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バレーボールの「チーム力」を考える

バレーボールにおける、チーム力やゲームの勝敗の分析が、データやエビデンスはもちろんのこと、ちゃんと正しくなされるべきだと思う時があります。
 特にアンダーカテゴリで勝敗における激しい競争がなされるとき、その勝敗の分析が正しくなされないと、指導方法や指導理論みたいなものにも悪い影響を与えることもあり得ると考えています。特に、勝ったチームの取組がどうしても模倣されやすいわけですが、その勝ったチームの勝っている要因がどういうものなのか?という点は重要だと思います。
 「サーブミスで負けた」、「レセプションの正確さで勝った」、「高さで勝った」、「コンビバレーで勝った」、「はやい攻撃で勝った」・・・こういうことが、果たして本当なのか?っていうあたりの検証は、常に必要だと考えています。

(1)バレーボールのディフェンスと「消去法」

バレーボールの守備、特に相手からのアタックやサーブなどの攻撃に対するプレーにおいて、重要なポイントや練習すべきことなどは、多岐にわたっていると思いますが、最低限の原則的なことを考えてみました。

・シンプルに守ることができる状況をつくる努力
・相手のセットやアタックの状況を見る・読み取る
・自チームのブロックシステムの把握
・根拠のあるポジショニング
・ディフェンスからの攻撃展開までの動き
・攻撃枚数の確保とその環境づくり

 こういったことは、レベルやカテゴリを問わず、それこそスモールステップでもいいから積み重ねて習得していくべきことではないかと考えています。

そこで、バレーボールのディフェンスにおける視点に焦点を絞って考えた時、重要な要素とは何があるんでしょうか?
 精度の高い返球、素早い動き、正確なポジショニング、ボールコントロール時のフォームや体の動き・・・。
 ディフェンスの練習では、どうしても選手がボールにくらいつくイメージを強く持っちゃいがちで、飛来するボールに選手が身体を動かしボールに向かっていく。そんな考え方に基づいた練習が多いのかなと思います。
 しかし、一方では、「ボールが飛んでくるところに居る」という能力も、もっと重要視されるべきです。やみくもに身体を動かすよりも消耗が小さくエネルギー効率もいいのではないでしょうか?
 「ボールが飛んでくるところに居る」ためには、憶測やギャンブルではいけません。しかっかりとした判断材料と判断根拠を伴っていないといけません。ですから、余計にネットの向こう側の状況に注意を払わなければなりませんし、めまぐるしい変化をみせるゲーム展開に自分の思考をコミットさせていかねばならないわけです。

では、ボールが飛んでくるところにフロディフェンスを位置取るためには、どんなことを材料とすればよいのか?

「ディフェンスは、シンプルに守れるようにする」

 そこで、視点になり得るのが、相手攻撃への消去法的な思考判断です。
 相手のアタックを単純化させることに成功すれば、自チームのブロックは整えやすくなります。自チームのブロックが整えば、それに合わせたフロディフェンスの体制づくりを行うことができます。
 では、ゲーム中において、その相手攻撃の単純化という消去法的作業はどのようなプロセスでなされるのか。それはもう、みなさんが考えての通り、

 ① サーブによって、相手のシステムを崩す
 ② アイワークを正確にし、シー・アンド・リアクトを遂行する
 ③ 組織的なブロックを機能させる
 ④ ブロックの機能に裏付けされたポジショニングをとる
 ⑤ 相手スパイカーの特徴を把握する(くせやコースの傾向など)

これらの思考判断をつなげていくことで、結果的には、より自分の思った通りの位置にボールが飛来し、自分の居る位置でボールコンタクトをすることができるのではないでしょうか?

 どうしても、練習となると、ハードワーク的な運動量の多い練習を求めがちですが、時として身体の運動量よりも、頭脳の運動量を求め、長いゲーム展開の中で、相手よりも自分たちが少しでも意図的にプレーし続けられるかを求めていくことも大事です。

(2)「サイドアウト力」と「ブレイク力」

 サーブミスで負けた、レシーブが崩れて負けた・・・いろんなことを言われるわけですが、例えば、サーブミスの本数が勝敗にどれだけ影響を与えているのか・・・こういったデータ上の分析はもうなされていて、特にトップカテゴリではサーブミスの本数だけで負けることは考えにくいです。
 しかし、一方でアンダーカテゴリでは、サーブによる得点が多い場合も珍しくなく、そういったレベルの試合では、サーブミスによって得点の機会を失うと考えると、サーブミスが勝敗に左右したことも考えられる余地は大いにあります。
 いずれにしても、サーブミス自体でゲームの勝敗が決まるとは考えにくいです。仮にアンダーカテゴリーの例で考えても、サーブミスで得点が稼げないことが痛いのであれば、それは逆に「相手のブレイクを許しやすい」、「サイドアウトをとりにくい」という、相手サーブからはじまるラリーに弱いことを意味しているわけです。ですから、一概にサーブミスに責任転嫁できないわけです。かといって、レセプション(サーブレシーブ)で負けたとも言い切れないわけです。

・【ブレイクでの得点】
サーブによる得点 → ブロックによるシャットアウト → トータルディフェンスからのアタック → ・・・ 

・【サイドアウトでの得点】
レセプションからのアタック → ブロックによるシャットアウト → トータルディフェンスからのアタック → ・・・

 このように見ていくとき、ブレイク力(率)とサイドアウト力(率)のそれぞれが、相手を上回れば勝てるわけですが、それぞれは、サーブとかレセプションの精度といった切り取った要素だけではとらえきれない部分があるわけです。
 それぞれのチームを、何か個別スキルの精度から勝敗を考えるだけでなく、ブレイクやサイドアウトの現状と内容から、勝敗に対する思考を下ろして考えることが必要なのではないでしょうか?

(3)「シンプルな」強さと「多彩な」強さ

 アンダーカテゴリーでは、得点力のあるスパイカーが一人いることで、勝つ要素が大きくなったりします。例えば中学・高校のバレーボールの試合を観ていると、いろんな戦い方がみられますよね。例えば「エースバレー」とか「コンビバレー」とか、ネーミングは???だとしても、いろんな戦い方があるわけです。
 トップカテゴリでも、もちろん卓越した選手がいることが要因で勝つことも考えられますが、トップ選手では当然のこと全員のスキルのトータル性での勝負になってきます。
 アンダーカテゴリになるほど、戦術がより単純化されていることが多いです。
 単純化というより限定化・固定化されたと言った方がいいかもしれません。小中学生バレーなどでは、そういう観点からワンパターン化が進み、「ワンパターンVSワンパターン」の殴り合いみたいな展開になったりします。そこから、「対応力」とか「フレキシブルな変更」といった戦い方は見られにくくなります。
 しかし、世界のトップを見ると、ブラジル男子が攻撃オプションの多彩さやブロックの組織化による柔軟な対応を見せ、アメリカ男子がブロックをさらに組織化させ、ロシア男子がポジションやシステムの変更を可能とする対応力を見せるなど・・・シンプルな強さに、柔軟性や対応力をともなった、変化ある多彩さを持つことで、勝利を手にしているわけです。 
 とは言いつつも、仮に分かり切って3枚ブロックに付かれようとも、それを打ち抜くパワースパイクで1点をもぎ取る強さもトップレベルでも必要なわけです。
 日本でも、バレーボールのゲームの強さを、シンプルな強さの要素と、多彩な強さの要素を、一側面だけを取り上げるのではなく、双方から考えていく必要があります。

(4)「システム」と「パフォーマンス」の違い

 「高さとパワーに負けた」とか「スピードで勝つ」とかよく耳にしますが、それらはいずれもパフォーマンスの要素だと考えます。しかし皮肉なことに、日本では「スピード」というパフォーマンスを追求していながら実際は、本来発揮できる高さとパワーを犠牲にしているという問題も明らかになりました。これらは、スピードなどという要素があたかも「戦術」とか「戦い方」というとらえ方になってしまっていて、選手の「パフォーマンス」という視点が欠けてしまっていることで、強化の方向性がズレてしまっていることもあるのではないでしょうか?
 現状の相手の攻撃システムやブロックシステムを把握し、それらを打ち崩すために、自チームがどのような攻めや対応をするのか?それは、パフォーマンスでの対抗ではなく、システムにはあくまでもシステムで考えなければいけないことです。例えば、ブロック枚数に対するアタッカーの数的優位の視点などは、はやければいいとか、高ければ勝てるという視点ではないわけです。
 「システム」というのは、組織力であり、それは相手に対応するためのものだけではなく、一人一人の能力やパフォーマンスが最大に発揮される状況を生み出すものであるはずです。
 誤解のないように言いたいのは、高さ・パワー・スピードが重要ではないと言いたいわけではありません。システムか?パフォーマンスか?の二者択一ではなく、しっかり視点を把握して考えることが重要だということです。

(5)「ミスの少なさ」の強さと「修正対応力」の強さの違い

 「Aパスが入らないから負ける」・・・これもよく聞くことです。
こういう言葉が日本で今でもよく言われる背景には2つの要因を考えています。
 一つ目は、アンダーカテゴリでの指導や、指導された選手の思考がそのまま保存されており、アップデートされないまま上のカテゴリに進んでいるという点です。
 先ほど言及したように、同じバレーボールのゲームの展開であっても、カテゴリによって得失点の性質は大きく異なっていると思います。小中学生は、サーブによる得点とレセプションによる失点が勝敗に大きく関与しているのに対し、カテゴリが上に行くほどサーブミスの勝敗への相関は弱くなっていきます。
 しかし、トッププレーヤーや解説者が、自身の経験上長年言われてきたことがそのまま理論化されてしまっているのが問題です。

 次に指摘しておきたいのが、「Aパスが入らない」=即失点にはなっていないということです。
 Aパスが入らないことによって、相手にダメージを与える攻撃ができないということが問題となるべきです。つまりは、仮にAパスにならなくとも、どれだけ有効な攻撃を生み出しているかが勝負なわけです。ですから、「Aパスが入らないと負ける」というのは、ファーストタッチの精度の問題以上に、攻撃をどのように生み出すかのオプションやパッケージ、またセットプレー能力の欠陥が浮き彫りになるべきなのです。
 セッターやセッター以外の選手のセット能力、スパイカーの助走の取り方、攻撃枚数の確保の仕方などが重要になってくるわけです。

(6)「個人」でみる強さと「組織」でみる強さ

 チームスポーツであるバレーボールにおいて、個人の力量やパフォーマンスの違いがどの程度チーム力や勝敗に影響を与えるのか。感覚的には把握できそうなことでもなかなか定量化することは難しいことだと思います。
 しかし、日本バレー界のトップ選手の話題ともなると、特定の選手個人の活躍やパフォーマンスに注目が過度に行きがちです。そして、「ポスト竹下選手」だとか「木村沙織選手の後継者」だとか、「石川選手をもう一枚」などといった話題に行きがちです。
 選手個人にしか視点が及ばず、ゲーム展開やチームのシステム、戦術の構成などに視点が及びにくいこと自体が、競技全体として成熟していないことを示しているのだと思います。バレーボールのテレビ中継では、解説の在り方に議論がいくのが、もう恒例となっていますが、バレーボールは、サーブやスパイクで得点をもぎ取った選手や、正確なボールさばきをするディフェンダーやセッターだけではない、ネットの向こうにいる相手の関連性や、いいプレーを導いている要因をもっと話題にしなければなりません。
 解説者だけでなく、プレーしている選手も、そして観ている側も、バレーボールの個人よりも、組織やシナリオによる強さに注目しないといけないと考えています。

(7)カテゴリや発達段階で異なる強さ

 小中高校生チームで、例えば日本一になったチームの練習やプレーをコピーしようとする様子をよく眼にします。しかし、十中八九うまくはいかないだろうと思います。少なくともコピーのモデルを超えることは絶対ありません。
 それはなぜかというと、努力だけでは克服できない要素がたくさんあるからです。その最たるものがメンバー構成だったり環境要因だったりするわけです。さらに言うと個々人のもつ運動経験や運動感覚、発達段階が違うからです。

 ですから何でもかんでも見様見真似や、やっていることのコピーをするだけでは、特に個人スキルが完成していないアンダーカテゴリでのゲームについては無理があります。
 しかし、トップカテゴリのゲームはまた話が違ってきています。代表クラスのプレースタイルやゲームモデルなどは、日本の代表でも取り入れるべきだと思います。
 ここで必ず「同じことをやっていては勝てない」と言い出す人がいますが、それはこれまでの記事でも何度も書いた通り、オリジナルは、標準化をしたのちに見出すものだと考えています。

トップカテゴリのバレーを学生バレーのようにみていないか?

チーム力を、
高さやパワーといった、パフォーマンスだけで決めることはできないし、
選手個人の力量だけで語ることもできません。
チームのシステムの対抗策はシステムであって、個人のパフォーマンスだけの問題にするのは無理がある。
パフォーマンスの問題であるのに、いつまでもシステムの問題にするのは限界がある。   
また、同じバレーボールというゲームでも、カテゴリや構成メンバーの特性によって、そのチーム力の判断材料は変わってくるのだと思います。


(2019年)