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「コーチングバレーボール 基礎編」(日本バレーボール協会編)

 日本バレーボール協会から出された、バレーボールの指導教本「コーチングバレーボール(基礎編)」が発売になりました。
 日本バレーボール協会から出された指導教本としては、1977年に大修館書店より出版された、「バレーボール指導教本」初版が出て以来のことのようです。40年ぶりの、日本のバレーボールの指導教本が整備されたというのは、それだけでも意義が大きいのではないでしょうか?
 確かに、1970年代は、日本が男女とも世界のバレーボールの頂点に立ってなお世界をリードしていた時代であったと思います。しかし、それ以来日本のバレーボールの40年間は・・・世界に大きく溝をあけられてきました。世界のバレーボールの戦術やスタイルも、この40年間では大きく様変わりしています。そんな中で、今の時代、今の世界を意識しながら、これからの日本のバレーボールに向けて、40年ぶりに教本が整備されたことは、大きなアクションだと思います。

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すべてを、細部にわたって熟読したわけではありませんが、読んでみて、ざっくりとではありますが、注目していただきたい点を5点挙げておこうと思います。
 一つ目は、「用語」の位置づけです。日本協会の教本として、最初に用語の定義と解説がされています。
 二つ目に、運動学習理論に基づいたバレーボールのコーチングの部分に注目したらいいと思います。
ゲームライクドリル、ランダム練習、スキルウォームアップ、全習法の原則・・・
従来の日本の「伝統的なバレーボール』指導を見直し、これからあるべき練習やドリルの考え方の芳香性は参考になります。
 三つ目は、基本技術について、プレーの目的を再確認し、その構造のおさえ所として「動作原理」にポイントを置いているということです。ここは本当に大きなポイントで、従来の指導方法を大きく改善する情報になると思います。
 四つ目は、戦術・戦略の基礎 - 基本的ゲームマネジメント として、スキルチェーン的なプレーとプレーの関連性や、因果関係を踏まえた、戦術の構成に言及されている点です。「トータルディフェンス」という言葉を用いての解説や、「ブロック」について情報を多く割いています。
 五つ目は、データや情報の活用や分析について、多くの解説がなされているところです。プレーやゲームを観る目、考える頭脳のこれからの方向性につながると思います。

目次としては、以下の構成になっています:
第1章 バレーボールを理解する
 1. バレーボールの誕生と発展の歴史
 2. バレーボールの特性
 3. バレーボール用語の変遷
 4. バレーボールを取り巻く各種組織
 5. バレーボールに関する指導者養成制度
第2章 バレーボールの基礎的コーチングを理解する
 1. コーチングに必要な基本的態度
 2. うまくなるための理論の理解
 3. チームマネジメントの基礎
第3章 子供たちを理解する - バレーボールに必要な発育発達理論とトレーニング理論 -
 1. 体力面から子供を理解する
 2. 心理面から子供を理解する
 3. フィジカル面の基礎的トレーニング理論
 4. メンタル面の基礎的トレーニング理論
第4章 バレーボールの医学と栄養
 1. 障害の発生機序とその部位
 2. 障害の予防と救急処置
 3. バレーボール選手に必要な栄養素とその摂取量、摂取法
 4. サプリメント活用の基礎知識
第5章 バレーボールに必要な基本技術とその練習法
 1. 基本技術の考え方
 2. サーブ
 3. レセプション
 4. セット
 5. スパイク
 6. ブロック
 7. ディグ
第6章 戦術・戦略の基礎 - 基本的ゲームマネジメント -
 1. チーム構成、スターティングポジション
 2. 戦術的にサーブを打つ
 3. レセプションフォーメーションとカバーリング
 4. アタックフォーメーションとカバーリング
 5. ブロックフォーメーション
 6. ディグフォーメーション
 7. 基礎的ゲーム管理論
第7章 基本的なゲーム分析法
 1. データ収集の基本的な考え方
 2. ゲーム分析の実際
第8章 バレーボールの競技概念とルール
 1. 基本的なルールの考え方と審判法の基礎
 2. 競技会の運営とその管理

 個人的に解釈していることは、40年間の間に日本のバレーボールの変遷において、現在様々な課題や問題が、技術論や戦術論、そして指導論にあって、それらが世界との大きな差につながっていることに対するメッセージが散りばめられています。
 協会の教本という性質上、より個別具体的な事例やそれに対する疑問を投げかけにくいのだとは思いますが、長年日本のバレーボール指導でみられていた、戦術や指導の視点がスキルごとに分断した考え方だったり、根拠のない精神論に偏ったものであったりと、勝利実績のある指導者やトップ選手キャリアのある人の経験や感覚に頼ったものに対する警鐘ではないかと考えます。
 例えば、基本技術習得においては、画一強制的な「型ハメ指導」に対しての疑問が、「型の文化からの脱却」という言葉で明確に書かれています。基本技術が「動作原理」が重要であることや、「シー&レスポンス」の必要性、アイワークへの言及などは、従来の伝統的なバレー指導では十分ではない部分の必要性が書かれているあたりにも反映されていると思います。
 また選手の育成についても、特定のポジションの限定的な偏りのあるスキル習得・・・一部のスキルの習得を免除して別の部分的なスキルだけに特化すればよいということにも、明確に疑問が投げかけられいています。指導者側のあるべきメンタルや、選手特に子ども世代のメンタルについての理解を踏まえ、より選手をフロー状態に導き、自ら伸びていく選手にするためのアプローチにも触れられており、これまでの根拠のない精神論や威圧的な指導への疑問にもつながると思います。

 個人的に、逆にもっと情報が欲しかった点を挙げておこうと思います。
・各カテゴリにおける課題
・カテゴリ間、カテゴリをつなぐ部分における課題
・選手の育成の方向性やロードマップ

 こういった部分がさらに整理されてくると、指導者は腰を据えてじっくり指導できるんじゃないかなと思います。個人的には、選手の育成においては「オールラウンドな育成」というのは今後さらに重要だと思います。二つの数字で示されるチームフォーメーション、一つ目の数がスパイカーの数、二つ目の数がセッターの数を示すものがありますが、それを用いた特徴の解説や育成過程における活用の方法などがあると、さらにオールラウンドな選手の育成が、実戦経験を踏まえながら進めていくことができると思いました。

 しかしながら、日本のバレーボールの関係者の方々が知恵を集めて、40年ぶりに今の時代を踏まえたトータルな指導内容をまとめられたことに敬意と感謝を表したいです。ぜひバレーボール指導者もプレーヤーも、試合観戦を楽しまれているファンも、メディア関係者も手にとってもらえたらいいかなと思います。
 私もこの本の情報について、これからも具体的な指導への落とし込みをこれからも考察していきたいですし、みなさんとの情報交換や交流を楽しみにしていたいと思います。


(2017年)