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きもの本棚⑳ 『青嵐の庭に座る』『老いてお茶を習う』

茶道の本!

リサーチのキッカケは愛読書のコミック『銀太郎さんお頼み申す』。主人公のさとりちゃんが「大寄せの茶会」に初参加する話があったのだ。着物が着られて、お抹茶が美味しくて、風情のある場を見学できる茶会って、楽しいの? 私でも、自宅で珈琲を淹れるかわりに、お茶を立てられるの? か? そんな折に時間潰しに入った書店で、興味深い本と出会った。


『青嵐の庭に座る』は森下典子さんの書籍を原作にした映画『日日是好日』のメイキング版エッセイで、タイトルの「青嵐の庭」とは映画のために作られたロケセットのことだ。なんと、樹木希林さんが演じた「武田先生」のお茶室と「つくばい」のある立派なお庭、表の路地まで、映画のために増築したセットで、場所は、樹木希林さんのお身内のお宅だという。

そして、映画で使っているお茶の道具は『日日是好日』の著者、森下典子さんの師・リアル武田先生の私物を「大事に」運び込んだのだそう。

具体的には「水指」「茶碗」「薄茶用の茶器」「濃茶の茶入れ」「仕覆」「蓋置」「お釜」「風呂先屏風」「炉縁」「花入れ」「籠」「建水」「菓子器」「菓子盆」「掛け軸」とあり、聞いただけで、目が回りそうだ。当然、お菓子や花や「茶筅」「茶巾」や「柄杓」「茶杓」などは別に用意している。なぜか「棗」には触れていない。

私が通っているカルチャーの三味線教室のお友達が、お茶をやっていて「本部に通い始めた」「厳しくて、大変」と聞いていたが、実はそれ、師範になるためのお稽古だった。その後、彼女は三味線のお教室を辞めてしまったので、練習時間が負担なのかなと思っていたけれど、そうではなくて、お金の問題なのだ。ご自宅でお教室を開くためには、たくさんのお道具が必要なはずだから、こんな、待遇は悪くなる一方なのに、月謝や参加費だけは値上げするカルチャーのお教室には、付き合ってはいられなかったのだろう。

さて、三味線とお茶びは着物を着る以外の共通点があるだろうか? 『青嵐の……』には、濃茶のくだりにこんな一文があった。

“樹木さんは「順番」を記憶したわけではないような気がする。信じがたいが、私の手前を丸ごとコピーし、再現しているように見える。”

三味線の演奏も同じで、譜面を見ながら、勘所(音の高さを示す数字)の4を2度弾いて、0を2度弾いて、4弾いて、6弾いてとやると音が繋がらず、たどたどしく聴こえる。先生の音で「チャンチャ・シ・テンテン・ドツンツ・テン」をフレーズで記憶して、カタマリの再現を試みる。どうも、わからんという方は歌舞伎座に出向いて、菊五郎劇団の杵屋巳太郎さんの幕外大薩摩を聴いてください! ああいうのね。

さて、『青嵐の……』には、話題になった樹木希林さんの着付けの印象についても書かれていた。残念ながら、自前の着物はなく、衣裳だそう。無地ものが多いが、小紋でも、使っている色数が少ないのは画面の映りを意識してのことなんだと思う。

『青嵐の……』は樹木希林さんや映画制作の現場が良くわかるが、当然、お茶については食い足りない。そこで、別な一冊を手に取った。


群ようこさんは過去に浅草で小唄を習っていて、そんなエッセイを端から読ませて貰った。『老いてお茶を習う』はお茶のお稽古の一部始終を活字に置き換えたような内容で、ぼんやり、映画を見ていただけでは帛紗さばきの手順ひとつ、追いきれなかった。文中にも自分も「覚えられるかしら」と感じたとあったし、剣道でやる型のように、使わない方の手は不自然なほどに指をピンと揃え、股関節のあたりに添えられているのが茶道家らしい姿だと、私には思えたが、群さんの場合は使わない手は「ドラえもんの手」の形で宙に浮いているそうで、群さんはそのことで悩んだり落ち込んだりしていた。

着物に関してはお母様の綿薩摩や紬をお稽古用に着用し、初釜の帯ですらリユース品だという。理由は「お抹茶がくっつくから」で、最初からは、誂えたいいお着物(一応)では、お稽古に行けないらしい。

なーんだ、と思い、私は他をあたることにした。

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