世界で戦えることが証明されたよりも、実はこれまでも世界と戦えていたかもしれないことの証明じゃないかと
FIVB World Grand Prix 2014 のファイナルが行われ、全日本女子は銀メダルという結果でした。中国やロシアなどを次々と破る試合がテレビ中継されて、とてもいいもんですね。
さて、今回の日本チームは、「hybrid6」(ハイブリッド6) という選手の起用方法を採用し、従来のバレーボールにおける選手の役割分担とは違ったスタイルに注目が集まりました。そして日本チームは、ロシアや中国にも勝利し、銀メダルという成績を出しました。まだまだロシアの仕上がりもいまいちでしたし、中国もフルメンバーではないお試し感満載な状態。さらにはアメリカやイタリア、セルビアなどの国々も出場していないことを考えると、これからの女子バレーの国際大会の情勢はさらに注目していきたいですね。
(FIVB World Grand Prix - Japan - China)
日本代表女子(2014)の現在位置から
さて、日本女子チームの、「hybrid6」(ハイブリッド6) についてです。
私は「新戦術」という表現は必ずしもふさわしいとは思いません。「戦術」というよりかは「戦略」という言葉の方が近いのかなと思ったりもします。既存のスキル・・・サーブやブロック、攻撃などをどのように駆使し、組み合わせ、システム化するか・・・そういったものが「戦術」なのかなと思ったりします。今回の、「hybrid6」(ハイブリッド6) というのは、それを包み込む概念で、選手の配置や役割分担の概念を指すものではないかなと思います。だから、戦術とかという表現よりも「新たな試み」という表現でいいのかなと思ったりします。
いずれにしても、、「hybrid6」(ハイブリッド6) というものを採用してみたことは、日本の女子バレーを一歩二歩、世界の中で前進させたことは間違いないように思います。それはただ単に国際大会で強豪国に勝ったとか、銀メダルを獲得したという見た目の結果による評価ではなく、実際のゲームにおける選手の様子を観ても、今までにないくらい海外の選手たちと渡り合っている印象をもった人は多いのではないでしょうか?
これまで日本のバレーが海外のバレーと大きく溝を開けられてきた状況の中で、その要因をことごとく「高さとパワーに屈した」と表現されてきました。ロンドンオリンピックでの銅メダル、そして今回のグランプリでの銀メダル・・・いずれも平均身長などの「額面上の高さ」では、日本は海外と比べて低い状況には変わりがないわけです。ではなぜ勝てる試合が増えたか?もし、これまで勝てなかった要因が本当に「高さとパワー」だったとするならば、その力関係の状況は、「hybrid6」(ハイブリッド6) にしたところで変わりがないはずです。負ける試合は「高さやパワーに負けた」・・・でも勝った試合はその「高さとパワー」に対してどうだったのか・・・決して言及されることはありません。じゃあ、それだけ、「hybrid6」(ハイブリッド6) というのは、これまで考えられていた海外との溝を埋めるのに余りある絶大な効果があったということでしょうか?それもまた違うと思います。、「hybrid6」(ハイブリッド6) に大きな効果があったというよりも、ここ30ねんあまり日本のバレーが追い求めてきたことに、無駄や欠陥、脆弱性がたくさんあって、本来の出すべきパフォーマンスを自ら発揮しにくくするような、それこそ戦略や戦術の「足かせ」がなくなって、ようやく本来出すべき力が発揮されつつある状態に近づいているだと思います。つまりは、今までは無駄にマイナス局面の中から脱しきれずにもがいていた状態が、ようやくフラットなスタートラインになってきた・・・もっといえばようやく「過去の負の遺産」みたいな旧態依然の思考をリセットできつつあるんじゃないかということです。
ですから、「hybrid6」(ハイブリッド6) という新たな試みは、これからの世界と戦う武器を手にしたということではなく、これまで日本バレーの足かせとなってきたもの、日本バレーの足を引っ張ってきた固定概念や先入観みたいなものから解放しようというものだと考えています。「それだけでも」ロシアに勝ったり中国に勝ったりして、今までグランプリで獲得できなかった銀メダルと獲れちゃった・・・ということになるんだと思います。ですから、この新しい戦い方がこれから世界で勝てることを証明したということよりも、(本当は)「これまでも世界で十分戦えていたことを証明した」ということになるんだろうと思います。
「高さとパワー」の影
具体的には、先ほど挙げた 「高さとパワー」というものに敗因を安易に丸投げしてきた背景があり、そこから日本の「オリジナル」思考というものが、歪曲した形で「はさや・スピード」というものを追い求めることが、さらなる歪みを引き起こしてしまった経緯があります。
日本が求めた「スピード」というのは、ネットの向こうにいる対戦相手を無視した、自分たちの計測的な速度だけをはやめようとしてきたことによって、もともと日本に不足していると言われてきた「高さとパワー」をさらに犠牲にするようになり、ますますスパイク決定を困難なものにしてきました。相手のブロックの餌食に遭い、ことごとく相手にボールを拾われます。それどころか、不用意なミスを誘発し、さらには積極的なスパイクを生み出しにくい状況を多く生み出してきたのです。
その象徴が日本のMB(ミドル)の選手の役割だったわけです。
MBは、その名の通り前衛3枚の真ん中にあるわけですから、相手スパイクの位置に対して、限りなくすべてに対応することが要求され易いです。したがって、「ブロック→スパイク」という展開が常につきまとうわけで、従来の他のポジションよりもスパイク体制を整えることが難しい状況が多いわけです。さらには相手ブロックを分断するために、「クイック」というものが役割として課せられると、さらにスパイクへの十分な備えがしにくい状況が出てくるわけです。
こういった状況に対し、近年の世界のバレーボールは、ファーストタッチ(セッターへの返球)を高くし、スパイカーの準備のゆとり生み出したり、マイナステンポ中心から、ファーストテンポ中心にしたり、さらにはバックアタックの標準化とテンポ選択の組み合わせで、より多様な状況下でスパイクの選択肢を増やし、どのラリー局面でもスパイク決定を果敢に生み出す状況を作ってきたわけです。
「スピード」「はやさ」は対抗軸になり得るのか?
しかし、日本のバレーはその流れに乗り遅れました。「高さとパワー」に対抗するための「(見せかけの)スピード」に固執しすぎてしまったわけです。最近の日本の「MB1」という試みから「hybrid6」(ハイブリッド6)という一連の試みは、そういった状況を何とか打破できないかと思案した結果のひとつの取り組みだと考えられられます。ですから、繰り返しになるのですが、グランプリでの銀メダルという「成果」の要因は、新戦術を手に入れたことではなく、これまで見失ってきたもの、これまで無駄に足かせとなってきたものから、ようやく解放されてきたことなのだと思います。ですからひょっとしたらこれまで20~30年間の日本チームでも、世界と十分戦えたシーンというのがあったかもしれないということです。
これから世界と戦い勝てるための「戦術」の構築は、ここからがスタートなのだと思います。今大会も力の差を見せつけ優勝したブラジルは、素晴らしい点はたくさんありますが、やはり「ブロック」がしっかり整備されていることが第一だと思います。そういったブロックを相手にする時には、ただ単にスパイカー個々の個性を生かすだけの、スパイカー思考偏重だけでの戦い方では厳しいのだと思います。チームの強さは、スパイク力とかディグやレセプションの精度以上に、「ブロック力」「ブロックの組織力」に比例するのだと思います。
そしてそういったブロックへ対抗するためには、個々の選手はさまざまな「テンポ」を駆使できるようなスキルの高さを身につけ、そしてさまざまな選手やさまざまなテンポで仕掛けられるような攻撃を生み出すのに必要なディフェンスやセット能力や戦術を整備することが求められてくるはずです。
「クイック」といわれてくくられる、ファーストテンポやマイナステンポの攻撃が消滅することはあり得ないわけです。実際ブラジルだって多用してくるわけで、今の日本ではそのような攻撃でしっかり得点をもぎとる力がないだけのことだと思います。
特効薬は無し、必殺技でも無し、成長過程
ですから、「必殺hybrid6」(ヒッサツハイブリッド6) ではないということだと思います。
バレーボールは、コート上6人で、前衛が3人後衛に3人を配置し、ブロックができるのが前衛の3人である条件があり、その中で一人も無駄にせず、いかに全員の持ち味やパフォーマンスを常時発揮させるかが勝負の分かれ道ということになるだけのことです。ブロッカーはいかなる時も3枚いるんです。そして攻撃は・・・セッター以外の選手なら全員できます。リベロがいればそれを除いた4人は攻撃ができるわけです。いたって当たり前な話です。
今回の「成果」を生かしつつ、引き続き、世界と勝負するのに必要なものの構築、まさにこれからの本当の意味での「戦術」の見直しが求められるのだろうと思いました。このあとの世界選手権を期待したいですね。
(2014年)