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いけないテーブルマジック

あら、今日は、いぬうた市に住み込んでいる、
きゅん君と、ぐーちゃんの実質的ボスである、
ママが何だか忙しそうですね。
何でもこれから、お客さんを家にお招きするそうで、
お出しする、ご飯の準備に、てんやわんやのおおわらわです。
1階のダイニングルームのテーブルには、
キレイなテーブルクロスが敷かれ、その上には、
盛り沢山の美味しそうな料理の数々が、
ここぞとばかり置かれています。
そのママの準備の様子をさっきから、よっつの目が、
抜け目なく光らせて見ています。
誰であろう、きゅん君の両目と、ぐーちゃんの両目が、
大きく見開かれて、出来た料理が、
テーブルに運ばれていく様を、隈なく追っています。
「何て、何て、美味しそうなご馳走さんたちなんでしょう!ぐーはママの作った、ご馳走さんたちに釘付けであります!」
ぐーちゃんは思わず感嘆します。
きゅん君も、
「これは何とかご相伴にあずかりたいものだね。ああ、このニオイ、たまらないよ」
と、テーブルの上の料理のニオイを嗅いでは、
うっとりしています。
「ママのことだから、きっと、ぐーにもくれるはずよ。でも問題は、ぐーがそれを待ち切れないこと」
ぐーちゃんも、テーブルの上にあるだろう、
沢山の料理を思い描きながら、今にも飛びつきそうな勢いです。
「僕の目の前には、少し足を伸ばせば、すぐに届くところにご馳走がある。これを黙って見ている足はないな」
と、きゅん君は、テーブルから、
少々垂れたテーブルクロスを、
前足で引っ張って見ました。
すると、どうでしょう。
テーブルクロスの上に乗った料理たちが、
ちょっと近寄ってきたではありませんか。
「おやややや!これは何ていうこと!もしやこのままこのクロスを引っ張れば、その上にあるご馳走は全部僕のものになるのでは?」
そこで、きゅん君はしばし考えるのでした。
「が、だがだ、もしそれを行なったら、ご馳走も落ちてくるが、ご馳走が盛ってある皿も当然落ちて、皿はガッチャリンコと割れ、ママに怒られることは必至。必然の出来事となる。それもこれまでないくらいに、ごっつ怒られることは目に見えている。さて、これはどうしたものか?」
ここで、きゅん君に葛藤が生まれました。
そんなこんなで決断出来ないでいる、きゅん君に、
ぐーちゃんの悪魔の声がささやきます。
「ごちゃごちゃと後先考えてないで、ここは一気にクロスを引っ張っちゃいなさいよ。この際、お皿さんたちの犠牲も致し方ないわ。それとも、きゅんは食べたくないの?このご馳走さんたちを。決断しなさい!きゅん!今を生きるのよ!きゅん!あとで後悔しても、もう遅いのよ!」
その、ぐーちゃんの声が、きゅん君を完全に後押しし、
「そうだ!ぐーの言う通りだ!こんなまたとないチャンスを逃してどうする?ここは欲望に忠実に生きるのが今、僕のやるべきなのだ!あとは野となれ山となれー!さあ、僕はやるぞ!そーれ、えいっ!!」
と、一気にテーブルクロスを、両前足で、
引っ張った、きゅん君です。
するとどうでしょう。
迷いを断ち切るように、素早く引っ張ったせいか、
テーブルクロスだけが見事に引き抜かれて、
奇跡的に料理はテーブルの上に、
そのまま全てキレイに残ったのです。
それはまるでマジックのような、
テーブルクロス引きでありまして、
その事実にしばらく愕然とする、きゅん君と、
ぐーちゃんなのでありました。

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