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【日本の冠婚葬祭~通過儀礼⑥初誕生日~】

 このブログでは、日本の儀式を見直し、少しでも後世に継承していきたいという想いで様々な行事や儀式をご紹介しています。前回は『初節句』についての回でしたので、今回は『初誕生日』について書いてみようと思います。

 前回のブログはこちら

 『初誕生日』というのは、その字の通り、赤ちゃんが生まれてから初めて迎える誕生日のことを言います。つまり、満1歳の誕生日ということです。

 その祝い方には地域によって様々な習慣があるでしょうが、非常によく行われる祝い方として、「一升餅」があります。これは、風呂敷に一升(約2kg)のお餅を包み、それを赤ちゃんに背負って歩かせるというものです。まだ歩行もおぼつかない上に、お餅が重いので直ぐに尻もちをついて泣いてしまう子も多いそうです。しかし、立ち上がれたら身を立てられる、座り込んでしまったら家にいてくれる(家を継いでくれる)、転んだら厄落としができたといわれ、いずれにしても縁起のいい解釈がなされます。その他に、背負わせるのではなく、お餅を踏ませる「餅踏み」やわざと転ばせる「転ばせ餅」という祝い方もあるそうです。いずれの場合も一升のお餅で祝うのですが「一生食べ物に困らないように」という意味が込められています。

 ところで、最近あまり使う人も少なくなってきましたが、日本では古くから「数え年」という年齢表現があります。これは、実際に生まれた日から1年後にひとつ歳をとるという考え方ではなく、毎年新年を迎えるとひとつ歳をとるという考え方による年齢表現です。

 なぜ生まれた年に既に1歳になるのかという理由は、赤ちゃんがお母さんのおなかの中で命が宿った時が本来の誕生日であり、そこからスタートになるという考え方なのです。

 新年にはその年の歳神様を各家でお迎えし、鏡餅などを供えておもてなしをします。神様にお供えしたものには、神様の魂や福が宿るといわれ、それをおすそ分けしていただくことで神様の魂(エネルギー)を体内にとり込むことができると考えられていました。特に白い玉のようなお餅を御年魂(おとしだま)と呼び、それを頂くことでその年1年を生きる力を得られると伝えられてきました。このように、1年分の生命を頂くことから「歳をとる」という考えに結びついたと言われています。

 実際に生きてきた期間を表すのは満年齢ですが、「神様と共に生きる」「神様に生きる力をいただく」という考え方が数え年という考え方を生んだのですね。

 現代でもこの数え年の習慣というのは残っています。たとえば、七五三や長寿の祝いなどは、数え年でそのお祝いを行います。(注:還暦を除く)
ちなみに、数え年という概念が日常的に使われていた時代でも、初誕生日だけは特別な日として、満年齢でお祝いをしたそうです。

 栄養面や衛生面などの点が行き届いていないような時代では、初めての誕生日を迎えられないお子さんが多くいたといわれています。それだけに、無事に初誕生日を迎えるということは、ご家族にとって、私たちが想像する以上にとても大きな意味があったことと思います。


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