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その1粒が残せない

ある日、いぬうた市の、きゅん君と、ぐーちゃんは、
散歩途中で会った、わんこから、あるウワサを聞きました。
それはご飯のフードを毎回、1粒だけ残す、
わんこがいるということです。
そのウワサを聞いて、きゅん君と、ぐーちゃんは、
家に帰ってからも、そのことを考えます。
「不思議だよねえ。僕だったら考えられないなあ」
きゅん君は本当に理解出来ないといった様相です。
「きゅんにしてみれば、そうでしょうね。何事しろ、きゅんたら、食べ終わっても、まだないか?何処かに残ってないか?とペロペロ、お皿を舐め尽くしているもんね」
ぐーちゃんがからかうように、そう言って、
ぽつり「ほっとけ」と一言、きゅん君が返します。
「でも確かに不思議よね。もしかしてそのフードさんにワサビさんでも入っているのかしら?」
ぐーちゃんがそんな推理をしますが、
これには、きゅん君、一蹴します。
「そんな訳ないだろ。テレビ番組の罰ゲームじゃないんだから。僕が思うにもっと深い理由があるんじゃないかな」
きゅん君の目がキラッと光り、ぐーちゃんが食い付きます。
「その深い理由、ぐーに教えてちょうだい」
きゅん君がそのリクエストに答えます。
「まず、よく考えてみなよ。美味しいフードを1粒だけ残すのが、どれだけ大変か。何せ、こちらは勢いがついているんだ。それをわざわざ止めて1粒だけ残すなんて、よっぽどの意思がないと出来ないよ。その意思にはよっぽどの気持ちが裏支えしているハズ」
きゅん君、自分と比較して、
その行為がどれだけ難しいかを、力強く語ります。
しかし、ぐーちゃんには、上手く伝わってないようで、
首をかしげている、ぐーちゃんです。
きゅん君は更に説明を続けます。
「要は願掛けをしているんじゃないか?と僕は思うんだ。何か叶えたいことがあって、そのために、自分の好きなこととかを、ちょっと我慢したりして、神様にお願いする行為が願掛けだけど、それをしているんじゃないかな?」
きゅん君のこの説明に、今度は、
ぐーちゃん、理解したようで、
「ぐー、分かったわ。その方はとても叶えたいことがあって、だからフードさん1粒だけ残すのを自分に課して、神様にお願いをしていた訳ね」
と、答えると、
「その通りだ。ぐー」
と、きゅん君、ちょっと偉そうです。
その流れで、
「ぐーも、願掛けしたーい」
「僕もだ」
と、ふたりも願掛けをすることになりました。
で、おふたり、何をお願いするのですか?
「ぐー、オヤツいっぱい食べたい」
「僕もだ」
なんて、ふたり仲良く、同じお願い事で、
早速、次のご飯タイムが、願掛けを始めよう。
と、いうことになりました。
「いいか、ぐー。フードを1粒だけ残すんだぞ。くれぐれも全部食べないように。問題は、ぐーにそんな理性という名のブレーキがあるかどうか」
「きゅんこそ、気がついたら、お皿さんがとってもキレイ!何てことにならないように。何しろ、きゅんは自動食洗機さんでもあるからして」
そんな風に、お互い、アドバイスに見せかけた悪口を言い合って、
いざ、ご飯の時間が来て、1粒残しチャレンジの始まりです。
しかしというか案の定、ふたり共、
一回火のついた食欲には全く逆らえず、
ガツガツと、いざ食べ始めたら、いつしかフードは、
お皿から皆目消えていたのでした。
が、何ということでしょう。
勢い余って、こぼれたフードが、
お互い、1粒ずつだけ、皿の外に残されたのです。
これは願掛け成功というべきなのでしょうか?
ちなみに、願掛けの内容の、オヤツをいっぱい食べたい!
は、今のところ、きゅん君も、ぐーちゃんも、
叶っていないようですよ。

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