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忘却

ユリの花が怖くなくなったのは、いつからだろうか。
小さいときから、ずっと、不気味で、傷つけられそうで、怖かったんだ。
それがいつの間にか、見慣れた花になってしまった。
良い思い出などなく、贈られたこともなく、ただ、月日が経っただけだ。
だんだん視力が悪くなるように、私はこうやって、何かを怖がることを忘れるのだろうか。

子どもの頃、母に連れて行かれた家ではじめて見た、自分顔より大きな花。
噛みつかれてしまうのではないかと思って、私はそれから目を離せなかった。

新しい家のビニールのにおい、特に仲良くもない女の子と2人きりの気まずい空気、聞き慣れない母の気取った声、それらを掛け合わせたおおきな不安を、思い出させるのだった。

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