは、断片的なプレーや戦術、偏った個人の取り上げられ方ではなく、バレーボールの全体像の方を観ることができた様な気がしたからかもしれないと思っています。

ハイキュー‼やYoutubeからでしか学べないのか?という問題点

 繰り返しになりますが、私が特に心を躍らせているのは、バレーボール男子の日本代表やVリーグなどのトップカテゴリで起こっている変化やアップデートが、じわりじわりと下部リーグや大学バレー、そして高校生へと浸透してきているプロセスが見え始めていることです。
 しかし、長年日本のバレーボールをウォッチし追いかけてきた方からすれば、この変化はもっと早くに起こるべきものだったと思う側面もあります。
 いずれにしても、日本の男子バレー起こっている変化は、10年、20年たっても変わらなかったものが、ここ数年いやここ3,4年の間で起きています。近年では、「ハイキュー!!」のエピソードもものすごく注目されていますし、情報の高度化で様々なところからスキルや戦術に関する情報も得られます。
 今年の春高バレーの男子バレーに観られたいい変化というのは、もちろん様々なものから刺激や影響を受けているのだと思いますが、当たり前のことながら、現場での試行錯誤やコーチングによってなし得ているはずです。
 トップカテゴリでは、著名な外国人指導者や外国人選手が日本にやって来ていて、日本人選手も海外でプレーするようになってきました。そしてそれらの中で得られる経験や知識が、少しずつ下のカテゴリに染み出し(浸透)してきているのは間違いありません。

 しかし、私はさらに下のカテゴリ実情がよく見える環境に身を置く者として、今起き始めている「いい変化」というのは、まだまだ上の一握りの世界や空間でのシェアにとどまっている印象です。
 「いい変化」が広く「当たり前」と言えるようになるのが私の願いであり、引き続きチャレンジしていきたい課題です。
 私は以前から、「カテゴリの分断」に課題意識をもっていきました。それぞれのカテゴリで行われているプレーや練習が、そして伝えられている指導内容が、もはや別競技と言っても過言ではないくらいの、一貫性やつながりのないものでした。
 そして、当事者(指導者や選手など)が自ら、違うカテゴリに対して、「あれは世界レベルだから(関係ない)」、「男子と女子は違うから」、「あれはプロだから(関係ない」という固定観念をもち続けてきた環境が長年顕在化してきたと思っています。

ここから先が本丸「小中学バレー」のアップデート

 代表(国際レベル)→国内トップリーグ→大学バレー→高校生バレー・・・ようやく少しずつ変化が広がってきています。伝統的な指導や伝統的な理論に拘束されることなく、トップカテゴリに通ずるような個の育成やチームビルディングが始まっています。
 活躍した高校生たちの活躍がさらに輝くために、そしてバレーをみてエキサイティングすることを楽しみにしている人々のために・・・。そのためには、いい意味での「当たり前」を、選ばれし一握りのエリートや上層部だけのものとせず、今みんなでシェアすべき「当たり前」を洗い出し、「当たり前として」すべてのプレーヤー、すべての指導者に触れる機会を用意し浸透させる作業・・・一人一人が日本のバレーボールの当事者となって、試行錯誤やディスカッション、協働が必要です。

 強化や育成、一貫指導といった言葉には、人や立場によっていろんな定義や捉え方があろうかと思います。
  私は何も、小学生や中学生にファーストテンポのアタックやトリッキーなプレーをさせたいのではありません。それぞれのカテゴリの中の優秀な選手や実績ある選手をピックアップし、彼らを継続的に経験させる意味での一貫指導もあってしかるべきだと思うと同時に、私は「選ばれし者たち」だけに焦点が当たるものだけではない、日本全国どこでも、一人一人の可能性や潜在力を伸ばすもの、そしてどこからでもチャレンジできる環境や仕組み、プログラムも必要だと考えています。
 高校生バレーが変わってきました。中学バレーや小学バレーも変わっていくためには、エリートだけに焦点を当てるだけではない、大きな枠組みの中での議論もみなさんとしていきたいものです。
 

(2022年)