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佐野テンパ恋愛物語〜その心に触れて〜第1シーズン第2話

今、podcastスタンダップコメディ第5位の
「売れない若手芸人の現状ラジオ」で
話題沸騰中のトーク企画「佐野テンパ恋愛物語〜その心に触れて〜」がネット小説になりました!!

第2話  招待状

「佐野くんの..........あったかかった。」

その言葉が脳裏に焼き付いて忘れられない。
実際、その子とはそういった関係を
持っていない。
それどころか僕自身、半年ほど
そういった行為をしていないっけ。

元カノに振られて、やけくそになり
マッチングアプリで出会った女性を、
鬼口説きモードで速攻口説いて、
ホテルに行った以来していない。

だから僕は無罪だ。
それでも僕はやっていない!!

そんなこと言ってもその女の子に
想いを寄せてる男の子は信じてくれないだろう。

こんな思いになったのはいつ以来だろう。
固まってた心が雪解けされた気分だった。
正直、昨日の一件があっても、
僕自身、その子に好意を寄せてはいない。
ただ、雪解けしてくれたのは間違いなく
あの子だった。

え?...........もしかして、僕今泣いている.......?


昔、テレビでこんなこと言ってたのを
思い出した。
例えば、目の前にコーヒーカップがあって、
コーヒーカップを持ちコーヒーを啜るとする。
これは日常的な何の変哲もない動作だが、
実は脳の何億という細胞が司令塔になり、
腕に指示を送りコーヒーカップを持ち、
口に指示を送りコーヒーを啜る。
全ての事象は脳の指示で起きている。
つまり自分の身に起きる事象は、
無意識ではなく自分の脳が自分の意志を
持って行われてる。
だから、自分自身は全てを把握しているはず。

だが、恋愛に置いてそれは例外らしい。
現に今僕が泣いてるのは、
脳の何億という細胞が指示して起きてる
事象じゃない。
僕の心が、僕の本心が自分を哀れんでるんだ。

素直になれよってか。

今のところ何も分からない。
もしかしたら心の片隅では、
その子のことが......

これ以上はやめよう。
恋愛に重きを置いて自分達がしたい漫才を
疎かにするのは良くない。
とりあえず今書いている
「相方にPCR検査でしか見たことない
 画素数が荒い梅干しの写真を
 見せて相方の唾液を増やすことにより、
 遠回しでお前の口臭いよ。」
って伝える漫才を仕上げることにするか。

ちなみに舞台で披露したらややウケだった。
2本ネタやれるライブでは1本目は、
手堅くウケて、
空気は僕らに傾いてたはずなのに、
2本目はややウケだった。
普通に相方とネタ合わせした時、
笑いが止まらなかったけどな。

やはり恋愛とお笑いはわからないものだ。

そう思い布団に潜りまどろみに襲われながら、
明日も入れ違いのシフトで会う時、
どう接すればいいのかと朧げに思った。


朝はいつも急にやってくる。
さっきまで暗かったカーテンの向こうが
明るくなってる。
体感10秒ほどの睡眠。

別になんて事ない。
いつも通りバイト先の制服に着替えて、
コーヒーを淹れてメロンパンを食べる。
目を擦りながら電車に乗り、
バイト先に向かう。
脳を使わない作業。何も思い入れもなく
こなし、ぼんやりと思考を回す。
休憩を取り、カップ焼きそばを食べる。
最近、粉末タイプのカップ焼きそばが
少ないから寂しくもある。
昔は粉末タイプのカップ焼きそばが
あったのに、
と思ってると休憩の時間が終わり、
また作業をこなす。

そしたら君が来た。
今日はにんまりとした表情を浮かべてる。
何かいい事でもあったのかな。

君は昨日のことを覚えてるだろうか?
いや、多分そんな意識して言ってなかった
だろう。

半分マニュアルに則っての言葉のように、
「おはようございます。
 今日の引継ぎなんですけど。」
って言ったら、

「今日は佐野くんに手紙を書いてきた。」

ん?

手紙か。
実はこの僕も異性から手紙貰うことが
あったりする。
女の子の綺麗な字で紡ぎだされた
言葉を見ていると、
世界もこんなに綺麗になればいいと
思ったりもする。

嬉しいものだ。
こういう時に澄ました表情で受け取ることが
出来れば大人だが、
つい「おふぅ。」と笑みが溢れてしまった。

貰った手紙は持ち帰り、いつも
podcastのラジオを録ってる
相方の三木ふとしと元相方のもちべぇの
家で見ることにした。

ちなみにこのもちべぇという人物を紹介すると
スマブラが強い。以上。

封を切り中を開けると小さなメッセージカードがあった。

~佐野くん、いつもお喋りしてくれて
 楽しいよ!
 本当にありがとうございます!〜

短いながらも綺麗に綴られた字を見ると、
心が洗われる気がした。
2回目の雪解け。

隣にいる相方の三木ふとしも興奮してるようで、ブタっ鼻を鳴らした。
相方は興奮したりするとブタっ鼻を鳴らす。
6畳の部屋に「んごぉぉお!」と鳴り響く。 

そうやって楽しんでいると、
メッセージカードの下に2枚の小さな札が
あった。

これは予想外というべきか嬉しい誤算。
見てみるとこの世の全てだと言わんばかりの
綺麗な字でこう書いてあった。





“不幸がちょっぴり幸せになる券”

一瞬音が止まったようだった。
今までの辛かった事が洗い流されるかのようだった。
それを証明するかのように、
体内から悪い物質を取り除くかのように、
涙が出た。
止まらなかった。
こんなに体内に悪い物質があったとは。
自分で言うのもなんだけど、
その瞬間では世界1綺麗な涙だったと思う。

隣でかすかに「んごぉ!」と聞こえるのは
気のせいだろうか?
もう1枚見てみると、
“絶対に成功する券”と書かれていた。

もう答えが見つかったのかもしれない。
自分の気持ちに正解が見つかった。
君が送ってくれた”招待状”

ちょっぴり幸せになれた気分だ。
なんだか今日飲むブラックコーヒーは、
ちょっと苦さと酸味の中に甘さも
感じられた。

〜続く〜

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