重曹とわたし

先日、キッチンの大掃除をした。

物事には「きっかけ」というものがある。
私にとって今回のそれは、ガスの点検だった。
そこにつながるもの、それは"恥じらい"である。

ガス点検の人がやってくる。…私の台所にその道のプロが…?
ガス屋さんから届いた点検通知のハガキを手に、台所に立ち、辺りを見渡す。
…恥ずかしい。
私の台所は、汚れていたのである。恥ずかしいほどに。
とてもガスのプロの人に見せられる台所ではない。

私は化粧もそこそこに、ギリギリ外出しても大丈夫な服装であることを玄関の鏡で確認しドラッグストアへ向かった。
店内に入ると真っ先に目当ての品を探す。そして1kgの重曹をを手に取り足早にレジへと向かった。
大掃除と言えば重曹だ。初めて買うけど。多分これさえあれば勝ったも同然だ。噂は色々と聞いている。テレビやネットとかで。だからたぶん重曹は凄いのだ。とにかくこれさえあれば全て大丈夫な気がする。1kgもあるし。使ったこと無いけど。
重曹信者と化した私は、根拠のない自信とこれからキレイになるであろう台所の未来予想図に含み笑いを浮かべながら家へと急いだ。自分の中にみなぎるやる気を感じる。

帰宅してすぐにネットで「重曹スペース台所スペース掃除」で検索をして重曹の使い方を学ぶ。そして私は台所へと向かった。午後3時。
パソコンのスピーカーから大好きなラジオを聴きながら掃除をした。
少しづつキレイになっていく様を見ているとちょっと楽しい。
でもなんだか物凄く時間がかかる…
途中お腹が空いてランチパック(たまご)を食べた。
だんだんと、楽しくなくなってきた自分に不安を覚える。
それでも私はただひたすらに必死に掃除を続けた。

そして気がつけば夜中の12時を回っていた。
なんと9時間キッチンの掃除を続けていたのだ。
今思えばあのランチパックが無かったら9時間は戦えなかっただろうと思うから、ランチパック(たまご)にはとても感謝している。
掃除を続けていた後半の記憶があまり無いが、コンロの五徳をタワシで擦るリズムに合わせて「ごとく…ごとく…」と呟いていたのを思い出す。ギリギリだった。
確かに重曹は凄かった。だけど年季の入った換気扇の奥の奥はそう簡単に許してはくれない。だが本来優秀な重曹を責めるのは筋違いだ。すべての理由は私の怠慢にあるのだから。

そしてキッチンは隅から隅までピカピカになり、記念写真を撮り、私の長い長い休日は終わった。あんなにあった重曹は残り100gほどになっていた。


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