今日から27歳院卒ニート、転職活動を始めるのだ!
今日の午前7時40分頃。
事務所でいつもの掃除を終えたアライさんは、所長に呼ばれたのだ。
一昨日からアライさんの方から所長に伝えていた事柄だったのだ。
ここ2日。所長は多忙を極めていたため、改めて時間を作ってもらったのだ。
アライさんはここに来るまでに何度も口ずさみ、練習していた言葉を紡いだのだ。
「辞めさせてください」
本日より、アライさんは無職になるのだ。
27歳、院卒ニート。
これがたった今からのアライさんの肩書なのだ!
理由はいくつもあるけど、主に次の2つなのだ。
・資格試験突破への道筋が見えないため
・事務所で資格の取れないアライさんを雇う余裕はないため
1つ目は、資格試験をこれまで何度も挑戦してきたアライさんの挑戦はことごとく失敗し、今後突破するビジョンが見えなくなったのだ。
2つ目は、少人数で回している事務所では資格が取れず、また日々の業務で適性のなさが伺えるアライさんを抱える余裕は事務所にはないためなのだ。
そして、何よりアライさん自身がこの職を今後続ける気力がなくなったためなのだ。
院卒ニート。アライさんは2年間大学院に通い、この業界について研究していたのだ。
今思えば、アライさんは大学院時代からこうなる予兆があった気がするのだ。
周りとの意識の差。
これが常に付きまとった院時代だったのだ。
そして修了後、この事務所で勤め始めて4か月。
アライさんの適性のなさは僅か4か月で致命的なレベルであることが判明したのだ。
実務経験のなさ。それだけでは言い逃れできないレベルでアライさんは事務所ではお荷物だったのだ。
そして、資格勉強と仕事の両立ができる訳もなくアライサンは決断したのだ。
転職しようと。
いざ決心したら、少し仕事に対する姿勢が変わったのだ。
今まで苦痛に感じていた業務が少し楽になった気がしたのだ。むしろ普段より丁寧に、より正確に意識することができたのだ。
この現象は、今日の昼間に読んだ本の言葉を借りるならば、「会社を辞めるという選択肢を手にした」からだそうなのだ。
「辞められない」という思い込みからくる”小さな嘘”をつく必要性がなくなったからなのだ。
"小さな嘘"。それはここ4カ月。いやもっと前からアライさんが付き続けていたものなのだ。
「この職で一生食っていく」「だからこの仕事はできて当たり前」「仕事外でも常にアンテナ貼るのは当たり前」「死に物狂いで勉強しろ」
この言葉が常にまとわりついていたのだ。
でも、もういいのだ。
辞めてもいいのだ。
そう考えるようになってから、自分を責める心の声は聞こえなくなったのだ。
27歳。幸い未経験の業種に就くにはまだ間に合う年齢なのだ。
アライさんは、一昨日決断した時に既に動き始めていたのだ。
その第一歩として、転職エージェントと電話アポを今日の夜に入れといたのだ。
抱えている仕事を早々に終わらせて事務所を後にしたため、夜まで少し時間があったのだ。
アライさんは大学院の進学、進路相談並びに就職を祝ってくれた祖父の家を訪ねたのだ。
祖父は既に父経由で話が伝わっていたのだ。
アライさんから直接伝えると、祖父は「そうか」と言った後、こんな話をしてくれたのだ。
「お前が転職するにしても、何をするにしても人生設計を怠るな」
「人生は計画通りにいくとは限らない。しかしだからといって計画を立てないというのは誤りだ」
「こんな教えがある」
「1年後を楽しみたいなら庭に植物の種を植えよ
10年後を楽しみたいなら木を植えよ
30年後を楽しみたいなら会社を立ち上げよ
40年後を楽しみたいなら人を育てよ」
「わしは何事にも準備をしてきた。結婚する時も、子供を育てるときも、家を買う時も」
「だからこそお前を院に行かせてやれた」
「しかし、お前は恵まれすぎていたのかもな」
「だから今まで自分の人生に真剣に向き合わなかったんじゃないか?」
……返す言葉がなかったのだ。
「お前が学生の頃だったなら、『これはこうした方がいい』『今悩んでることはあるか?』『分からないことはあるか?』といったようにこちららから声を掛けていた」
「しかし、もうお前は27歳だ。わしも周りもこちらからはもう声は掛けない。気を遣ってな。だからお前の方から聞くんだ。分からないことがあれば、頭を下げてでも教えてもらえ。頭を下げるのは一瞬の恥だが、ずっと分からないのは一生の恥だ」
「今こうしたことを言えるのも、お前がわしのところに訪ねてきたからだ。これから何か悩んだこと、分からないことがあれば何でもいい。聞きに来なさい」
自分の将来の年表と、将来結婚する相手の年齢。将来生まれてくる子供の年齢を並べた人生計画表を宿題にアライさんは祖父の家を後にしたのだ。
家に着いた頃には電話面接の時間だったのだ。
ここで一旦話を切るのだ。
次回、転職エージェントとの電話面接について記すのだ。
ここまで読んでくれてありがとなのだ。