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おろそかになっていないか?サーブの考え方

日本では不足しがちなサーブの思考

 最近では、「サーブ戦術」、「戦術的サーブ」、「サーブの定石」という言葉も用いられるくらい、プレーをよりマクロな戦術の関連性の中で見る必要性が言われてきています。

 バレーボールの試合において、「サーブ」はゲーム開始のスタートのプレーです。サーブを打つ側が最初に得点のチャンスをもちます。ですから、サービスエースを得るというのは、最も最短でラリーを制する方法ですから、サービスエースというのはできればほしいところです。
 逆に、サーブ権がない方、サーブを受けるレセプション側からすれば、相手のサーブからのラリーで失点すれば、「ブレイク」を許すことになります。なぜ、「ブレイク」が重要だといえば、実際のところバレーボールの試合の中で、得点がサービスエースでなされる点はそうは多くないです。ポイントの多くはサーブの後の攻防で入っていきます。実力が同等ならば、サイドアウトを繰り返し競り合っていくことになります。そうなると、何点もサービスエースを許すともなれば、通常のラリーでの競り合い以外での失点をすることになり、相手を優勢にしちゃうポイントを与えてしまうことになります。その後通常のラリーをしていても追いつけない展開になっていき、「差が開く」という展開をつくってしまうことになります。
 ですから、「サーブ」は、重要です。サーブミスを嫌って、相手にとってプレッシャーのないサーブを打っていれば、いつまでも相手に差をつけるチャンスがもてないということになります。サーブミスも失点1、でも安易なサーブを相手に取られてそこから攻撃されて失う点数も失点1。だからサーブで攻めてミスがあった場合でも、ゲームの対局にはそんなに影響に差はないと考えられます。だったら、少しでも「ブレイク」の可能性をねらって、サーブで攻めることは大事なわけです。むしろ、サーブに対して何らかの指示で消極的な思考でゲームにのぞめば、展開における精神的な追い込まれ感は大きくなっていくと思います。

サーブの考え方はどれだけシェアされているのか?

 さて、今回は「サーブの定石」 というフレーズについて考えたいわけです。
サーブで期待したい機能としては、
①サーブポイント(サービスエース)を獲る  ということと、
②サーブによって相手のシステムを崩す    とがあります。
これらを実現、達成するために、ではどうしたらよいか?という点に視点が移るわけですが、単に誰を?どこに?などという答えを求めようとする傾向が強くなると思います。しかし、それ以前に「なぜか?」、「そうする必要性」みたいなものがおさえられなくてはいけないと思います。

 当たり前ですが、大事なのは、「サーブを打ったことによって、こちらの得点にする」ということだと思います。特にラリーポイント制においては、サーブを打つ側が得点する「ブレイク」を獲ることが重要です。

 サービスエースは誰にとってもわかりやすいことですが、それだけじゃなくサーブが何らかの機能を果たすことで、次のプレーが有利にはたらき得点する・・・それで、サーブを打った側にとっての「次のプレー」とは・・・「ブロック」になるわけです。ですから、サーブとブロックの関連性、「サーブ&ブロック」は、戦術面でも大変重要な要素のひとつです。
 ともすると、サーブ単体で考えられることが多いです。どこを狙えばいいか?誰に打てばいいか?どうやったらポイントできるか?どうやったらミスしないか?そういった局所的な答えや、ターゲットの正解を求め、それ自体に策を講じるのも悪くはないですが、もっと「どこを狙うか?」の論拠になる部分、考え方を共有した方がいいと思います。「考え方」がおさえられていれば、相手の状態やゲームの状況に応じて、選択判断を合わせることができます。

「サーブを打ったことによって、こちらの得点にする」 ということは、
「サーブを打ったことによって、相手の得点にさせない」 ということになり、
「相手の得点にさせないということは、相手に満足に攻撃させない」 ということにもなります。
だから、入れとけサーブではいけません。相手に満足な攻撃をさせてしまうからです。

ですから、先ほどの、
①サーブポイント(サービスエース)を獲る ということと、
②サーブによって相手のシステムを崩す ということになります。

相手に満足に攻撃させないのは、
まず第一に、エースを獲ってラリーにさせないことです。
第二にくるのは、相手の攻撃を妨害したりパフォーマンスを落とすようにして、ブロックしちゃうことです。
第三は、相手の攻撃がこちらの想定内にもちこみまんまとディフェンスして、こちらから攻め返す・・・
となっていきます。

そう考えると、サーブにおいての「定石」の考え方のひとつとしては、
レセプションする選手に心理的負担・プレッシャーをかけ、相手のミスを誘うこと、
次に、相手に十分な攻撃をさせない方法を考えること、
そして次には、よりこちら側の守りを、想定内または容易にすること
となっていきます。

 現代バレーでは、攻撃枚数をいかに多くして、相手に心理的にも思考能力的にもプレッシャーや負荷をかけることが求められています。また、その攻撃をおこなうために、より組織的、トータルな動きやプレーが求められます。ですから、そういう意味では、複雑化するものに楔を打ち単純化させること、組織化しているものを分断すること、トータルなものを単体勝負にもちこむこと・・・。そういった視点でのサーブが、言われている「定石」になるんじゃないかと思います。

 サーブで相手を崩す・・・それは、単にレセプションの返球精度を狂わせたり、Aパスをさせないといった、視点にとどまらず、その先の相手の攻撃やラリーをいかに十分にさせないか・・・そういった目に見えにくい部分や、後々にボディブローのように効いてくるところにもっと話題がいかねばなりません。「サーブの定石」といっても、分かるようで見えにくい部分もあるかもしれません。ですが、何も強烈なジャンプサーブでポイントをもぎ取るだけがすべてではありません。きわめて緩いサーブであっても、相手セッターの導線を断ったり、相手スパイカーの助走経路を断つまたは妨害する・・・。そのためにはどこにどうやって打てばよいのか・・・。それこそ選手が見つけて打たねばなりません。リベロにわざと取らせて、バックアタック経路の障害と前衛クイックの遅れ、さらにはウィングの選手の助走準備の妨害・・・一石二鳥三鳥をねらうことだってあり得ると思います。

 どこに?誰に?というターゲットの答えばかりを話題にするようでは、それ以上の戦術的な視点や、サーブの定石の話題にいきつきません。
サーブを打った者とブロックをした者が、しめしめと喜び合うような展開が目指すべき状態ではないでしょうか?
 サーブはエースをもぎ取るだけじゃなく、その先の味方のブロックやディフェンスを優位にするためにもなされなければなりません。
 「定石」とは、お互いが最善と考えられる手を行った場合の手を打つこと策を講じるという意味です。つまりはお互いみんな分かり切ったうえで、その局面では当然そうするであろう手でもあります。サーブにおいては、ミスを恐れるよりもしっかり意図をもって打つことが当然であり、ハードヒッターならばいかなる場合にも果敢に打ち込むべきだし、ソフトヒッターならば相手の導線を断ったり、味方のブロックを機能させるための効果を考えなければなりません。
 そういった視点をより多くの人と共有しながら、テレビ中継を観ることができたら、もっと面白いでしょうね。


(2015年)