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Left-handed Pleyers(左利き)とバレーボール

 いろいろな意味で注目を集めている東京オリンピックの開催が予定されている中の直前に開催されているネイションズ・リーグ。
 久しぶりの国際大会であり、東京五輪への最終調整やアフター東京五輪を見越した育成など、現状の「バレーボールの今」がどうなってるかに注目しています。

 バレーボールの戦い方は、男子でアップデートが先行し、後を追いかけるように女子でそのエッセンスが取り入れられていく、という流れの中で、男子に注目しつつ、
・MBが明確に得点源としてのオフェンス機能になってきた
・OH(レフトサイド)中心から、OPなどライトサイド中心のオフェンスになってきた
・サーブの明確な戦術思考性
・トータルディフェンスの機能
・アタックのシンクロ性とバックアタック

などのゲーム様相がますます鮮明になってきました。

そして、もう一つ興味を引き付けるのが、「左利き」アタッカーの存在です。

  従来のバレーボールでは、利き手とプレーとの関係では、右利き・左利きに特性としては、右利き=OHやMB、左利き=OP(ライトサイド)やセッターで起用することが多いです。
 特にスパイクにおいては、セットされたボールの軌道が長ければ長いほど、アタッカーがボールにアジャストする認知力のウエイトが大きくなるため、左利きのOH(レフトサイド)からのスパイクや右利きのOP(ライトサイド)からのスパイクは、やや難易度が増すと言われています。

 しかし、「利き手」というのは、なかなか意図的にチョイスしたり変更できるものではないので、現状圧倒的に右利きの人間が多い中、バレーボールのプレーやポジション特性が、右利き中心に回っているのは当たり前のことです。

左利きの希少性に加わってきた優位性とは?

 現在行われているネーションズ・リーグを見ていると、これまでになく左利きの選手が見られます。男女ともにかつてのバレーボールの国際大会のよりも明らかに目立ちます。これはたまたまな現象なのでしょうか?
 しかも、従来的な、左利き=ライトサイドというものではなく、積極的にレフトサイドからのオフェンスをしている場面が見られています。ここから、現在のバレーボールの戦い方において、左利き選手の存在と機能が、意図的にチームに組み込まれているのではないかと考えています。

マチェイ・ムザイ(ポーランド)

アレクサンデル・シリフカ(ポーランド)

ヴィクトル・ポレタエフ(ロシア)

ウロシュ・コヴァチェヴィッチ(セルビア)

ジュリアン・リネール(フランス)

アレクサンドロ・ミケレット(イタリア)

サベル・カゼミ(イラン)

リンカーン・ウィリアムズ(オーストラリア)

 まずは、元来、左利きの絶対数が少ない。
 ですから、右利きよりも左利きの方がパフォーマンスを発揮しやすいとされる、OP(オポジット)やセッターなどのライトサイドに配していきます。
 しかし見る限り、現代においても、チーム内に擁する左利きの選手の数や割合は劇的に増えてはいません。コート内に2人3人と左利きのアタッカーを配しているわけでもありません。ですからオーダーの変化よりも、オフェンスのアプローチに対する考え方に変化があるのだろうと考えています。

 右利き・左利きの対比だけであれば、何もライトサイド、OP中心に左利きを配して強化をすればよいと思います。ただでさえ、数の少ない左利き選手という状況の中で、これまでも右利きの選手がOPとしてライトサイドからスパイクして得点源にななっていたことを考えると、右利きの選手をライトサイドからの攻撃に準備させながら、左利きの選手がレフトサイドからスパイクをするということに、どんな効果が考えられるのか。

 まず、考えられるのが、オーダーにおける弱点強化、フレキシブルなオーダーの編成を可能にできるという点です。
 従来、右利き中心の考え方においては、フロントオーダー、バックオーダーぞれぞれ、レセプションアタックの弱点として、ライドサイドを専門的にスパイクする選手が、逆サイドのレフト側から打つローテーションでの対策が考えられてきました。そして、それらの場面でより効果的なレセプション・アタックを発揮するために、レセプションの配置、シフトが調整さえれてきたわけです。
 しかし、左利きの選手がレフトサイドからも打つべしという概念が一般化するとなると、このレセプション・アタック時の調整作業の負担が大きく軽減されてくるのではないでしょうか?

 しかし、これだけでは、あえて左利きの選手をレフトサイドからの打数を増やすに配置する要因としては薄いような気がします。なぜなら、レセプション・アタックに限らず、トランジション・アタック時でも左利きの選手がレフトサイドからスパイクし、センターからのバックアタックにも参加しだしてきています。さらには、ポジションをOP(オポジット)ではなくOH(アウトサイドヒッター)にしているわけです。
 もはやレセプション・アタックのやりくりだけの対策ではないということになります。

左利きが優位性を発揮するのはなぜなのか?知覚と認知のスポーツ

 希少な左利き選手をあえて右利きの選手よりもスパイクする難易度の高いレフトサイドから打たせるようになった背景とは何か?を考えています。
 そこには、ライトサイドのセッターやスパイクへの適応性の確保やレセプション・アタックの戦術性以外に、「左利き」の人間が繰り出すプレーそのものの特性に優位性みたいなものがあるようです。

アンドレア・ドルーズ(アメリカ)

李 盈瑩(リ エイエイ、Yingying Li、中国)

ティヤナ・ボスコビッチ(セルビア)

マレト・バルケステイン=フロットヒュース(オランダ)

 テニスやサッカー、バレーボールにおける左利きの考察や論文を目にしたことがあります。 
 右利きも左利きも同じ人間。
 ですので、いくら希少とはいっても、左利きであることのみをもって、パフォーマンスが高いとか得意な運動をしているとは言えないようです。

 バレーボールは、ボールのスピードが速く、競技者間の距離が近いため、対峙する相手やシチュエーションへの知覚や認知、思考判断が強く求められてきます。
 そして、適切な反応をするために、相手の意図やシチュエーションから生じる次の展開を正しく読み取る必要があります。これはパフォーマンスを成功させるために重要であると考えられています。
 そこで希少な左利きの選手のプレーというのは、右利きの選手がライトサイドからスパイクするよりも優位であるだけではない、そもそも左利きの選手のパフォーマンス自体に、適合しきれていない要因があるという分析があるそうです。おそらく、めったに遭遇しない左利きの動作にアスリートが知覚的に慣れていないためです。

 サッカーやテニスなどで、左利きと右利きの攻撃のショット方向の予測と、視覚の左右差に関する最近の報告によると、左利きの行動の結果は、右利きの攻撃の結果よりもはるかに正確に予測できないというものでした。さらに、この左右のバイアスは、予測がインパクト前 (つまり、手とボールの接触前) の運動学的な手がかりに基づく必要がある場合に最も顕著であり、熟練したプレーヤーは一般的に、初心者よりも相手の利き手による影響を受けるというものでした。この研究結果は、熟練したプレーヤーほど、視覚から入ってくる情報がより頻繁に出現する行動やそのパターンに適応しているという仮定にもなるものです。

 人間と人間が対峙する、対面・対戦型のスポーツにおける左利き選手の優位性は、左利きの相手との経験が少ないプレイヤーの結果であると想定されというわけです。したがって、多くの選手(右利きの選手)は、左利きの競技者のプレー技術と戦術戦略に精通していないため、プレーヤーは右利きの選手と同じように行動するのに不利になりがちになります。
 左利きのアクションは、右利きの行動の水平反転バージョンのように見えるかもしれませんが、テニスやバレーボール、サッカーのシュートとGKなどのスポーツシーンでは、パフォーマンスはスポーツ固有の知覚スキルまたは予測スキルに依存するそうです。これらのスポーツでは、コンマ何秒の世界で、アクション・シークエンスの早い段階で利用可能な動きの情報 (たとえば、姿勢や手がかり) を利用して、対戦相手の意図を予測する能力が、パフォーマンスを成功させるために重要なのです。

 左利きの動きに対する、わずかな時間と空間認知による視覚的手がかりを読み取る能力が低下していると考えられるわけです。右利きの行動と比較して左利きの選手が繰り出すパフォーマンスを、記憶データから取り出し、動作として出力することへの困難さに直面することが考えられ、ボールに接触する前であっても、左利きということ自体が、予想されるアクションが一時的に遮られ、左利きのパフォーマンスの利点が出てくるわけです。

左利きの優位性を追いかける

・そもそも左利きの人間は少ない
・右利きの選手がライトサイドでのプレーは昔から普通に

・まずは、パフォーマンスを発揮しやすいとされるOPやセッターでの起用

・ライトサイドでプレーする左利きの選手も珍しくなくなってきた

・ライトサイドに配置された左利きの選手のプレーに適応してきた(データ等も含め)


このようなプロセス上にあるのではないかと考えています。
現在、左利きの選手がOH(アウトサイドヒッター)にあえてなっていたり、レフトサイドからの攻撃やセンターからのバックアタック等の機能を担っているのは、これまでのデータや適応性の虚をつくものではないでしょうか?

 左利きの選手の登場は、OP(オポジット)やセッターなどのライトサイドから始まり、現在、逆サイドのOH(アウトサイドヒッター)としてレフトサイドやセンター付近からのバックアタックの役割を担うようになっている。この変遷はまだまだ始まったばかりなので、この優位性は当分続くだろうと思います。しかし、データが必須な現代のゲームにおいては、左利き選手の起用も変わってくるのかもしれません。

 そうして、その先に起こり得そうなのは・・・左利きMBの登場と活躍となっていくんでしょうか?
 ボールのセットやテンポにおいて、ゼロテンポや1stテンポよりも、2ndテンポや3rdテンポのスパイクにおいての方がセッターが合わせるスキルよりもアタッカーが合わせるという点において、左利きの選手のサイドからの導入にいたっているのかもしれません。
 ゼロテンポや1stテンポとなれば、セッターに合わせるスキルが求められます。右利きのMB中心で合わせてきた中で、左利きと併用して合わせるためには、やや労力がかかるのかもしれません。

個人的に印象的だった、懐かしい時代のレフティをあげておくと、

アンドレア・サルトレッティ(イタリア)

レグラ・ベル(キューバ)

リカルド・ガルシア(ブラジル)

これからのバレーボールのゲームやプレー、戦術の変化やアップデートの中で、左利きの選手たちの役割や機能にも注目していくと何か発見があるかもしれませんね。

(2021年)