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箱は慎重に開けよう

いぬうた市に住む、きゅん君と、ぐーちゃんに、
月に一回の楽しみができました。
ママが、わんずボックスという、
いろいろなオモチャやオヤツが、
箱に入って届く定期便を、ふたりのために、
頼んでくれたのです。
それは開けてみないと分からない、
楽しいモノや美味しいモノなどが、
いっぱい入っている魔法みたいな箱が、
毎月ふたりに送られてくるのです。
初めて、その箱が送られてきた時、
それはそれは、ふたり大喜びでした。
広告内容に違わない内容の、オモチャやオヤツが、
これでもか!と入っていて、
非常に満足した、ふたりです。
なので、それから1か月が経ち、2回目が送られて来た時、
さぞかし待ち望んで、はしゃぐ、
ふたりの顔が見れるのではないだろうかと、
ママも楽しみでしたが、いざ、箱が届いた、
ふたりの反応は意外なものでした。
「また届いたわ。ここは手放しに喜びたいところだけど、なにぶん2回目ですからね。2回もいいことが続くなんて、そうそうあることじゃないわ。ここは細心の注意が必要よ」
ぐーちゃんが、真剣な顔で、きゅん君に言いました。
「ぐーの言う通りだ。昔話にも例は沢山あるよ。浦島太郎とか、舌切り雀とか、欲を出した者はロクなことにならないからね」
きゅん君も、ぐーちゃん同様に慎重な姿勢を崩しません。
「まず、注意するのはケムリよ。浦島太郎さんはそれでやられたわ。開けた途端にケムリによって年寄りになる可能性があるから、ここは飼い主に開けさせましょう。飼い主はすでにもう年寄りみたいなものだから、ケムリを浴びたとしても大して変わりはないわ」
そう、ぐーちゃんは言って、近くにいた飼い主に、
箱を開けてもらいました。
幸いなことにケムリが出てくることはなく、
箱はオープンしました。
中には前回と同じように、
ぎっしりといろんなものが入っています。
「どうやら、ケムリは大丈夫なようね」
ぐーちゃんはちょっとホッとして言いました。
しかし、きゅん君は険しい顔のままです。
「まだ分からないよ。ホラー映画などは、一瞬ホッとさせたタイミングが一番ヤバいんだよ。ズラして脅かす手口は定石さ。中のモノに手を出した瞬間にケムリが出るかも」
きゅん君が、そう言うと再び、
ぐーちゃんは顔を引き締めます。
そんなこと、ふたりが考えているとは、つゆ知らず、
飼い主は中のモノの呑気に取り出していきます。
オモチャ。オモチャ。オヤツ。オモチャ。オヤツ。
と、どんどん取り出し、床に並べていきます。
その魅惑的な数々の品々に、きゅん君も、
ぐーちゃんも、今すぐ飛びつきたい衝動を、
抑えるのに必死な様子です。
「もうダメ。ぐー。欲望を抑えきれないわ。早くあのオモチャで遊びたい!」
ぐーちゃんが、きゅん君に訴えます。
しかし、まだまだ疑り深い、きゅん君は、
「もうちょっと待て!ぐー。もうちょっとだけ様子を見よう。あのオモチャが急に毒ヘビに変わる可能性も捨てきれない」
そう言って、ぐーちゃんを制します。
しかし、そう言っている、きゅん君も、
もはや耐えきれない形相をしています。
その5分後、いつまで経っても喜ばない、
ふたりにヘソを曲げた飼い主は、
広げたオモチャやオヤツを箱に仕舞って、
何処かに隠してしまいました。
部屋には呆然とする、ふたりが残されました。
誰か、そんなふたりに教えてあげて下さい。慎重なのは結構なことですが、何事も行き過ぎは考えもの。
と、いう教訓の昔話を。

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