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谷口大智という男

彼はスベり知らずである。

もちろん

何をしてもスベらない

ではなく

何をしてもスベる

という意味でのスベり知らずである。

故に

スベることを知らない

ではなく

スベることしか知らない彼は

選手入場が始まる前、他の選手は自ずと彼のそばから離れていく。

誰も巻き込まれたくないのである。


間もなくしてRDT(ロボッツダンスチーム)のパフォーマンスが始まるその裏で自称RDT(リアルダイチ)のパフォーマンスも密かに始まる。

音楽に合わせDJになりきったかと思えば

音楽に合わせて音を回す偽物のRDT


本物のRDTに負けない(いや負けてる)ダンスパフォーマンスをスポットライトが照らされていない裏で彼は踊り出す。

たまに聞こえてくる冷笑と冷たい目線で注目を集める偽物のRDT。

そして曲の終わりにスポットライトが一瞬だけ、彼の元にも照射され、そこで決めポーズを取ったら、彼の最初の仕事が終わる。


彼はスベり知らずのパフォーマーでもある。


時にはkintoneに乗って。


時には闘牛士になって。


時にはカメラマンになって。


そして顔が大きいとみんなにイジられる。


でもそれで良いのだ。

それが彼の良いところであり、凄いところであり、彼の武器なのだから。

練習では誰よりも声を出す。

チームの雰囲気がいつもより静かな時、彼はわざとふざける

「Nice shoot, DAICHI!!!」
(ナイッシューダイチ!)
「Yeah, I know I know」
(あー知ってる、知ってる)

自分が入れたシュートを自分で褒め、自分で自分を煽てる(おだてる)。

するとどうだろう、それまで静かだった雰囲気に何かしらの変化が生まれる。

それに反応する選手もいれば、ニヤリとだけ笑う選手もいる。

でも、それで良いのだ。


平尾充庸と福澤晃平が背中で引っ張るキャプテンなら彼は声で引っ張るキャプテンなのだから。


ある日の試合で大塚健吾SCがみんなに言った言葉を私はその状況になったら、いつも頭によぎる。

「彼が試合に出たらベンチが静かになる。」

それを言われて以来、彼がベンチにいない時は私が彼の分まで声を出そうと心に決めている。


誰かがシュートを打てば彼は必ず呼応するようにベンチを立つ。

タイムアウトになれば真っ先にコートに飛び出し、コートから返ってくるチームメイトに両手を広げて迎え入れる。



そう、彼にはいつも気付かされるのだ。


「チーム」とは何かと。



彼は度胸のある男である。

それまでずっとベンチに座っていたとしても、そしてそれが拮抗した試合展開だったとしても、自分が打つと決めたら迷わずに打つことができる。

どんな状況だろうと関係ない。

自分が打つと決めたシュートを躊躇せずに打つ彼は見ていて気持ちがいい。

そして、その思いっきりの良さに思わずみんなが息を呑みながら期待する。

一片の迷いもなくシュートを放ち、それを沈める彼の度胸は実に見事。

その姿を見た私は時々、彼の度胸を羨ましく思うのである。



試合前のイベントで本物のRDTが、会場にいる人に「推しの選手にメッセージを」というコーナーがある。

時には挙手した人に、時にはランダムに人を選び、カメラと共に飛び込みインタビューをするこの企画。

私の記憶が正しければ、彼はまだ一度も推されていない。

イベントが始まる時、私たちは大体いつもウォーミングアップをしている。

ジョギングやスキップをしながら彼は

「よーし、今日こそ俺の名前が呼ばれるぞー!」

と毎回、このコーナーになると意気込みを見せる。

そして自分以外の推しが次々と推されていく度に

「55番がまだ呼ばれてないよー!」

と健気にアピールする彼。

しかし結局いつも、最後まで推されることなくそのコーナーは終えてしまう。

そうして彼はこのコーナーが終わる度に、シュンと肩を落とし、またモノクロの世界へと色褪せていくのである。


だからこれを読んでいる彼のファンにお願いしたい。

今度、会場でこのコーナーが始まった時は是非、積極的に挙手をして彼への想いを聞かせてあげてほしい。


もちろん挙手をして、スベりたくないのはわかる。

しかしシーズンが終わるまであと10試合しかない。

それまでにせめて彼に1回でもいい、会場でメッセージを届けてあげてほしい。




でないと彼はこの顔のままモノクロとなって今シーズンを終えてしまう。


ただでさえこの顔でスベっているというのに。


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