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コロコロとゴロゴロ

これは秋の雨の夜の、いぬうた市の、
きゅん君と、ぐーちゃんの家のことであります。
その時の、ぐーちゃんといえば、ひとり2階の寝室にいて、
そろそろ寝ようかしら。
と、思い、ベッドにごろんと寝転びました。
すると、部屋の片隅で、何やらコロコロと音がしたのです。
それはどうやら虫の鳴き声のようです。
部屋の中に迷い込んだコウロギでしょうか?
高く響くキレイな鳴き声です。
「あら、どこかにコウロギさんがいらっしゃるの?外は結構な雨ですものね。どうぞこんなところでよかったら、雨宿りしていって下さいな」
と、辺りを見回しますが、コウロギの姿は見当たりません。
「もしかして、隠れているおつもり?さては、この、ぐーと、かくれんぼをご希望かしら?いいわ、雨宿りの暇つぶしの一興として、ぐーが付き合って差し上げるわ」
と、言って、コウロギを探し始めました。
この狭い室内のことだし、どうせ、すぐに見つけられると、
たかを括っていた、ぐーちゃんでしたが、
どうして、どうして、鳴き声はずっとしているのに、
姿形をいつまで経っても見つけられません。
「何て、隠れ上手なコウロギさんなの?ぐーはすっかりお手上げです。ぐーは疲れたのでこれで寝ますけど、コウロギさんは雨が止むまで、ゆっくりしていって下さいな」
と、眠かったこともあって、
その日は寝ることにした、ぐーちゃんでした。
しかし、しばらく経つと、窓の外がいきなりびかっと光って、
ゴロゴロー!と物凄い音が、
いぬうた市上空に、とどろきました。
これまでもカミナリの音は聞いたことがある、
ぐーちゃんでしたが、今の雷鳴はその比ではありませんでした。
その爆音からして、家に直接、カミナリが落ちた!と思った、
ぐーちゃんは怖くて怖くてたまりません。
同時に、ぐーちゃんはあることを思いました。
さっきのコロコロという音は、コウロギでは、なくて、
カミナリの子どもだったのではないか?と。
それだと、姿を見つけられなかった理由も納得です。
「きっとそうなんだわ。今のカミナリさんは、ぐーの家にいる、お子さんを探しに来たんだわ。よりによって、何で、ぐーの家に迷い込んだのかしら?ぐーは大変迷惑です!どうでもいいから早く連れ帰って下さい!」
そう、空に向かって叫んで、ぶるぶる震えているうちに、
やがてカミナリは去って行きました。
いつの間にか、寝室内の、
コロコロという音も聞こえなくなりました。
ぐーちゃんは、ほっと胸を撫で下ろします。
「ああ。よかった。それにしても何て恐ろしい目に、ぐーは遭ってしまったのかしら。まさか、あのコロコロがカミナリさんのお子さんとは?改めて思い込みは危険ということを思い知らさせた今宵よ。それにしても、こんな非常時に、一体、きゅんは何をしているの?分かった!ビビって腰を抜かして、1階で、ぐーの助けを待っているんだわ。全くしょうがないわね」
と、ぐーちゃんが、1階に、きゅん君の様子を見に行くと、
きゅん君はまるで何事もなかったかのように、
雷鳴に負けないくらいのゴーゴーといびきをかいて、
爆睡を決め込んでおりました。
「何ていう、きゅんの鈍感力。ここまでくると、これはこれであっぱれね」
呆れ果てをとうに飛び越え、
思わず感服しざるを得なかった、ぐーちゃんです。
そして、それ以降、きゅん君の鈍感力とは裏腹に、
コウロギのコロコロという鳴き声を聞くたびに、
つい身構えてしまう、ぐーちゃんなのでした。

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