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ポスト五輪・ポストコロナ~アンダーカテゴリー「育成のエアーポケット」

(写真FIVB) 
 2021年、令和3年師走。
 今年も年末を迎えました。日本のバレーボール界もいろんなあ動きがあったと思います。

 まずは何といってもオリンピック、「東京オリンピック2020」です。日本代表男子バレーの進化、フランス男子代表やアルゼンチン男子代表など新しい力の台頭と機能的戦術バレーへの進化。ビーチバレーボールやシッティングバレーボールの盛り上がり。そしてそこから日本の国内リーグ「V.LEAGUE」での選手の活躍への注目度・・・。いい刺激がたくさんありました。

 また今年は「コロナ禍」の真っただ中で、その情勢にも振り回されました。中止になる事業や大会、無観客や開催規模を縮小するなどさまざまな制約のある中での大会開催など、まだまだ思い切りバレーボールを「する・みる」が取り戻しきれてはいません。
 しかし、個人的に思っていることは、この「コロナ禍」で私たちが受けたさまざまな制約は、むしろこれまでの当たり前を見直す契機になるのではないかということです。プレーできること自体の喜び、観客に応援されることのありがたさ、大会やイベントを運営し支えてくれる人々の苦労、レフリー(審判)のご苦労、練習や指導における指導者の在り方や選手へのアプローチの仕方、そもそも子供たちに指導できることへのありがたさ。私は、このコロナ禍を通して、バレーボール界も多くのことを学び、アップデートしていかねばいけないと考えています。

動き出すか?日本バレーボール界のアンダーカテゴリー

 東京オリンピック2020やコロナ禍の影響を受け、日本のバレーボール界でも旧態依然の指導方法や指導環境・・・暴力や暴言(あえて体罰とは言わない)、その他ハラスメントが特に小中高校バレーののアンダーカテゴリとか育成現場といったところでの顕在化に対し、疑問や警鐘が投げかけらてきているのが目立つようになりました。特に「怒らない」、「主体性」、「楽しさ」といった視点に立った動きが多くなってきました。
 世の中の動静や他競技と比べると、小さな一歩、ベビーアクションでありますが、日本のバレーボール界にとっては重たい足がようやくわずかに動いてきたところでしょうか?
 このnoteでも、イギリスから発しカナダが取組としては充実させている「LTAD」(Long-Term Athlete Dvelopment) を紹介してきました。

 そして最近では、日本のスポーツでも「LATD」の考え方が見られるようになってきました。バスケットボール界の近年の進化はめざましく、トップリーグの変革のみならずアンダーカテゴリーにもその波がきているようです。資料も充実してきています。

 日本のバレーボールでもアンダーカテゴリーに新しい風が吹き始めています。サッカーやバスケットボール、ハンドボールなどに比べれば小さな動きであっても確実に変わり始めています。

 バレーボール元全日本、益子直美さんが長年取り組まれてきた「監督が怒ってはいけない大会 」が今年は一般社団法人化し、全国展開をしています。そして、ただ単に指導者の怒りを止めるだけではない、多くの学びの機会もあることが知られてきています。身体のすべてが時間のすべてが成長の刺激に結びつく小学生たちを可能性無限大にする一歩だと考えます。

 まだまだバレーボールのアンダーカテゴリーでは、高体連や中体連など学校組織と教員による関与が強い部活動中心の風土が強い中、それらとは一線を画したチャレンジがはじまっています。
 アンダーカテゴリにスポット当てた新しいスタイルのリーグの取組も注目されました。「東北アイリーグ」です。いろんな仕掛けがあって、これはプレーする子供たちも楽しいし次へのモチベーションも持続しますね。これからの展開が注目されます。

 同様に東北秋田でも、バレーボールのアンダーカテゴリーに焦点を置いたプロコーチとバレーボールクラブが立ち上がりました。「NPO法人ブラウブリッジ秋田スポーツネットワーク」です。もともとバレーボールと子供たちをつなげる個人対象のバレー塾というコンセプトが育成にフィットし、今もなおは進化をとげています。こちらも期待できますね。

 愛知県のウィル大口スポーツクラブでもバレーボール部門があり、部活動かけもちもできる中で、楽しくレベルアップできる環境づくりと指導方法に挑戦されています。また中学校の部活動の外部委託にも参画が始まっているとのことです。

 この他にも、岩手県のオガールを拠点にしたNpo法人アウルズ紫波スポーツアカデミーや中学バレーのクラブ化のフロンティア宮城県のチームアイ、当地北海道でも、V.LEAGUE加入の男女3チームが、アンダーカテゴリーチームやアカデミー、バレー教室などを展開しています。これ以外にも従来の少年団や部活動とは違った新しいチャレンジが全国各地で展開されています。(紹介しきれずすみません)

 秋には、全国高等学校体育連盟バレーボール専門部から「高等学校バレーボールの適切な指導の在り方について」という、暴力や暴言、ハラスメントの撲滅を具体的に例示した資料も出されました。JVA(日本バレーボール協会)でも、「体罰・暴力・ハラスメント撲滅対策委員会」から素晴らしい説明と提言が発信されています。
(↓下の記事で紹介してあります)

  おまけになりますが、私的に今年取り組んだのが、オンライン(ZOOM)で毎月、全国のバレーボールに関わるコーチ(指導者)、保護者、学術関係者、選手、ファン・・・がディスカッションや活動報告などの交流を行ってきました。
 ここでは、何かのハウツーやメソッドを押し売りする場ではなく、広くバレーボールの普及や発展に生かせるテーマ、そしていろんな立場からの考えを拾えるようなテーマで話し合いをしてきました。来年も継続します。

 このオンラインミーティングでは、不定期ではありますが、テーマについて専門的な知見をもった人をゲストとしてお招きしたりもしていて、参加者にとってかなり貴重な機会にもなっています。
 そして、ここでご紹介した新しい取組の当事者の方たちも私たちのミーティングの仲間となっている方も何人もいます。

(ミーティングのアーカイブ↓)

 来年も、「バレーボールの未来はアンダーカテゴリーから」という心意気でみなさんのチャレンジが期待されるところです。

アンダーカテゴリ育成の「エアーポケット」にしないために 

 個人的にバレーボールのアンダーカテゴリー(小中高校バレー)の指導現場に立ってっきたことから、指導現場の在り方や小中高校生にどのようにアプローチすれば育成の実現がよりよいものになるのか?に課題意識をもってきました。そして、コロナ禍になる数年前から、日本のバレーボールの指導風土に課題を投げかけてきました。

↓【ワールドグランプリ2014で、日本女子代表チームが披露した「ハイブリッド6」を採用するに至った経緯について】(バレーペディア編集室より)

 ところが、数年前から投げかけている課題は、今もなおあまり改善の動きはありません。 
 バレーボールをやるすべての人々が、いわゆる競技会でプレーするべきだとまでは書いていません。もちろん生涯スポーツやレクリエーションの中で楽しむのも大事です。しかし、競技スポーツに焦点をあてたとき、日本バレーボールのトップカテゴリや代表の競技力は、そこにつながるアンダーカテゴリーの育成プロセスや指導プロセスが生命線だと断言できます。
 「主体性」「楽しさ」「怒らない」・・・今年出てきた話題やテーマはどれも大事ですが、これだけでは解決できないものも多くあります。これからの時代、主体性・楽しさ・怒らない・対話的・・・こういったものは、言うまでもない「当たり前」であり、「前提」であり、「マスト要素」になっていくはずです。

 そこで、未だに着手されていないのが、バレーボールのスキルアップの過程における学習や習得のプロセスについてです。技術や戦術的な思考力をどのように育てていくか。
 バレーボールは、他のスポーツ競技(ボールゲーム・チーム)において、特に「LTAD」のシステムは重要であり、「遅い特化」(Late Specialization)・「早期導入」(Early Engagement)のスポーツだと考えます。

「早期導入」(Early Engagement):専門的な技術よりも幅広い運動経験
「遅い特化」(Late Specialization):専門技術やポジション特化を急がず


 この中において、楽しむマインドや主体性は、どのカテゴリにも根底となるものであっても、バレーボールの技術や戦術理解、そこに向かう思考力は、さらに意図的・計画的に育てていかねばなりません。
 そうでないと、大学生やトップカテゴリーになってから、なお、基本技術の見直しを迫られたり、戦術を支える知識理解や思考力を学び直したり・・・といった大きなタイムロスが生じているわけです。この「ギャップ」を埋めるものが、まだ議論されていません。

 技術や戦術を支える思考力、そしてさらに体の基盤となる食や栄養、フィジカル、ケアや自己管理能力・・・こういったものがアンダーカテゴリーにおける「育成のエアーポケット」にする時代を終わらせたいのです。

(↓このテキストの続編を個人的にはお願いしたいです)

日本のバレーボール界アンダーカテゴリに思う「ポスト五輪」「ポストコロナ禍」への提言

 というわけで、「コロナ禍」、「東京五輪」という、日本のバレーボール界にとっても歴史に残る1年になった今年2021年。来年に向けての期待や願い、特にアンダーカテゴリーにおける展望について提言を記しておこうと思います。

・リーグ戦大会、リーグ戦イベントの普及
 本来、未成熟な選手やチームほど豊富な学びの経験をさせたいものであるはずなのに、現状は「その時点で」完成されたチームだけが経験値を上げていくことになり、全体的な底上げになっていない。選手だけでなくコーチ(指導者)のモチベーションも建設的にならない。

・アンダーカテゴリ事業・大会すべてにまたがる共通理念
 暴力や暴言の撲滅、「楽しむ=FUNdamental」、「LTADの徹底」、スポーツマンシップやグロースマインドの育成・・・日本で行われるすべてのバレーボールに通じる理念や哲学みたいなものが、みんなの合言葉になる日が来ればいいなと願います。
 カテゴリや発達段階に応じた、「育成ルール」もあったらいいです。例えばベンチスタッフゼロ、メンバーチェンジ無制限、1セット全員出場、小学生フリーポジション制廃止、クイックNG・・・など。とにかく「育てる」に特化した共通理念が浸透してもらいたいです。

・コーチの学びの機会の整備
 
オンラインでもオフラインでもオンコートでも・・・もっと多種多様な人々が、バレーボールやバレーボールのコーチングを学ぶ機会やコンテンツを生み出したい。そして、そういった機会やコンテンツを増やすためには、受益者は価値に対する相応の対価を負うことで、好循環が生まれてくるはず。

・エキスパートの参画と協働
 これまでは、学校教育関係者、保護者、地域の競技経験者が、ほぼボランティア的にチームマネジメントや指導にコミットしてきました。特にアンダーカテゴリーのチームでは、関わる大人がほぼ一人か二人。この人員で技術指導から戦術的采配、チームマネジメントやスケジューリング、保護者対応や経理面など一手に担っていました。
 これからの時代、特に育成年代ですから、発育に関すること、栄養や食、フィジカルトレーニングやメディカルケアなど・・・とても専門外の人間が独学でやるには限界があります。
 チーム指導においても、組織の構成員としても、有益な知見をもつ多様な人材が一緒にかかわっていく文化、仕組みになっていかねばなりません。

・バレーボールのスキルアップや競技力発展のための「LATD」とコーチングメソッドの確立
 
個人的には、ここが一番言いたい部分です。指導者が個人的な独自の見解で指導メソッドを進めるよりも、専門家の英知と知見を集めて練られたプログラム、そして指導力のクオリティ向上のための研修によってさらにブラッシュアップやアップデートをしていかないと、上のカテゴリに行ってから、基礎基本のやり直しや矯正をしなければならなくなるのはもったいないです。そういったタイムロスを生まないために、特にアンダーカテゴリーでは、「目先のタイトル」「大人の名誉」などに左右されることのない、すべての子供たちにバレーボールを思い切りやれる環境を提供したいものです。
(個人的に考えてみたモデル例)

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・トップカテゴリとのコネクションとフロー(流れ)
 現状、各カテゴリの勝利至上主義で、カテゴリ間の接続が分断され、2~3年限定の指導環境になっています。特に高校バレーは、全国タイトルを争う競争社会が強く、U18年代のクラブが立ち上がりにくいです。
 V.LEAGUEクラブにお願いしたいのは、バレー教室や個別のカテゴリチームの運営だけではなく、U10、U12~U18までを系統的、計画的なサポートをしてもらえないかという希望をもっています。もちろん現状、そこまでできる余裕がないのも承知です。いつの日か、トップからアンダーカテゴリーまでの道が通った、育成環境が増えてほしいです。

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(写真FIVB)

 今年も、垣花美樹氏にお誘いいただく形で、バレーボールアドベントカレンダー2021に参加させていただいたことに感謝申し上げます。
 みなさま、良いお年をお迎えください!
 来年も、みなさんそれぞれのバレーボールを思いきり楽しんでください。


(2021年)