背信者の覚え書き(後半)
何度か口に含んでみたものの、コーヒーはまだ半分残っている。しかしそれで魔物が潜む余地はもうない。鼻骨の裏をなぞるように上がっていったとりとめのない追憶は、その濃厚な気配をすっかり失い、意識が筆の進まない紙の上を漂っている。こんなことでは困るのだというすがる気持ちが、ゆっくりと定まる焦点に負けていくのを受け入れながら、フレッシュをだらしなく注ぎこんでみた。オレンジ色の灯りを平凡に映していたコーヒーは、煩雑に白濁していく瞬間にだけまどろんで、やがて金色に恍惚する。頬杖をついたまま