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(バレーボール学会)バレーボールの⼀貫指導実現のための階層構造の検討

 2022年3月に行われた 日本バレーボール学会 第27回大会 で発表する機会を得ましたので、その発表内容をブログでシェアいたします。

 私自身としましては、2018年3月に行われた、バレーボール学会第23回大会で発表させて以来の発表の機会となりました。
(前回の発表内容にも関係するのでリンクです↓)

 4年前の実践・発表の内容の取組の基盤を再検証える考察となっています。 
 日本のバレーボールでは、なぜ技術指導の内容が何十年も変わらないのか。代表チームを筆頭に、世界のバレーボールの中でアップデートが進まず停滞期が長く続く要因はどこにあるのか。それらの課題が、どういう議論や取組によって動いていくのか。こういった問いに対する試みです。

ボールゲーム競技としてのバレーボールの構造を階層化してみる試み

バレーボールの⼀貫指導実現のための階層構造の検討
Discussion of the hierarchical structure for the realization of
consistent volleyball coaching

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【背景・⽬的】
 2014 年のバレーボールミーティングにおいて、JVA による「基本技術の統⼀化」に対する取り組みが紹介され、そこからのディスカッションが実を結んだ形として 2017 年『コーチングバレーボール(基礎編)』という、JVA 監修の指導教本が出版されました。

 しかし現状は今もなお、ジュニア世代からトップカテゴリまで、⽇本のバレーボール指導現場では、系統立てられた⼀貫性ある技術指導が⾏われているとは⾔えません
 トップカテゴリにおいては、2013年、ゲーリー・サトウ⽒の⽇本男⼦代表監督就任が契機となり、Vリーグに著名な外国人選手や指導者、日本人選手の海外での活躍などが増え、⻑年に渡って、古くから日本で受け継がれて行われてきた技術指導が、少しずつ⾒直されつつあります。
 例えばレセプションというプレーでは、従来「ボールの下に早く移動して、正⾯で受けなさい」という指導が育成カテゴリを中⼼に⾏われています。それがトップカテゴリを中心に今、「無駄な移動は極⼒抑えて、⼿の位置(⾯)をボールに合わせ、ボールをできるだけ上に上げる」という、ゲーリー・サトウ⽒が⾔っていた指導がトップレベルで増えてきています。
 その証拠に「⾼くゆっくり返球する」ファーストタッチを「チームコンセプト」とするVリーグチームも複数見受けられます。
 その結果、指導法の変わらないジュニア世代とトップカテゴリとの間で、技術指導法の⾷い違いに⼤きな違いが顕著なのが、今の日本のバレーボール指導の課題となっています。この⾷い違いに対し、指導者の中には「前者があくまで “基本” で後者は応⽤」という捉え⽅もありますが、「”基本” 技術」というものがあるとすれば、それは「どんな状況でも普遍的に⽤いることができる技術」を指しているはずであって、上述のレセプションの例をみても到底当てはまるとは言えません。
 一方、他競技に⽬を移すとき、バスケットボールで⾕釜らは

「ボールゲームの⼀つひとつの技術や技術要素をただちに基礎技術として指導することは、基礎技術とは何かということを吟味することなしに、個別化したものは基礎であるという単純で機械論的な把握のしかたである」

と述べ、要素還元主義的思考に基づいた技術指導の問題点を指摘し、技術と戦術が乖離しやすいスポーツ指導現場で⾏われる練習⽅法に警鐘を鳴らしています。

https://researchmap.jp/g0000208033/published_papers/7522680/attachment_file.pdf

 本研究では、他競技で⾏われている「技術と戦術の概念規定」に関する複数の先⾏研究を参考にし、バレーボールという競技の「階層化構造」を明確にすることで、「どんな状況でも普遍的に⽤いることができ、カテゴリを越えて⼀貫して指導すべき『”基本” 技術』とはどのようなものか? を考察し、上述の⾷い違いに対する明確な回答を⽰すことを試みるものです。

★2分間プレゼンスライド1枚用_20220219_確定版

 バレーボールの競技としての構造を階層化し、それが選⼿・指導者・チームスタッフによる試⾏錯誤によって認識されることにより、チームスポーツとしての探究が機能し、個⼈のスキルや戦術のアップデートが可能となると考えます。同時に、バレーボールにおける基礎基本が明確になり、合理的な⼀貫指導の実現に資すると考えます。

まず言いたいことを先にまとめると・・・

 バレーボールという競技の構造を階層化することによって、今日に至る取組の中において、未整理、未整備、混乱していたりカオスになっていたものが、クリアになったり整ってくるはずです。

〔トップカテゴリでのクリアにしたい課題〕
・世界の戦術やプレーのトレンドに遅れをとりアップデートが進みにくいこと
・選手の思考力やコミュニケーション
・組織力、組織内の人材の協力体制や連携の弱さ

〔アンダーカテゴリでのクリアにしたい課題〕
・旧態依然の昔ながらの指導がコピーされており、時代の変化に対応したものになっていない。
・トップカテゴリにつながりや系統性のない指導方法
・科学的な根拠や動作原理に反した個人の感覚的指導
・「基本」の概念が人によって違い乱立している。
・合理的な思考ができずハラスメントの温床になっている。

〔全体的な課題〕
組織による技術検討がなされておらず、独自理論や不合理な理論が乱立している。
指導者等の学びやディスカッションの場がなく、閉塞感が強い。
・カテゴリ間が断絶しており、一貫指導や長期間育成である「LTAD」の実現に至らず、時間をかけた有能な選手の醸成ができていない。
・競技実績の高低や有無、地域性などに関係のない、対等な関係性の中での、バレーボール関係者一人一人による日本のバレーボールの一員としての「当事者意識」の欠如。それに起因した無関心、問題や不祥事の発生。
・動画投稿や有料コンテンツによる、合理的な根拠のない弊害が懸念されるバレーボール指導の乱立とバレーボール情報リテラシーの低下

 これらにとどまらない、日本のバレーボール界に介在する様々な問題や課題をクリアするのに、バレーボールの構造を階層化することで、問題や課題の所在や原因がよりクリアになり、バレーボールに関わる全ての人が「当事者としての自覚」というより多くの眼で常にチェックや改善をしていく、思考概念のモデルとなると考えています。


〔階層図の見方〕
 ・階層の下の要素ほど「拘束力がある=すべての人が守らなければいけないもの」となります。(グレーおよびブルーの層)
 ・「矢印」は、バレーボールに取り組むすべての人々、関わるすべての人々が当事者として、試行錯誤や探究、ディスカッションや考察を表しており、その頻度を色分けしてます。
 ・階層の上部は、対戦するチームのバレーボールの内容(戦術や戦力)、自チームの人員の能力やスキルレベル、などを分析・把握したうえで、チームに所属する人員一人一人が探究し、試行錯誤やディスカッションに参画して作り上げられるもの。チームの様々な特徴となっていく。(ピンクの層)
・バレーボールにおけるいわゆる「基本」は、下部(青色の層)に立脚し、かつ今求められる戦術やそれに必要なスキルなど(ピンクの層)を実現させるために求められる、ナショナルレベルで検討され普及させるものです。(グリーンの層)


(一般研究発表)バレーボールの⼀貫指導実現のための階層構造の検討について

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 日本の男子バレーのトップカテゴリでは、少しずつゲームモデルやプレー原則にアップデートが見られています。特に東京五輪の日本代表男子の戦いは象徴的でした。

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 要因として考えられるのは、日本のトップカテゴリである代表チームやVリーグでは、男子では外国人指導者(監督・コーチ)や世界トップレベルの外国人選手の加入が当たり前になり、同時に日本国外のプロリーグで活躍する日本人選手も増え、その影響が大きいと考えられます。このことで、世界のゲームやプレーに関する考え方や知識が、日本の中にも浸透していくことになっていきました。

 ここに至る過程の中で注目すべき点の一つは、ゲーリー・サトウ氏が日本男子代表監督としては初の外国人監督として就任した際、改革の一つとして、基本的な技術指導法にも言及していたことです。

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 しかし残念なことに、その後も一時期において、日本の伝統的なバレーボールの指導観と、世界で一般的となっている指導観との狭間でのギャップや受け入れ難い心理的な揺れがあって、方向性が定まっていない様子も見受けられました。

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 例えば、現在の世界の男子バレーおよび日本のトップカテゴリーでのレセプションは、ゲーリーサトウ氏や現在世界を相手に活躍してきている日本人選手が言及しているものと一致していることがわかります。

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 このように、若かりし日に指導を受け、成熟した選手となり、大人となった多くの人たちからすると、未だに今の自分に導いたはずの指導内容が、現代においては違う指導方法になっていることに、理解が追い付かないという指導者も少なくないのではないでしょうか?

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 2014年のバレーボールミーティングにおいて、JVAによる「基本技術の統一化」に対する取り組みが紹介され、その結実として『コーチングバレーボール(基礎編)』という、JVA監修の新しい指導教本が2017年に出版されています。

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 しかし、「コーチングバレーボール」の出版やゲーリーサトウ氏から端を発する今日の日本のバレーボールの指導法のアップデートは、残念ながらまだまだ一般的なものにはなっていません。特にアンダーカテゴリーでは古くからの指導が受け継がれたままになっています。

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 その結果、指導法の変わらないジュニア世代とトップカテゴリとの間で、技術指導法の食い違いがますます大きなものとなってしまっています。その最たる例が、先述したレセプション(サーブレシーブ)の指導例が最たるものです。
 「アンダーカテゴリでなされている旧来からの指導があくまで「基本」で、トップで行われている現在の指導を「応用」という捉え方もありますが、「基本技術」というものがあるとするなら、「どんな状況でも普遍的に用いることができる技術」を指しているはずで、レセプションの例でも到底当てはまりません。
 日本においてバレーボールの指導法は、カテゴリ間での乖離だけでなく、同じカテゴリの中でも、指導者によって指導法や理論が乱立しており、ハンドリングやスイングなどの考え方では、中にはルールや動作原理に反しているものも散見されています。


バレーボールを階層による構造化する必要性

 日本のバレーボールは長きにわたり、チーム戦術面では世界の後塵を拝しており、選手自らがバレーボールのゲーム構造や戦術を意識した創造的なプレーを生み出す力に欠け、時代とともにアップデートしてきた世界のバレーボールの変化にコミットできない時期が長く続いてきました。

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 しかし、その間、日本のバレーボール界としての技術検討およびそれに基づく一貫指導プログラムが確立し普及することはありませんでした。

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 一方、他競技に目を移すと、バスケットボールでは、基礎技術とは何かということを吟味することなしに、ボールゲームの一つひとつの技術や技術要素を、ただちに基礎技術として指導することの問題点を指摘しています。

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https://researchmap.jp/g0000208033/published_papers/7522680/attachment_file.pdf

 バレーボールに先んじて他競技で行われている「技術と戦術の概念規定」に関する複数の先行研究を参考にしながら、バレーボールという競技の「階層化構造」を明確にすることで、技術や戦術に対して、個人や地域による異なる認識ではなく、どんな状況でも普遍的に用いることができるようになると考えてみました。

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 「階層化構造」を整理し明確にすることで、カテゴリを越えて一貫して指導すべき『基本技術』とはどのようなものを指しているのか? を考察し、先述のカテゴリ間の指導の食い違いに対する明確な回答を提示することを試みることにしました。

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 バレーボール指導者の間で従来漠然と言われてきた、「基本」は、自然法則や摂理と競技ルールに動作原理が積み重なった、どのカテゴリでも誰にでも当てはまる普遍的なものであるはずです。

 階層上位にある「プレー指針」や「ゲームモデル」と銘打ってあるものは、土台となるルールや原理に反することなく、チームとしての試行錯誤と協働によって形成されるものであり、多様性と可変性をもつものとなります。

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考察 ~階層構造で何が見えてくるのか?

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 日本のバレーボール指導、特に初心者指導などでは、「ゲームを成立させるためには、個別化した要素は基礎であるという単純で機械論的な把握の仕方」という考えのもと、「個別のスキルを習得しないとゲームはできない」という考えが広く一般的となっている現状があります。
 先述した、日本におけるレセプション(サーブレシーブ)指導内容の実例として、「正面」指導、ボールを体の正面でかつ定められた姿勢でとらえることを画一的に指導されていることなども象徴的です。

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 日本のバレーボール指導で伝統的になされているのが、限定的な型の反復練習、いわゆるカタにはめる練習と言われていたりします。

 手のカタチ、肘の状態(カタチ)、腕の位置・・・などなど、日本のバレーボール指導では、「カタ」「カタチ」と称されるものを「基本」とし、その型・形を再現することが練習において目的化してきているのです。この指導アプローチは、日本における「武道」の修練でよく見られる「型」のアプローチに似ているもののようにとらえられていきます。
 「カタ」=限定的な形を画一的にはめていく となってしまった日本のバレーボール指導は、レセプションに限らず他にも長年変わらず受け継がれているものが多いです。そして現代ではそれらの指導の弊害もみられています。
 レセプション(サーブレシーブ)の指導では、正面&限定的なフォームにはめることを過度に要求し、現代の多様なサーブに対処できなくなっています。
 オーバーハンドパスの指導でも、手首を(随意的に)使ってと指導したり、手首のキャッチ&リリースの速度を上げて・・・という指導が過去から未だに引き継がれており、キャッチ傾向の選手を量産し、ハイセット能力が育ちにくい状況にあります。
 などなど、他にもブロックやセッター、スパイクのスイングなど、さまざま点で弊害が生じてきています。

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(参考文献)

 しかし世界においても、少なからず日本で伝統的に行われてきた指導と同じ指導をしていた時代が過去にはあったわけです。しかし、オリンピックを見るたびにバレーボールの質や内容が変わっているように、世界は日々アップデートを積み重ねて現在のプレーや指導法に至ってきているという事実があります。

 世界のバレーボールでは、ルールの変更、映像やデータに代表される情報技術の進歩、トレーニング理論の発展などに呼応し、チーム(集団)の探究として、選手たちの間での試行錯誤に加え、選手と指導者それぞれの専門性や機能における試行錯誤と合意形成によって、「プレー指針」や「ゲームモデル」を深化させてきたということが言えるわけです。

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 バレーボールの競技を、階層化構造で見ていくと、ルールや環境要因で変わっていくものと、普遍的な原理や節理とがあることが分かり、検討を常に求められる部分と、厳守しなければならない部分とがあることが明らかになってきます。

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 過去において、「Aパスをはやく低めにセッターに返球せよ」というプレーが世界でも一般的だった時代があります。しかし現在は、「アタックライン付近に高くゆったりと」というプレーへと変わってきました。
 前衛選手の時間差攻撃などのコンビネーションを機能させようとしてきた時代があった一方、現在は、前衛選手間による時間差攻撃はあまり見られなくなってきました。
 それらはなぜでしょうか?

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 バレーボールは、ボールゲーム競技の中でも、大きなルールの変更が幾度か発生しており、「ゲームモデル」や「プレー指針」の変更に大きな影響を与えてきました。そのたびに選手と指導者とでの試行錯誤が求められてきたのです。特に「ラリーポイント制の導入」は大きな変更でした。

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 ルールの変更やトレーニング方法の発展によって、バレーボールのゲームの質も、過去から現在に至るまで、大きく変化しています。
 先述した、レセプション(サーブレシーブ)の指導法も、時代の流れの中では、「正面(へその前)でとろう」といった昔から言われている指導内容が、まさに「基本」とされるのが適した時代があったわけです。ルールの変遷からしても、少なくとも90年代前半までは、機能していたと思われます。

 しかし、サービスゾーンが9Mになり、ラリーポイントやネットインサーブ許容がなされた後の2000年代からは、世界のバレーボールのゲームの性質やプレーの内容も大きく変わってきました。
 2000年代以降、例えばレセプションに関していえば、素早くボールの落下点に入って、正面(へそ前)でセッターに低めにはやく返球するということを目指すことが大変不都合になってきたわけです。

 こうして、日本のバレーボールの競技力が、世界に対して遅れをとり続け低迷していったのは、世界のバレーボールの現状把握ができていないこと、特に世界のバレーボールの「ゲームモデル」の部分と「プレー指針」というものにおけるトレンドがどのような構造になっているかを把握できなかったことが要因として大きいと言えるわけです。

 そして、この階層構造にって、アンダーカテゴリにおける指導や、一貫した指導内容の観点からいう「基本」についてもクリアになってくることが多くあります。
 現状、日本のバレーボール指導でいわれる「基本」は、カテゴリによっても、地域やチーム、指導者によっても異なっています。特に、アンダーカテゴリー中でも初心者に対しては、個別のスキルで「カタにはめる」指導が根深いです。基本や基礎基本を限定的なフォームや姿勢、動きをカタのように伝達し、しかも可変性のないカタのようなものをを画一的に強制をしていくことをもって指導とする。本来、チームスポーツであるバレーボールの競技としての構造からズレていったということになります。

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 本来「基本」、「基礎基本」とは、どのカテゴリ、どの選手にも当てはまる普遍的なものであり、階層構造でいえば、自然の法則や節理、競技ルール、そして動作原理というものになります。

 日本のバレーボール指導では、この階層構造が機能していないことが多くなってきたため、非合理的な指導がなされていることが多く、海外の選手に個人スキルにおいてもチーム戦術においても、溝を空けられ続けてきたわけです。
 具体的には、
・Aパスを入れてコンビネーションを成立させなければいけない。
・そのためにはレセプションでは「正面」にすばやく入りボールをとらえなければいけない。
・サーブをミスしないように細心の注意を払わねばならない。
・バックアタックは決まらない。
・ブロックの吸い込みを防ぐために、ハンズアップのサイドステップでネットに正対移動をする。
・オーハンドパスによるセット(トス)は手首の柔らかさで決まる。
・クイックは、空中で肘を上げて待つ。
などなど、これら列挙してもきりがない数々の情報は、日本にいて一度は聞いたことがあるものではないでしょうか?

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 ボールゲームであるバレーボールにおいて言われている、「カタ」とは、やり方やハウツーであり、それらはチームに関わるすべての人員の協働と試行錯誤によって自分たちで作り上げていくものであるはずです。その営みによりそのチームの「ゲームモデル」と「プレー指針」の合意が形成されていくものだと考えました。

 階層構造を認識することで、「個性や個人差の保障と協働性を機能させる」ことができるのです。また、「ゲームモデル」、「プレー指針」は、チームに帰属するものとなり、個としてもチームとしても多様性が保障されるものです。


結論・まとめ ~一人一人全員の当事者意識と試行錯誤、個人の探究・チームの探究・組織の探究を機能させる

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 バレーボールの階層構造は、バレーボールの技術検討、戦術検討、そして一貫指導の実現にとって有益なものとなるものです。

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 今一度、今回提案した「バレーボールの階層構造」の見方や考え方において、おさえたいポイントを確認していただければと思います。

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 バレーボーボールの競技としての階層構造をもとに考察や分析、ディスカッションを重ねていくことは、選手やチームの試行錯誤、対話、探究とそれにともなう守破離の機能を保障し、個性や多様性の保障と協働性を機能させ、いわゆる絶え間ないアップデートを可能とします。

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 個人の営みとしての話で行けば、カタから入ってもいいと思いますが、本人の試行錯誤や探究は確保されなければいけない。土台となるルールや動作原理はおさえられなければいけないものです。そして本人のカタの概念は、導入時から変わるし個人によって違うものであるはずです。

 指導者(コーチ)による決定(指導)は、選手の、または選手との間での、対話、ディスカッション、試行錯誤、探究、というプロセスがマストで、選手たちとの合意形成を図る中で選手たちに自己決定感があることを
保障することが前提です。

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 日本のバレーボールの歴史や過程において、貴重な財産へのリスペクトが2つあると考えます。
 1つ目は過去の輝かしい競技実績とそこに至るまでの取組。1960年代~1970年代においては、日本のバレーボールは世界の頂点に立っていたという事実があります。そして、その実績の裏には当時の日本バレーボール関係者の試行錯誤と探究、そこから生まれた工夫と英知の結集によって成しました。「当時の」日本のバレーボールは、「当時の」あらゆるリソースをフル活用し、階層構造が機能させた並々ならぬ努力と協働があったと思います。
 2つめは高度な競技レベルの中での実践例や身体知です。東洋の魔女やミュンヘンの奇跡・・・その時代以降、多くの人々がバレーボールを親しみ探究してきました。トップカテゴリまで探究を続け、代表、リーグ、全国大会優勝などの成果を得るような人は、「それぞれに」自分のプレー感覚や努力のプロセスがあったわけです。そして、このかけがえのない経験や知恵を何とか日本で受け継いでいこうという努力も大きいものでした。

 しかし、この偉大なチャレンジや成果、そして後世に受け継いでいこうという熱意や情熱は、皮肉なことに日本のバレーボール界の長いトンネルへとつながってしまいました。
 プレー経験といった身体知や体感覚を継承していくうえで、言語化をともなう指導を積み重ねていくうちに、その言語化が固定概念となり、階層構造をもとにした試行錯誤や探究が機能しなくなったのです。個人の暗黙知を、いかに巧みに言語化してもそれは形式知で止まってしまいその本質が本人以外にすべてがコピーされることはないわけです。いつしか武道のような個人の探究をイメージする指導をしているつもりでも、バレーボールが個人ではなくチームによる営みである以上、個人で探究をし続ける武道の成長プロセスとは決定的に異なり、バレーボール本来あるべき競技としての発展のプロセスが機能しなくなってきたのです。

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 しかし、長い低迷期の中でも、多くの選手や指導者の挑戦や投げかけ、試行錯誤によって、ようやく動き出してきました。その姿が東京2020オリンピックに見ることができたのではないでしょうか?その「今」を、今回の階層構造にあてはめて考察すると、ヒーロー的な選手の活躍はもちろんのこと、過去にいいインパクトを与えた人たちや支えてきた人たちの存在と取り組みにも光があたってくるのだと思います。(ゲーリーも柳田選手もその一人) 

 今回提案した、バレーボールの競技としての階層構造の実現によって、絶えずバレーボールのアップデートが可能となり、合理的な指導法が全国で等しく提供され、一貫指導の実現に近づくと考えます。

 今後への期待は、この階層構造に基づいた技術検討や指導プログラムの策定を組織的に行い仕組みや、日本全国、すべてのカテゴリにシェアされていく仕組みづくりが進んでいくことです。

おわりに

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 今回、日本バレーボール学会 第27回大会 一般研究の発表において、「バレーボールの⼀貫指導実現のための階層構造の検討」
Discussion of the hierarchical structure for the realization of
consistent volleyball coaching
を発表させていただくのに至ったのは、今日の構想までの間に、共同研究者として名を連ねている、三村 泰成氏(鶴岡工業高等専門学校)、渡辺 寿規氏(滋賀県⽴総合病院)両名のご指導と助言、さらには三村氏渡辺氏とともに長い時間をかけて、競技の構造を検討してきた有識者のみなさまの努力なくしてはあり得ないものでした。この場を借りて改めて御礼申し上げます。

(2022年)