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カントリーやR&Bがロックンロールになった瞬間

はじめに、

ロックンロール(R&R)初めの曲と目される曲はいくつかあります。しかし、それらはそれ以前のカントリーやR&Bの曲をR&Rにアレンジしたモノです。今回は元ネタとR&Rバージョンを聴き比べて一体R&Rとは何なのかを考えてみましょう。

R&R初めの曲に関する記事として以下もご覧ください。

Rocket 88 (1951)

Ike Turner扮するJackie Brenstonが1951年にリリースしたRockt 88はアップテンポのブルースであるジャンプブルースがR&R化した初めの曲とされています。

この曲の元ネタはJimmy LigginsのCadillac Boogie (1948)でした。

聴き比べると、テンポの速さ、バックビートの強さ、ギターサウンドの攻撃性などに違いがあることが分かります。やはり激しさはR&Rの特徴のひとつでしょう。

Crazy Man Crazy (1953)

Rock Around the Clock (1954)でお馴染みのBill Haley & His Cometsがその前年である1953年にリリースしたCrazy Man, CrazyもR&R初めの曲と目される曲です。

元ネタはカントリー歌手Hank WilliamsのMove It On Over (1947)でした。

こちらもやはりバンドスタイルで演奏されたことによりビート感が強くなっています。また、Hank Williamsの歌唱は典型的な鼻にかかったカントリーの歌い方であるのに対してBill Haleyはより自然に歌っている印象を受けます。

Elvis Presleyの曲

1. That's All Right (1954)

Elvis Presleyがサン・レコードでのデビュー曲に選んだのはArthur CrudupのThat's All Right (1946)のカバーでした。以下に2つ並べるので聴き比べてみましょう。

今聞いてもかなり完成度の高いカバーです。異なる点はArthur Crudupよりエルビスの方がマイルドに歌っている点とI need you lovin'と歌詞を足している点でしょうか。いずれにせよ、白人によるR&BのカバーをR&RとするならばこれはR&R初めの曲として申し分のない出来でしょう。

2. Heartbreak Hotel (1956)

R&Rの流行はElvis PresleyのRCA移籍後初シングルであるHeartbreak Hotel (1956)の大ヒットによって決定的となります。これは疑う余地のないR&R史の転換点の一つです。

この曲は Tommy Durden and Mae Boren Axtonの制作によるオリジナル曲ですが、これにも元ネタと思われる曲があります。それが以下のRoy BrownによるHard Luck Blues (1950)です。

これが元ネタと"思われる"理由は以下のウェブサイトの情報からです。一部引用すると"[H]e said. It reminded him a little of Roy Brown’s Hard Luck Blues."「彼は(Heartbreak Hotelを聞いて)Roy BrownのHard Luck Bluesを思い出すと言った」とあります。

https://performingsongwriter.com/heartbreak-hotel/

Hard Luck Bluesに比べてHeartbreak Hotelは演奏が控えめでエルビスの歌唱が前面に押し出されています。この曲はそれほどR&Rらしさはないですが、それが功を奏したのかBillboardチャートのカントリー、R&B、ポピュラーの3部門制覇を達成しています。

3. Blue Moon of Kentucky (1954)

Elvis Presleyはサン・レコードに所属していた1954年にBill Monroe and the Bluegrass BoysのBlue Moon of Kentucky (1947)をカバーしてリリースしています。これはリリースされる前のテイクが残っており、ワルツ調のカントリー曲がどのようにR&Rになったのかを知るのに最適な曲です。続けて聞いてみましょう。

エルビス達がまずBill Monroeのバージョンに加えたアレンジはリズムをワルツからシャッフルへ変えたことでした。最後に入っている声はサム・フィリップスのもので「もうポップソングだよ」と言っています。さらに、リリースまでの間に多くのアレンジが加えられました。列挙すると(i) テンポアップ (ii) 初めのBlue Moonというコーラス (iii) 歌詞の変更 (I saidなどを加える)が主な変化でしょう。

これらはそれぞれ何を意味しているでしょうか?(i)は先にも述べた激しさを担保しています。(ii)は短い言葉を繰り返して曲を盛り上げるということになるでしょう。つまり、これもある種の激しさに貢献しています。(iii)は自然について歌うカントリー的な歌詞から個人的なことを歌うR&B的な歌詞への変化と見れるでしょう。

おわりに、

この記事ではR&Rが突然変異的に現れたのではなく、それ以前のカントリーやR&Bを下敷きにして作られたモノであることを見ました。まだまだR&Rになった曲はありますので別の機会に紹介したいと思います。






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