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難渋しやすい上腕骨外側上顆炎の早期改善を目指す

肘関節の外側部の痛みは上腕骨外側上顆炎テニス肘とよばれ、日常生活やテニスなどのスポーツ活動の際など幅広い場面で出現しやすく、多くの人が悩まされるケガのひとつです。

テニス肘と言われていますが、実際のところ上腕骨外側上顆炎患者(554例)の原因を調査した研究では、約10%強の人がテニスが原因とされ、それ以上の約38%の人は重量物の運搬が原因ではないかと報告されています。
(引用:「上腕骨外側上顆炎の診療ガイドライン2019」)

これほど日常生活内での軽い運動負荷でも痛みが出現しやすく、疼痛のコントロールが難しいため、症状が慢性化し治療に難渋してしまうことを多くの方が経験するのではないでしょうか?

そもそも上腕骨外側上顆炎とはなにか

上腕骨外側上顆炎の主な障害部位は、手関節伸筋群のなかでも短橈側手根伸筋腱の近位付着部である。その病変は腱付着部症であり、付着部の変性に伴う腱線維の微小断裂、部分断裂や完全断裂、石灰化と明らかにされた。
(引用:「上腕骨外側上顆炎診療ガイドライン2019」)

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日常生活における把持動作や重量物の運搬、長時間のタイピング動作、スポーツ動作では、テニスにおけるバックハンドストローク時に痛みが出現するとされています。

テニス以外にもバドミントンなどラケットスポーツでの上肢障害では上腕骨外側上顆炎の発症が最も多いとされています。

システマティックレビューでは、以下のような日常生活動作にて上腕骨外側上顆炎が発症しやすいとされています。

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また、短橈側手根伸筋の炎症や微細損傷だけでなく、関節内滑膜炎滑膜ヒダの陥入輪状靭帯の断裂・狭窄なども痛みの原因になりうるとされています。

これらが原因の場合、難治性となりやすく症状の慢性化が起こりやすいと言われています。

上腕骨外側上顆炎への診断について日本整形外科学会のガイドラインでは以下のようにされています。

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Thomsen testや中指伸展テストは上腕骨外側上顆炎の診断において重要視されていますが、このテストは肘関節伸展位かつ前腕回内位で行うと陽性率が100%になると報告されており、テスト肢位などは注意して行う必要があります。

X線検査はエビデンスがないとされていますが、上腕骨外側上顆、橈骨頭骨折や関節内遊離体、関節リウマチなどの肘外側部痛を呈する疾患の除外診断を行うために有効であると考えられています。

超音波(エコー)検査は、診断において有用ではあるが、あくまでも補助的な役割であり、単独で診断に用いるものではないとされています。これは、偽陰性率が高いことや検査者の経験や機材の性能の影響を受けやすいからとされています。

また、発症直後の握力は、スポーツ復帰までの目安を類推する上でひとつ指標になるものと言われています。テニスなどスポーツ復帰を希望している患者様にはこのような予後予測をあらかじめ説明できるとより信頼関係も築けるのではないでしょうか。

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上腕骨外側上顆炎につながるさまざまな特徴

上腕骨外側上顆炎につながる要因は多岐に渡り、様々な要因が複雑に絡み合っていることがあり、それが治療を難しくしてしまう原因にもなります。

そのため、実際の臨床では短橈側手根伸筋などの解剖学的な特徴や肘関節や前腕、手関節などの運動学的な特徴と分けて考えていくことで思考を整理でき、それぞれの関係性や痛みにつながった原因などが解釈できるようになります。

|解剖学からみた特徴

解剖学的な特徴からみて発症や慢性化する要因は以下のように考えられます。

❶短橈側手根伸筋の付着位置
❷輪状靭帯との関係性
❸腕橈骨滑液包の存在

❶短橈側手根伸筋の付着位置

上腕骨外側上顆には手関節伸展筋群が密集して付着していますが、中でも短橈側手根伸筋は一番深層部を走行しています。

深層部に付着するため肘関節や前腕運動時に橈骨頭と接触しやすく、摩擦ストレスによって短橈側手根伸筋の炎症や微細損傷が引き起こされ痛みに繋がると考えられています。

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❷輪状靭帯との関係性

短橈側手根伸筋をはじめとした手関節伸展筋群は共同腱を有し、厳密には一部線維が輪状靭帯に付着していると考えられています。

そのため、これらの筋肉の伸張性低下や筋緊張の増大は輪状靱帯への牽引ストレスを生み、微細損傷や瘢痕化につながると考えられます。

輪状靱帯は前腕回内および回外時の橈骨頭の過度な動きを制動する役割があり、微細損傷や瘢痕化によって橈骨頭の異常運動が誘発され短橈側手根伸筋などへ圧迫ストレスの増大につながると考えられています。

難渋しやすい 上腕骨外側上顆炎の早期改善を目指す

❸腕橈滑液包の存在

短橈側手根伸筋と肘関節外側副靭帯の間には腕橈滑液包があり、短橈側手根伸筋の緊張が高まると腕橈滑液包への摩擦力が増大して滑液包炎につながると考えられています。

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|運動学からみた特徴

❶前腕回旋機能との関係性

前腕の回内可動性低下は上腕骨外側上顆炎へ大きな影響を与えるとされています。

遠位および近位橈尺関節のアライメント不良や可動性低下は橈骨頭のマルアライメント(アライメント異常)  、異常運動の原因となり周囲軟部組織へのメカニカルストレスにつながります。

❷橈骨頭の異常運動との関係性

前腕の回内外運動は、腕橈関節(橈骨頭)の動きが主体となって行われます。本来前腕回内運動時、橈骨頭は2mmほど前外側方向へ移動すると言われています。

しかし、前述した輪状靱帯による制動が行われにくかったり、何かしらの影響で橈骨頭が前方偏位した状態で前腕の運動が行われると過度に橈骨頭が前外方偏位して腕橈滑液包に圧縮ストレスが加わり、痛みにつながると考えられます。

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❸手指・手関節運動との関係性

物を把持して上肢を使用する際や細かい作業を行う際に、手関節および手指には安定性と巧緻性が求められ、肘関節への負担を軽減させるために担う役割は大きいとされてます。

手関節の動的安定化には舟状骨の安定性が重要とされています。この舟状骨の動的安定化には、短橈側手根伸筋や長橈側手根伸筋の機能が重要と考えられています。

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また、過度な手関節回内は舟状骨と月状骨間が離開して舟状骨の不安定性を招きます。これを抑制するには橈側の筋群だけでなく尺側手根屈筋など尺側筋群との共同収縮が求められます。

この尺側手根屈筋などの機能は遠位橈尺関節の安定化やテニスにおけるフォアハンドストローク時にも関与します。手関節全体の機能は肘関節へのメカニカルストレス軽減を目指すためにも必ず確認しておきたいものです。

上腕骨外側上顆炎へのリハビリのポイント

上腕骨外側上顆炎へのリハビリにおいてとくに理学療法評価は重要になります。この評価では大きく分けて3つのポイントがあると考えています。

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