倍返しだ!スカッとジャパン!~男子バレー日本VSカナダ戦(東京2020オリンピック)
東京オリンピック2020、バレーボール男子のDAY2、日本男子代表の2戦目はカナダ戦でした。
初戦ベネズエラ戦を29年ぶりの五輪一勝に続き、今大会日本代表が予選を突破するためには、2戦目のカナダ戦も「絶対負けられない戦い」となりました。
試合結果
日本 vs カナダ 3-1 (25-23, 23-25 25-23, 25-20)
日本の男子バレーのブレイクスルーしたあとの成長曲線というべきか、生みの苦しみを乗り越えた後のセカンドウィンドというべきか・・・。
第1戦ベネズエラ戦で29年の時をかけてつかみ取ったオリンピック1勝に続き五輪2勝目を勝ち取りました。
第1セットから両チームとも慎重なゲームの入りと、拮抗した緊迫した場面が続きます。その慎重さからくる硬さもあったのか、今のバレーボールのゲーム重要要素の1つでもある「サーブ」も精彩を欠いていたように見えます。そんな中、わずかに日本代表のスパイクがアウトになり、それが相手のブレイクポイントになる場面が終盤に1つ2つ起こり、惜しくも日本代表は1セット目を落とします。しかし、観ていても力の差は感じられず、むしろこの試合は日本が勝てるのではという強い期待感を残す内容だったと思います。
2セット目以降は、日本代表のバレーボールがどんどん機能していくのがわかる展開。西田選手も調子を上げていっただけでなく、堅実にブロックタッチをとりながらトータルディフェンス機能を高める中で、ディグも鉄壁になっていきます。そんなディフェンスの安定性が、オフェンスシステムのしかけにも良い影響を与え、終始多彩な攻撃を発動して、相手カナダを翻弄。2セット目以降は、「シンプルに守り、多彩に攻める」を体現して、3セット連取し、最後はフェイクセット発動からの西田選手のスパイク決定で、オリンピック2勝目をもぎとりました。
五輪2戦目のカナダ戦に試合前からドキドキ!?
東京オリンピック2020、バレーボール日本男子代表のカナダ戦に、大きな緊張感をもって観戦を迎えた方も多かったのではないでしょうか?
カナダは世界ランキング的には日本と同じくらいの位置にあるも、2000年代になってからは、トップのブラジルやポーランド、アメリカなどに長年食らいつく中で、堅実なチーム力の進化をみせてきています。
日本男子代表との対戦も、これまでしばしばありました。
2019年のワールドカップから、日本VSカナダのゲームを追っていくと、今回のオリンピックでの対戦の重要性がわかってきます。
世界の男子バレーのなかで、日本男子バレーの、低迷という長いトンネルに光を見出すことができたのが、2019年のワールドカップ。柳田選手や石川選手などヨーロッパでの経験がチームに新しい風をふきこみ、おそらくそこにフィリップ・ブランコーチの存在もアシストもある中、ゲームモデルが世界のバレーに一歩近づいたのを感じ取ることができました。そして新星西田選手の活躍。圧巻のサービスエースシーンはカナダ戦のものでした。
2019年ワールドカップでは、日本男子代表が、何か日本のバレーボールを一気に進化させた感とともにカナダに勝利。その後コロナ禍に見舞われ世界のバレーの情勢が見えにくい中迎えた、2021年のネーションズリーグ。東京五輪直前の大会にもなったこともあり、日本代表がどれだけ海外勢と戦えるかに注目が集まりました。そんなネーションズリーグ後半に対戦したのがカナダ。私も含めておそらく多くの方が、2019年のWCでの対戦から、「勝つべし」を想定していたのではないでしょうか?
ところが、この時のカナダ戦は、日本を圧倒します。0-3のストレートで日本は破れてしまうのです。
確かに5月に負傷した西田選手を欠くなど、メンバーに動きがあったものの、メンバーの違いなどではない、ゲーム内容の面すべてにおいて、カナダは日本を圧倒しました。しかも、ゲームは一見するとカナダが何かものすごいオフェンスやブロックなど華々しい勝ち方をしているとかというわけではありませんでした。ともすると日本のパフォーマンスの調整の悪さや自滅にも見えますが、明らかにカナダの堅実な戦い方によって、日本代表が「詰み」状態に追い込まれた展開でした。
カナダの戦略的で確実に日本のシステムを壊しにかかるサーブ。多彩な攻撃を常時しかけるためのボール返球とスパイカー陣のタフな攻撃参加の運動量。そして堅実なブロックによるトータルディフェンスの機能。日本のすべてのプレーを無効化していくような、「兵糧攻め」「詰め将棋」的な戦いで、日本は完敗してしまうのです。
そして幕を開けた東京オリンピック。カナダの初戦はイタリアだったのですが、強豪イタリアに対して2セットを先取。あわよくばという展開でフルセットで敗れるも、その戦いぶりは、日本戦に向けてさらに脅威を与えるものでした。
倍返しだ!スカッとジャパン!となったカナダ戦
こうして迎えた東京オリンピックで、再び日本代表はカナダと対戦。第1セットは惜しくも落とすも、その後はむしろ観ている者にも不安を与えない、安定した戦いぶりだったと思います。VNL(ネーションズリーグ)でのストレート負けの影も一気に吹き飛ばす、ナイスゲームでした。
内容はまさに、ネーションズリーグの日本vsカナダ戦の逆を演じたような展開。
日本代表が、どんどんサーブで攻め込み相手にストレスとプレッシャーをかけていきます。これまでにない特徴は、セッター関田選手やMBの小野寺選手や山内選手もサーブで重要な役割を果たすようになったことです。
ブロックもしつこくタッチをとる、またはタッチをとっていない場合は、その後ろに待ち構えているリベロ山本選手(北海道出身だよ^^)をはじめとするフロアディフェンス陣がボールデッドを許さない守備を見せていきます。
セッターの思考も大変フレキシブルで、多彩なオフェンスを維持しつつ、その中にも得点力の安定性や確実性を盛り込んだ配球をしていきました。
ネーションズリーグ(VNL)と東京オリンピックにおける、日本vsカナダのゲームを比較していると、
・サーブ
・ブロック
・OP(オポジット)の決定力
・アタック決定率
こういったものに、ゲーム内容が色濃く反映されているのではないかと見ています。
サーブやブロックは、スタッツ上ポイントが主に数値として挙がっていますが、ダイレクトなサービスエースやキルブロックだけではない、サーブによる相手のオフェンスの無効化とアウトオブシステム誘導、確実なトランジション。同様にブロックによる自チームのディフェンスの安定化とカウンター力の向上。
ある意味、ネーションズリーグとオリンピックとで、対称的になった日本とカナダだったのではないでしょうか?
日本代表のカナダチームとの過去の対戦から紐解くと、今回の五輪での勝利は、29年ぶりの勝利だったベネズエラのインパクトと、同じくらい、むしろ私にとってはそれ以上の喜びというか賞賛を送りたい内容となりました。
長年、日本の男子バレーの国際大会を観ていて、技術や戦術がどうのと考え込みながらの観戦や、その展開にネガティブになってしまうことも多かった中。このカナダ戦は、私にとって、純粋な一ファン、一サポーターとして、1点1点に一喜一憂し、終始勝利を願い念じ、そして勝利に大きな歓喜を得た、そんな試合となりました。
カナダから学ぶべきこと
私は、近年、カナダにおけるバレーボールの取組と着実な成果に注目しています。
2000年代初頭、カナダ では、スポーツ省が「カナダ ・ スポーツ政策」を策定し、カナダ全州政府がこれを承認し、3か年の実施基本計画を発表します。続いて 2005年には、次なる2007-20012 年版実施基本計画を策定します、ここで初めて「LTAD」 (長期競技者育成計画:Long-term
athlete development)を導入したのです。その後、全州は直ちにこれを承認しただけでなく、各種競技団体も続々とこの「LTAD」 を採用することになったそうです。
カナダのバレーボールは、男女ともにこのよな取組の中で発展してきています。プロリーグなど目立ったものによるものではない、地道な取組で着実にバレーボールを進化、発展させてきているのです。
今回、オリンピックで日本代表は、カナダチームにいい内容で勝利しました。しかし、残念ながら現状、日本のバレーボール界には、カナダのような普及・育成・強化がつながった、長期的かつマクロな視点から系統立てた緻密なプランやシステムがありません。(実際は幾度となく作られたようだが、実効性も全国への浸透もない)
日本の男子バレーは、長い長い低迷期にあった、時代のアップデートに追いつけなかった思考コンセプトやゲームモデルから脱しつつありますし、個に依存したゲームモデルからの脱しようとしているようです。
しかし、日本男子バレーのアップデートは、ここ2,3年で急速に進んできた。私はこの事実を必ずしもポジティブにはとらえられません。
突貫的に整備を進めてきた日本。それに対して10年間の歳月をかけて地道に進化や発展を育んできたカナダ。日本は柳田選手から始まり、石川選手や西田選手など、今は光り輝く選手がコートに立って世界と戦っていますが、この進化はこの先、持続可能性あるものでしょうか?答えは現状難しい。
かつて、清水選手や福沢選手が日本代表を背負い、その後柳田選手が継承しつつ海外の新しい風を入れ、そして石川選手や西田選手がさらに発展させ、次世代の新しい風、高橋藍選手、大塚選手、高梨選手らも台頭してきています。
しかし、ゲームモデルはアップデートされていても、まだまだ選手の育成システムは、受動的「待ち」のシステムから脱せていません。見つける・集めるだけではいけないのです。広く、時間をかけ、エネルギーを使って、バレーボールを育てる。カナダのような取り組みを日本でも参考しなければいけないと思います。
東京五輪では、日本男子代表は、カナダに勝利した。
しかし、2024年のパリ五輪、2028年のロサンゼルス五輪、2032年のブリスベン五輪・・・日本の男子バレーは、カナダだけでなく、ポーランドやブラジルなど、外からは目には見えにくくとも、育成に本気で取り組む国々と、対等に戦えているでしょうか?
育成と称して発掘止まり、発掘と称して終始ふるい落とし、個別の育成ばかりで全体育成組織的育成にならない。いつまでも、第二、第三の石川&西田を待つようなシステムや、「第~世代」みたいな考え方をする時代から脱しないと、持続可能性ある発展と強化は行き詰ってくると思います。カナダはこれからも着実な進化をしていくと考えます。
(2021年)