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進化が動き出す~女子バレーボール日本代表に躍動感も #FIVBパリ五輪予選

(写真FIVB)

FIVBパリ五輪予選/ワールドカップバレー2023 女子プールBが、東京・国立代々木競技場 で開幕しました。
バレーボール女子日本代表(世界ランク8位)の初戦は、古豪ペルー代表
(同29位)。セットカウント3-0のストレートで勝利しました。


〔日本代表 3-0 ペルー代表〕

①25-9  ②25-19  ③25-15

第1セットのスタートは以下の通り(敬称略)

OH:井上愛里沙、古賀紗理那
OP:林琴奈
MB:宮部藍梨、山田二千華
S:関菜々巳
L:福留慧美

対戦相手は、世界ランキング格下のペルー代表とはいえ、大きな大会の初戦は何が起こるかわからないもの。そして、同じグループに強豪のブラジルやトルコとの対戦が後の方で待っていること考えると、負け試合だけでなく限りなく失セットも避けたいという戦略において、プレッシャーがかかる試合だったと推測します。

しかし、結果はスコアが示すとおり、危なげない展開が続き、選手起用もスターティングメンバーに固執することなく、S(セッター)の松井珠己選手、OHの石川真佑選手、田中瑞稀選手、和田由紀子選手、MBの渡辺彩選手、入沢まい選手、リベロ西村弥菜美選手と、ベンチメンバーも全員コートに立ってプレーし、どのセットもそん色ないゲームができていることは、経験や感覚、コンディションづくりのうえでも、とても良かったなと思います。個人的には和田選手の途中出場からの得点力や、これまで大車輪の役回りをしていた石川選手の途中からの活躍などが特に嬉しかったです。

何よりも、どの選手も活躍し躍動している様子が伝わってきて、今後の試合も楽しみですね。みんなで盛り上げて応援していきましょう!

懸念払しょくへ~VNLからのアップデートのなぜ

野球ではWBC侍ジャパンの世界一、サッカー日本代表の強さの発揮、バスケットボール日本代表の活躍、ラグビーワールドカップの盛り上がり・・・そんな日本のチームスポーツの盛り上がりと熱気にバレーボールも乗りたいところ。特に近年では、バレーボール男子日本代表チームが強さを発揮して注目され今大会も期待が大きいです。
そのような中、日本代表女子がどのようなバレーボールを展開してくるのか、関心をもっている人も多いのではないでしょうか?直近の試金石となるのが今年のVNL(バレーボール・ネーションズ・リーグ)ですが、そこでは東京2020オリンピックでの敗戦以来の立て直しが大きな課題として残っている印象を感じる状況だったように思います。
選手起用もフレキシブルさに欠け、オフェンスシステムも単調でレフトからのOHによるスパイク一辺倒なもので、相手ブロックに対応されていました。自チームのブロックシステムも強豪チームのオフェンスに対応しきれず圧倒されていたように見えます。
「バレーボール」という仕組みや組織の全体像が見えにくく、個人に依存した戦い方や、手段の目的化による機能不全が感じられました。

しかし、2023年9月に入ってから迎えた今大会での日本代表女子は、一部の有識者の懸念や予想を裏切る、かなり進化した内容なのではないでしょうか?選手たちが悲壮感に支配されることなく、生き生き躍動し始めているように見えます。

〔明らかにアップデートが始まっているように見える〕

第1セットの開始は、日本はS1ローテーションでのレセプションアタックからの得点でした。その得点は、セッター関選手のバックセットからのOH井上選手によるライトからのスパイクでした。この時点で、それまでのレフト依存の攻撃ではない空気を感じました。そうやっていくと、ペルー戦の日本代表のオフェンスは、まさに「脱レフト依存」とも言える、攻撃にバリエーションの幅が出てきたように見え、観ていてワクワク感が増してきた感じがします。

従来の、日本代表女子のバレーボールにみられてきた戦い方・・・ある程度決められたパターンの遂行と完成度に主眼を置いたチームづくりや、選手個人の能力に依存した戦い方が、単調で選手も何か窮屈そうに戦っている印象を受けました。こいった戦い方を対戦相手への対応を考慮しない「ジブンタチノバレー」と称されることも。しかし、そのような戦い方から少ずつ解放されてきたのではないかという期待感をペルー戦では見ることができたような気がします。

・消極的な発動ではない、意図的積極的なバックアタックの発動と標準化
・MB選手のスキルアップ、レセプションやセット(トス)の出現
・オフェンス体制確保ための、ゆったりとしたセッターへのボール返球
・スイングしての高さ重視のブロック
・とにかく増加したブロックタッチ
・スロットに変化をつけはじめたバックアタック
・ライトからのバックアタック等、OP機能の適正化
・サーブ&ブロックの機能向上

このような、数々のアップデートともいえる新しい動きが「脱ジブンタチノバレー」につながっていくのかもしれません。
初戦であったペルー戦は、嬉しいことにメンバー全員が出場し、しかもそれぞれが持ち味を発揮して活躍しました。このように「誰が出ても戦える」ためのチームの共通理解に基づく戦術というポイントも、現代バレーのシステムにおいては必須となります。

日本のバレーボールは、伝統的に「守備へのこだわり」が特に女子バレーでは顕著に言われてきました。しかし、ペルー戦のゲームを観るに、選手たちが生き生きとオフェンス(スパイク)を繰り出し、それらをセッターが積極的に駆使している様子からも、何かが変わってきたことを予感させます。もちろん守備をないがしろにしているのではなく、日本のバレーボールが長年大事にしてきたディフェンスのノウハウに、ようやく国際レベルのオフェンスがのっかりつつあるという感じなんだろうと思います。
また、「サーブの強化」も話題になっており、個人的には直接的に目立たなくともサーブ強化の成果がゲームに表れているようにも思います。
「守備へのこだわり」だけでは、ともすると視点が「攻撃」に及ばない可能性を残します。しかし、「攻撃」に何かしらのこだわりを組織やシステムとしてフォーカスする場合、それは自然と「守備」を考えないわけにはいきません
日本代表女子チームの第2戦以降の戦い方、そしてブラジル戦やトルコ戦の強豪チームとの対戦が楽しみです。頑張ってほしいです。

〔今後の注目点と課題となるポイント〕

バレーボール日本代表女子の戦い方は、間違いなく2023年上半期よりも進化をしてきているのは実感できました。
しかし、今回は、対戦相手が発展途上のペルー戦であり、今後強豪チームとの対戦においては、より複雑度が増し、より困難なシチュエーションやフェーズでの意思決定とパフォーマンス発揮が試されてくると思います。

・強豪チームのブロック力に攻撃がどのように対処できるか。
・強豪チームのサーブ力を受けてオフェンスが機能するか。
・強豪チームの多彩な攻撃、特に中央攻撃に対してブロックが複数枚の対処ができるか。
・古賀選手がコートに居ない場合のゲームの内容は維持できるか。
・MBによる得点を確保できるかどうか。

こういったあたりをポイントにして、これからの試合をどう戦っていくかに注目です。

個人的には、アップデートは確実にはじまっていると言える一方で、日本代表男子のような加速度的な進化ではなく、まだまだ試行錯誤や手探りの状況もあるのではないかと想像しています。

・相手の中央からの攻撃に比較的割り切って1枚ブロックになりがち
・セッターがフロント時のMBのブロード攻撃とバックアタックの関係性
・古賀選手以外からのバックアタックの出現頻度
・MBの得点の少なさ

こういった様子がペルー戦からも垣間見られていることから、チームとしてのコンセプト・・・ゲームモデル的なものがまだまだこれから仕上がっていくのではないか。チームの共通理解の進化と深化によって、どんな対戦相手とも主体的に戦える対応力の強さを見てみたいと願います。
まだまだ、「手段」や個人としてやるべきことの整備の要素が多く、ゲームにおける戦い方の全体像や目的、そこに至るチームとして考え方の整備はこれから高まっていくのではないかと期待しています。


Road to Paris🏐~パリ・オリンピックへの道とは?

パリ五輪の出場枠は開催国フランスを含む12チーム。
今回のW杯バレーは、パリ五輪予選でもあり、
世界ランキング上位24カ国が8カ国ずつ3つの組に分かれ、
総当たりで対戦していきます。
各組(各プール)上位2カ国の計6カ国ずつが出場権を得ることになります。
残り5つの枠は、男女ともに来年のネーションズリーグ(VNL)予選ラウンド終了時(6月)の世界ランキングで決定されます。


ペルー代表へのリスペクト

世界の女子バレーボールの歴史において、ペルー代表は1980年代に世界大会でメダルを獲得する強さを見せていました。当時は、旧ソ連(現ロシア)、日本、中国などと肩を並べて戦っているチームでした。

そしてバレーボール女子ペルー代表が、そこまでに至るプロセスには、日本人、日本のバレーボールが大きく関わっていました。
1965年に日本から加藤明氏がペルー代表監督に就任して以来力を付け、就任3年後の五輪初出場だった1968年メキシコオリンピックでは4位に入賞します。
加藤氏は、残念ながら1982年病に倒れてペルー国内でこの世を去ってしまいます。その死から半年後に地元ペルーで開催された1982年女子世界選手権では、第2次ラウンドで日本代表を初めて破り、銀メダルを獲得しています。さらには、1986年の世界選手権で銅メダル、そして1988年のソウルオリンピックで銀メダルを獲得しています。
この当時バレーボールの先輩国である日本を目標として追い続け、そして追い越して強くなっていくドラマに胸打たれます。

現在は、世界のバレーボールでは、ブラジル代表が男女とも強さを発揮し世界をけん引していますが、日本の地球の裏側の南米ペルーのバレーボールの歴史、そして人々の遺伝子には、日本との縁やつながりがあることも知ると、バレーボール女子ペルー代表も応援したくなっちゃいますね。

(アキラ・カトウが鍛え上げ当時の強豪日本に挑戦)

(加藤氏の意志を受け継ぎついに)

(そして世界のトップチームの仲間入りへ)

(2023年)